018 奥多摩日帰りバーベキュー (上)
金曜日の帰りのショートホームルーム。
竹田先生が説明を始めた。
「明日は土曜日だが日帰り懇親旅行だ。バスは校門前。9時発。クラスごとに行き先が違うから間違えるなよ。このクラスはお前達の希望により奥多摩日帰りバーベキューだ。では解散」
アカと舞さんの三人で帰る。
アカが聞いてくれる。
「舞さん。毎年懇親旅行をやっているの?」
「そう。修学旅行は2年の時だし、クラスが変わって3年になって、修学旅行もないし、みんなそれぞれ忙しくなってしまって纏まる機会もなくなるから、3年になってすぐの時にみんなで行き先を決めて日帰りで旅行する」
「いいかも」
「それで土曜日で、他の学年は休みだから担任のほかにもう一人先生が付く。小中は休みだから小学部、中学部の先生が付くこともある」
「たまーーに志願する物好きな先生もいる」
「なるほど。円先生は志願しそうだな」
「あれ、よく分かりましたね。志願しました。明日一緒です。不束な姉ですがよろしくお願いします」
「いや、僕が引き受けるわけではないですから」
「ええー。王様だから何人いてもいいんじゃないですか」
「もう増やすなと言われていますので」
「やっぱり、何人かいるんですか」
アカが面白がっている。
「そうなのよ。筆頭2号さんの次に三人もいるのよ。私が正妻」
「なんだ。冗談か」
「ふふふ」
「本当なの?」
「内緒」
「えええええ」
「それはそれとして、円さんにこれを渡してください」
神が肩に担いでいた長い袋を舞に渡した。あれ、いつから持っていたのかと舞は思った。
「木刀です。差し上げます。明日持っていくといいでしょう。流石に真剣は持っていけないでしょうが」
「いいんですか。姉は木刀は何本も持っていますが」
「手に取って貰えばすぐ分かります」
話しながらいつもの横道で神たちと別れた舞。
家についたらもう姉は帰ってきていた。
「お姉ちゃん、神さんは正妻の他に四人もいるんだって」
「なにそれ、冗談?」
「わかんない。これは冗談ではないよ。神さんがお姉ちゃんにくれるってさ」
袋を受け取った円。中身がわかった。すぐ袋から出してみる。
「これは。素晴らしい」
何回も部屋の中で素振りをしている。
「お姉ちゃん。危ない」
「ごめん、ごめん」
「明日それを持って行けって」
「わかった」
「わかるんだ」
「うん。絶妙なバランスだが、自分にはやや重い。これが支障なく振れるように鍛錬しろと言うことだろうな」
「そういう剣術家の感想じゃなくて、明日持っていけということはどうなの」
「この間、胸騒ぎがあったからね。今回もあるかもしれない。そういうことだと思う」
「へえ。そうなの」
「この木刀の材質はわからない。だが鈍より優れた武器だと思う」
「そんなの持っていて捕まらない」
「ただの木刀に見えるからね。お姉ちゃんは有段者だし、教員だから持っていても不思議ではない。そうか。竹刀も入れておこう。偽装完璧」
シンがアカに言う。
「明日は山の中だね」
「出そうね」
「龍愛たちを呼んでおくか」
「バーベキュー場は大人がいなくては」
「マリアさんとドラちゃん、ドラニちゃん、龍愛でいいか」
「予約しておきましょう。食材は持ち込みのようだからマリアさんにはこちらの食材を持って行ってもらいましょう。まだショッピングモールは開いているから頼んでおきます」
「はい。お願い」
翌日、天気は良し。バーベキュー日和だ。
学園に行くとすでにバスが待っていた。生徒が揃ったのでバスに乗った。アカ、僕、舞さんと並んで一番後ろの席に座った。
「竹田先生、前の方はよろしくお願いします」
円先生が僕たちの方に向かって来た。僕と舞さんの間に割り込んだ。
「おはようございます。王様、六人目でございます」
「おはようございます。五人で打ち止めです」
「あと二人増やせば一週間日替わりです」
前から声がかかる。
「荒木田先生、人数はいいですか」
「はい、揃ってます」
「今日の添乗員は荒木田先生だ。では出発。一時間くらいだ」
平地から川沿いの山の中の道に入って予定通り一時間でバーベキュー場に着いた。道路は山の中といってもセンターラインがある道路だから順調だった。
道路から下がったところに山小屋風の管理棟があって、バーベキューはテラスのような屋根の下でやるようだ。
竹田先生と荒木田先生は管理棟に行った。舞さんは係と一緒に食材をバスから下ろしている。手伝おう。
生徒はまだ時間が早いから思い思い河原に下りたり、近くを散歩したりしている。
食材を下ろし終わって、舞さんと三人で河原に下りてみる。河原はそんなに広くない。川が曲がっていてその内側が河原だ。水は綺麗で川は浅そうだ。
「山の中だねえ」
「出そうですね」
「なにが出るんですか」
「お化け、かな」
「また、冗談を」
荒木田先生が木刀の袋を担いで下りて来た。
「一手ご指南を」
「もう少ししたら剣の名手が来ますから相手してください」
「どなたですか」
「ああ、来た」
マリアさんがドラちゃん、ドラニちゃん、龍愛をつれて河原に下りて来た。
「あれ、ドラゴンシスターズ?」
「たまたまですね。予約がしてあった」
「本当ですか?」
「舞さん、疑ってはいけません」
「それでこちらの金髪美人さんは?」
「円さん、こちらが剣の名手のマリアさんです」
「マリアです」
「美人さんで気後れしちゃうわね。もしかして神さんの二号さん?」
「はい、そうです」
「えええ、本当なの?」
舞さん、そんな大声を出してはいけません。みんながこっちを見るでしょう。そう思うけどしょうがないか。
「端の方で一手ご指南をお願いします」
「はい。わかりました」
クラスメートは金髪美人の出現に驚いている。背が高く、ソバカスなどない綺麗な肌で、グラマラスなボディだ。顔はギリシャ彫刻のような美女だから惚けて見ている。
二人で一番端に行った。
「私は剣なので、剣に見立てて棒でいいでしょうか」
「お願いします」
円さんが木刀、マリアさんが棒だ。
円さんが構えて動かないからマリアさんが軽く打ち込む。円さんが必死に受ける。
ううん。まだまだだね。
30分ほどやっていた。
二人で戻って来た。
「とてもかないません」
「強いですよ。この星の人では最高と思います」
ドラちゃん、ドラニちゃん、龍愛が端に行った。
ドラニちゃんと龍愛が棒で打ち合いを始めた。龍愛もなかなか上手になった。振りが鋭くなった。よしよし。
「龍愛ちゃんに負けた」
「円さん、まだまだ発展途上です。これからです」
うっかり先生をつけなかったシンである。




