019 奥多摩日帰りバーベキュー (下)
「おーい、バーベキューだぞー」
竹田先生が呼んでいる。
「わかったー」
関係ない龍愛が返事している。
マリアさんがドラゴンシスターズをつれてバーベキュー場に行った。僕らも行こう。
炭は竹田先生が熾してくれていた。マメだ。体育会系だから慣れているのかもしれない。
野菜や肉を網に乗せてバーベキューの始まりだ。僕らのところにもやってくる人がいる。舞さんの友達のようだ。
「あの人はどなたですか」
男子生徒が耳をそばだてている。教えてやろう。
「マリアさんだよ」
「どちらの方ですか」
「外国。今はドラゴンシスターズの保護者かな」
「親戚なんですか」
「家族」
「金髪ですけど」
「そうだね」
やっぱり二号さんは冗談ではなかったかと思った荒木田姉妹。
「ほら焼けたから食べましょうね」
ドラちゃんたちが食べ始めた。
マリアさんが世話している。いいなと見ている男子生徒。竹田先生も見ている。
竹田先生。見惚れているからほら焦げている。あせって食べ始めた。
「アチチチ」
さて、近づいて来たね。マリアさんがお先にと言ってドラゴンシスターズを連れて行った。上の道路まで走って、下から見えなくなったら転移した。
「神さん。何か山の方が変です」
円先生が心配そうだ。
「大丈夫です。マリアさんたちが行きましたので。行って見ますかと言いたいところですが、課外行動中でしたね。またの機会にしましょう」
「シン、もう一箇所。一軒家にいる」
「ジェナたちに行ってもらおう」
連絡した。
『おとたん。住んでいる人はいないよ。血が流れているけどそんなに時間はたってない。二頭家の中にいるけど、どうする?満腹みたいだよ。寝てる』
『そこから追い立てて龍愛と合流、仲間割れしたようにして始末。足跡はつけないでね。一軒家の方はローコーさんとエリザベスさんにハイカーになってもらって発見してもらう。龍愛もわかったね』
『わかった』
『マリアさん頼んだよ』
『承知しました』
ローコーさんとエリザベスさんに連絡した。眷属になったから簡単でいい。それらしい格好を整えて、観察ちゃんに転移させてもらうそうだ。
「なんだか忙しいね。早く龍愛に力をつけてもらわないと」
「ドラちゃんも大変だけど頑張ってもらいましょう」
「ドラちゃんて?」
舞さんに聞かれた。
「龍姫のあだ名」
「山の方の不穏な気配が収まらない」
円先生は勘がいい。感度がいいと言うべきか。
「ちょっとテクニックを要する事態になってしまって、時間がかかっています。応援も呼びましたのでまもなく収まるでしょう。
ローコーさんから連絡があった。
『住人、飼っていた鶏、犬も食べられてしまったようだ。死体はない』
僕は観察ちゃんからの映像を見たけど、血の跡だけだな。こちら仕様のスマホを作ってエリザベスさんに送った。すぐ110番をしている。
ドカーンと雷の音がした。誤魔化せない部分は落雷のせいにしてしまった。ドラちゃんは上手だ。
「落雷でしょうか」
「そうですね。結構近くに落ちたようです。山の天気は変わりやすい。みんなも食べ終わったようだから少し早いけど、帰りましょうか」
「竹田先生と相談して来ます」
竹田先生と荒木田先生で相談している。話がまとまらないみたいだ。
もう1発、川のそばの木に雷が落ちた。竹田先生が飛び上がった。すぐ話がまとまったようだ。
「急いでバスの中に避難しろ。雷が近い。帰るぞ」
竹田先生が吠えた。
荒木田先生は管理棟。
雷が近くに落ちたので、忘れ物がなければバーベキューのセットは片付けなくて良いということになったらしい。生徒に雷が落ちれば施設側も困る。
竹田先生がバーベキュー場を確認、円さんも管理棟から走って出て来てバスに乗った。人数を数えてすぐ出発。
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえる。しばらくするとパトカー数台とすれ違った。救急車も一台続く。
「パトカーですね」
「そうですね」
「救急車ですね」
「そうですね」
「ドラゴンシスターズは大丈夫でしょうか」
「マリアさんがついていますので大丈夫です」
円さんの追求は続く。
「何かあったんでしょうか」
「あったんでしょうね。ニュースになるんじゃないでしょうか」
「そうでしょうか」
まだ追加でパトカーが走ってくる。数台続く。遠くからサイレンの音が大きくなってくる。
「これだけパトカーが多ければニュースでしょう」
「あれ、帝都大学武蔵西南総合病院の救急車だ。薫ちゃんが手を振っている」
円さんの友達らしい。
「今のは?」
「帝都大学武蔵西南総合病院の宗形薫先生。警察の嘱託で警察医をしている」
「よくこちらが分かりましたね」
「昨日話しておきましたから。それに薫ちゃんは目がいい」
「ふうん」
眷属候補第三号発見。稲本夫妻は候補は取れている。龍愛が眷属を持てるだけの力をつけば即眷属だ。
バスは無事学園に戻って来た。生徒はそのまま帰宅、引率教員は一応職員室へ。
舞さんと三人で帰る。
「神さん、姉が色々聞いていたけどあれ何?」
「円さんは勘がいい。あれは、山の中で事件があった」
「どんな」
「この星にいなかった生き物に人が襲われた」
「どうしてわかったの?」
「僕とアカは神だから」
「え、そうなの」
「そう。他の星の神。この星の神を鍛えにきた」
「この星の神?」
「龍愛」
「龍愛ちゃんが神なの?」
「そう。ただし、幼い。だから鍛えている。だいぶ良くなったけどまだまだ」
「本当?」
「本当」
「この星にいなかった生き物を龍愛と眷属で討伐してもらわないとこの星の元々の生き物は危ない」
「えええ」
いつも別れる横道の入り口に来た。アカが舞さんに話しかけた。
「その時が来るまで思い出さないでね」
「さよなら」
「はい。またね」




