160 オーストラリア在住のカンナの日常 (13)
「では全員揃ったな。これより異形討伐を行う。今回は初めての型の異形だ。先陣はフリーマンに務めてもらい異形の攻撃パターンを全て引き出してもらおう。期待している」
「宗形様、勉強のためにクセナキス大僧正王補佐を連れて来ましたが、参加させても良いでしょうか」
「いいよ。妖刀オカマ遣いの補佐だね。危なくない後ろで見ていな」
龍愛様にまで覚えられてしまったと項垂れるクセナキス大僧正王補佐であった。
「では布陣だ。本部はここだ。龍愛と私。先陣はフリーマン。異形が向いているアリススプリングス方面から突入だ」
「しかし、10頭につき一度に全員でかかると過剰戦力だな。新人を中心に行こう。フリーマンの後に、今回の中心戦力を配置する。メルクリオ、橋本カンナ、秋月宙、美月七海、荻野澪央、高橋瑞夏、宮川弥生だ。後詰は塩井阿闍梨、祓川崇、姫乃愛子、常陸若子、高倉武子、劉紅花、クセナキス大僧正王補佐だ。適宜手伝え。残りの眷属は黒龍と黄龍がパラパラと異形を囲むように配置する。黒龍と黄龍は遊軍。手薄なところを塞げ。ホーク龍とホーク愛は上空から監視、適宜手伝え。ジェナとチルドレンは好きなところを攻略してくれ。戦闘開始は龍愛が合図する。黒龍、黄龍、みんなを転移させろ」
黒龍と黄龍が眷属を配置していく。ジェナとチルドレンは熱帯号と雪原号に分乗して棒を振り回している。やる気満々である。
ポニーに跨った龍愛が軍配を取り出した。ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ティランママ、ティランサン、ジェナとチルドレンの魔の森相撲大会に参加して作ったらしい。
「フリーマン、行けー」
龍愛が得意になって軍配を振る。
眷属達は龍愛の声が頭の中に聞こえる。
フリーマンが渋々前に進む。得物はオーソドックスにショートソードだ。
一番前にいた異形に話しかける。
「あのう、もしもし、異形さん。降伏しますか?」
話が通じないから異界からの侵入者なのである。フリーマンに襲いかかる。
交渉が決裂したフリーマン、ショートソードを頭に目掛けて振る。
皮が硬い。刃が通らない。舌が伸びてフリーマンの体に巻き付く。大きく開けたワニのような口に引っ張り込まれそうだ。
「うわ」
ショートソードを何回も舌に突き刺す。飲み込まれる前にやっと舌から逃れられた。
また舌の攻撃を受けてはかなわないと横に回って胴体に切り付ける。いくつかの円錐形の頂点から液体が噴出する。
「うわ」
うわを連発するフリーマン、危うく避けた。液体が地面に落ちて煙を上げる。
くるっと異形が回転し、尻尾をフリーマンの胴に叩きつけた。
「グエ」
フリーマンは元いた位置あたりまで弾き飛ばされる。
「痛ててて」
見ていた宗形、
「そんなところだな。龍愛」
「突撃ー」
軍配を高く掲げて龍愛が叫ぶ。
祓川が法螺貝を吹く。オーストラリアの地に法螺貝が響き渡る。
「あれは何だ?」
メルクリオがカンナに聞く。
「法螺貝。修験者が吹く。今は合戦開始の合図だな」
「へえ」
メルクリオ、橋本、秋月、美月、荻野、高橋、宮川が異形に突っ込んでいく。
メルクリオは忍者刀、橋本は薙刀、秋月は小太刀、美月は忍者刀。荻野、高橋、宮川は仲良く棒だ。
ジェナとチルドレンは熱帯号と雪原号に分乗し、「ムジンボーケン、ムジンボーケン、ナンデモセンメツ」と唱えながら、山を駆け降っていった。
メルクリオと橋本は、メルクリオが囮になり、異形に舌を伸ばさせ前方に注意を向けさせ、橋本が毒液が噴出されるのもかまわず後ろに走り尻尾を切断した。
あとはメルクリオと橋本で何回か首に切付け頭を落とした。
「美月、円錐形を潰そう」
秋月と美月が刀を収納し、神式SIG MPX サブマシンガンを取り出し、円錐を潰し始める。だいぶ円錐が減ったところに荻野、高橋、宮川解剖トリオがかかっていく。荻野が前にたち舌が伸びてきたところを両脇の高橋と宮川が舌を切り落とした。
痛かったのだろう、頭を振った。喉が見えたら荻野が喉を切り裂いた。
両脇から高橋と宮川が傷口に切りつける。頭が落ちた。
新人の戦いぶりを見て十分やれそうだと後詰めが前進した。
こちらは安定して討伐を続ける。
「おーい。残しておけよ」
荒木田が声をかける。
「早い者勝ちだ。未熟者め」
祓川が答える。
「そうだな」
塩井阿闍梨が言って祓川の目の前の異形の首を錫杖で落とす。
「それは俺の」
「早い者勝ちだ」
高倉は毒液を刀で受けた。荒木田と榊原が見ているとじわっと毒液を刀が吸い込んだように見える。
「おい、見たか」
「ああ」
ニタリと高倉が笑って刀身を舐めた。
次の瞬間、異形の口に刀を差し込んだ。
異形が一瞬固まって、すぐひっくり返って四肢をピクピクさせて動かなくなった。近くにいた異形が逃げる。
「あぶねえな」
「妖刀御釜よりあぶねえ」
「唐獅子に毒があるのか、妖刀に毒があるのか」
「恋人ができれば一瞬で判明するだろう」
「一瞬でお陀仏だ」
気楽な会話をしながら異形の首を落とす。
「さて、次は色男に働いてもらうか」
姫乃と常陸が後ろに目立たないようにしていたクセナキス大僧正王補佐を振り返る。
ぞぞっとした補佐。俺は見学のはずだと思った。
「いくぞ。頭をやれ。私たちは後ろに回る」
姫乃と常陸は素早く異形の後方側面にまわってしまった。
異形が補佐に向かってくる。
後方の姫乃と常陸は討伐する気はなさそうだ。異形をちょんちょんと突っついている。地味に痛いのだろう、かかってこない補佐を放っておいて、尻尾を振って向きを変えた。姫乃達は尻尾をポンと飛び上がって回避した。
尻尾が補佐の方を向いた。異形は補佐に叩きつけようと尻尾を振り上げた。補佐は目を瞑って思いっきり前に出て突きを入れた。
ズボズボ。いつかきた道である。
見ていた宗形。
「ふうむ。妖刀御釜は御釜遣いが目を瞑っていても目標を外さないのか。たいしたものだ」
感心すること頻りである。
宗形の愛ホンが鳴った。メルクリオの秘書である。
「宗形様、こちらに異形が出現しました。応援をお願いします」
すぐホーク龍が転移していった。
「わかった。すぐ誰か行かせる。何頭だ」
「4頭です。とてもかないません」
「危ないことはしなくていい。ヒット アンド ウエイで注意を引き、足止めだけでいい」
「はい。なるべく早くお願いします」
「すぐ行く」
「龍愛、こっちは黒龍と黄龍にまかせて、メルクリオとジェナ達を連れて行こう」
「わかった。みんな、もう一箇所異形が出たからあとは頼んだよ。ジェナちゃん行くよー」
「はいよー」
異形を膾に切り裂いていたジェナ達が戻ってきた。メルクリオは黄龍が連れてきた。皆でホーク龍が呼んでいる地点に転移した。
「お待たせ」
サソリ型異形4頭に4人の秘書が対している。その後ろには巫女さんが龍愛のお守りを握りしめて横一列に立っている。さらに巫女さんの壁の後ろにカンナのツアー参加者と観光客が固まっている。
異形4頭に対して准眷属の秘書4人だからかなり彼我の戦力が違う。だいぶ秘書さんはあちこち怪我をしている。それでも防衛線を突破させず、巫女さん、ツアー参加者、観光客を守りきった。
メルクリオが、
「よくやった。後ろに下がれ。龍愛様か黄龍に治療をしてもらえ」
秘書と交代でメルクリオとチルドレンが異形に当たる。ジェナ達は異形が4頭いるので大喜びだ。
宗形はすぐアントーニオ アルバーニ首相に電話した。
「首相か、宗形だ」
「な、なんでしょうか」
「頼まれたIGYO討伐はもうすぐ終わる。後片付けを始めろ。初めての形態のIGYOだ。オークションにかければ売れるだろう。いつぞやの海のIGYOの損失は取り戻せるかも知れないぞ。一体は我々の研究用に使わせてもらう。それとカタ ジュタにIGYO4頭が出現、観光客を襲っているがどうする?」
「討伐をお願いします」
「わかった。すぐ終わる。こちらも現場を誰かに見張らせろ。IGYOに触れば死ぬ。後片付けを手配しろ」
「承知しました。よろしくお願いいたします」
電話している間に熱帯号と雪原号から降りたジェナとチルドレンが3頭を切り刻んでしまった。一頭はメルクリオが苦戦していたがジェナが尻尾を切り落としたことで何とか首を落とせた。
秘書達は龍愛によくやったと褒められ手当てをしてもらった。
傷は痕を残さず消えた。
「巫女さん達もよくやった」
こちらも龍愛に褒められた。
「龍愛、アルバイト巫女さんも最低限の武器を持っていたほうがいいだろう。懐剣を渡そう」
「うん、わかった。シン様から竹水筒をもらって、懐剣を作って収納袋に入れて渡せばいいね」
「そうしてくれ。なまじ刀を渡すとケガの元だから懐剣くらいがちょうどいい。訓練は軽くしておこう」
秘書の手当ても終わったので宗形が観光客に説明する。
「もう大丈夫だ。この襲ってきたのはIGYOという。片付けは連邦政府が行う。なお今消えたのはリューア神だ」
「あちら様はメルクリオ様でしょうか。神父さんはメルクリオ様の神父様でしょうか」
「そうだ。神父はメルクリオが来るまでみんなを守りきった。神父が突破されたら巫女さんが持っているリューア神の護符がバリアを張りみんなを守っただろう」
「ありがたい」
観光客はメルクリオと神父、巫女さんに手をあわせる。巫女さんは照れている。
「そうだ。IGYOには毒があるからIGYOや流れている体液に触らないように。死ぬ」
聞いたものはビクッとした。
「ミアさん、観光はどうする?」
「もう十分です」
巫女さんもグレースもツアー参加者も頷いている。
「それじゃバスに戻っていてくれ。すぐ黒龍か黄龍を派遣する」
「わかりました」
宗形は棒で地面に「触れば死ぬ」と書いておいた。
龍愛、宗形、メルクリオ、ジェナとチルドレン、熱帯号と雪原号は転移した。
「消えた」
「皆さん、この辺の片付けは連邦政府がするそうです。解散しましょう」
ミアが言って観光客達は遠くから異形の写真を撮ったりしている。
ミア達はバスに戻った。それを見届けてからホーク龍も龍愛のところに戻った。
ちなみにグレースはこの地域のガイドの資格を持っているのだそうだ。優秀。ガイドはしなかったが。
アリススプリングスの近くの討伐現場に戻った龍愛達。
「討伐完了です」
塩井阿闍梨から報告を受けた。
宗形が「龍愛」と声をかける。
「みんなご苦労さん」
宗形が続ける。
「今回の討伐はここが10頭、カタ ジュタが4頭だ。後で手当てを振り込もう。期待してくれ。それから補佐と秘書達は他の准眷属と違って出番が多いだろう。まだ弱い。機会を見て訓練しよう」
「一番良い状態の異形一体を祓川、荒木田、榊原、荻野、高橋、宮川で自衛隊の異形倉庫に持って行け。黒龍が転移させろ」
すでに異形を選んでいたのだろう。すぐ黒龍と異形一頭と祓川達が消えた。
「次は黄龍、山城稲荷組を除いて、送ってくれ。みんなありがとう」
黄龍が該当の眷属全員を連れて転移していく。次々に下ろしていくのだろう。
黒龍が帰って来た。
「黒龍は、カタ ジュタ近くの駐車場に停まっているカンナのバスをカンナ商会の前まで送ってくれ」
黒龍がすぐ転移して行った。
「では山城稲荷組は戻ろう」
龍愛が稲本宅前に転移させた。
稲本宅でお茶を飲んで解散となった。
宗形は請求書を作って連邦政府首相に送った。黒龍が持参した。もちろんすぐ支払われた。
さてカンナの第一回豪華クルーザー乗船体験ツアーであるが、色々イベントが発生したが、それがかえって刺激になり大好評のうちに終了した。
体験者がSNSに投稿した豪華クルーザー、観光旅行、ホームステーなどの写真や動画を見てツアーの申し込みが殺到した。
転移などは参加者の記録にも記憶に残っていないので、SNSの書き込み内容は龍愛達の関係部分は一切なく、普通の体験記であるが非常に高評価である。
英語学校はツアー希望が殺到しているので先の話になってしまった。
なお、ホームステー組はみな延泊を希望した。休みも必要だから1泊延長のみだ。グレースも娘さんも仲良くなったお嬢さんとはメールのやり取りをしているようだ。
グレースは生き甲斐と実益を手に入れ、カンナは感謝されてしまった。
ついに地球編のストックが無くなってしまいました。
今後の予定ですが、各眷属達の日常シリーズを書いていきたいと思います。不定期で少し時間がかかるかも知れません。
また、地球編が一応の区切りがついたので本編の掲載を再開します。こちらもよろしくお願いします。
目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に —新大陸編—
https://ncode.syosetu.com/n7120jm/




