016 小学部のピクニック
朝練が終わって、今朝もいい天気だ。
あたし、龍姫。ドラちゃんて呼ばれた方がいいけど。今日は学校裏山にピクニックだ。3年から5年だからあたしと龍華が龍愛の面倒を見なければね。昨日の変なのがまた出るかな。出たら龍愛のいいトレーニングになるけど、他の生徒をどうやって誤魔化すかな。それが問題だな。誤魔化すところはシン様とアカ様にやってもらおう。
「龍愛、今日はお弁当を持っていくんだよ。ピクニックだよ。体操着を着ていく。リュックにお弁当を入れて、ハンカチとかティッシュとかタオルとか忘れ物はないね」
「あ、忘れた」
「弁当はおばあちゃんが作ってくれたからお礼を言うんだよ」
「うん。ありがとう」
いつも通り僕たちは学校に向かう。龍姫、龍華、龍愛はリュックを背負っている。楽しそうだ。
僕とアカは英語の授業だ。集中的に午前中やることになっている。今は会話の授業だ。外人さんが補助している。
小学校のとき外国に住んでいたという生徒が自信を持っているね。基本は上手だけど、語彙や表現が子供の英語だな。こちらに戻ってから勉強しなかったんだろうな。惜しいね。
あ、舞さんの英語に激しくケチをつけた。それじゃ言ってやろうか。
「あなたはネイティブのようだけど、小学生レベルのネイティブだ。高校生には高校生の話す英語がある。あなたの英語は今のままだと高校生くらいから上の人には相手にされなくなる。舞さんの英語はあなたから見れば確かに辿々しいように思うかもしれない。しかし、語彙は豊富、表現方法も内容も教養ある大人のものだ。教養ある大人が会話したいと思うのはあなたではなく舞さんだろう」
小学生レベルネイティブが憤慨している。こちらを向いて攻撃を始める構えだ。
お、外人さんがこっちを向いて親指を上げた。飽きていたんだろうね。子供の英会話に。外人さんが補足してくれる。
「彼の言うことは正しい」
小学生レベルネイティブが凹んだ。可哀想だから少し持ち上げてやろう。
「あなたは少し語彙や言い回しなどを勉強すればすぐ大人のネイティブだ。頑張ろう」
外人さんもヨイショする。
「彼の言うことは正しい」
そんなことをやっていたら午前中の授業は終わりになった。
さて弁当と思ったら観察ちゃんから連絡が来た。
『シン様、シン様。昨日の生き物の大きいのが2頭、小さいのが1頭、ピクニックの生徒達がお昼の時間で学級ごとに固まっている方に近づいて行くよ』
『わかった。すぐ行く』
大量に持っているんだよね。保護者代理の稲本さんの署名捺印がある早退届。
日付など必要事項を書いた。
「舞さん。午後、急用が出来たのでアカと休みます」
「はい」
急いで教室を出て、担任はどこかな。いたいた。職員室に戻る途中だ。
「先生、午後急用が出来ましたので休みます」
早退届を押し付けて廊下の角を曲がり転移。
荒木田先生はなんとなく不穏な気配を感じ取ったらしい。あたりを見回している。近くに転移。
「先生、ちょっと龍姫、龍華、龍愛を借ります。すぐ戻ります。大井先生にはよろしく」
アカが生徒たちの集団に近づいてくる3頭を少し離れた山の中に転移させる。
僕と龍姫、龍華、龍愛は少し山を降りてハイキングの連中から見えなくなったところでアカのところに転移。
さて、龍愛のトレーニングの時間だ。ドラちゃんとドラニちゃんに任せよう。
ドラちゃんが大きい二頭の周りにバリアを張った。
「龍愛、小さいのをやってごらん。昨日と同じだ」
「うん」
小さいのは昨日の兄弟かな。大きさはほとんど同じだ。殴りかかってくるのを避けて、棒を収納から取り出してポンと飛び上がって首を落とした。やればできる子だ。
観察ちゃんの解剖による知見どおり、首を落としたら即死した。
バリアの中で2頭が暴れている。子供だったのかもしれない。
2頭一遍は無理だな。一頭づつ行くか。
ドラちゃんが龍愛に指示している。
「龍愛、一頭出すからね。体が大きくなって力も強いが基本は同じだ。ただ首までいくには手数が要だろう。頑張ろう。必ず出来る」
バリアからドラニちゃんが一頭取り出す。
怒り狂って龍愛にかかっていった。さっき小さいのを倒したのを見ていたからね。
大人だからスピードが桁違いだ。龍愛が殴り飛ばされた。今度は岩に叩きつけられた。ビシッと岩から音がした。ひび割れたのだろう。
「龍愛、すぐ避けろ」
生き物は龍愛を殴りつける。龍愛が避けた。拳が岩を砕いた。なかなか力がある生き物だ。
「龍愛、切れ」
岩を殴って伸び切った腕を龍愛が切り落とした。
すぐ龍愛が岩のかけらを顔に向かって投げつけた。目に当たった。グアアと言って残った手で目を押さえた。その間に龍愛が片足を切り飛ばす。バランスを崩して倒れる。倒れる途中で首を落とした。
ドラちゃんが褒める。
「龍愛、ナイス。次行くよ」
ドラニちゃんが最後の一頭を解き放す。
龍愛に殴りかかる。龍愛は今度は避けた。上に飛びあがり落ちながらスパッと首を落とした。なかなか進歩した。
やった、やったと龍愛が飛びついてくる。
十分ヨシヨシと撫でてやる。一人で出来るようになって嬉しいのだろう。にこにこしている。僕が撫でたら次はアカに抱きついた。アカも撫でてやる。
ドラちゃんもドラニちゃんも抱きついてくるから撫でてやる。良い教官だった。
観察ちゃんが大勢やってきた。解剖ですか。そうですか。ざっくりと相棒で皮を切った。あとは観察ちゃんが世界樹の棒で切り刻んでいる。一度やっているから手際がいい。すぐ終わった。
『シン様、シン様。2頭は少し違うから、オスとメスかもしれない。どっちがオスでどっちがメスかわからないけど。またメス、オスという概念があるのかもわからない』
へえへえ、観察ちゃんは難しいことを言っている。まあ肉眼解剖には限界があるからね。え、違うの。神力透視が出来るの?へえ。拡大できるの?ああそう。ずーっと拡大できるの?物質を構成する最も小さいものまで拡大できるの?へえ。知らなかった。それも観察なの?へえ。確かに観察だけど。
『シン様、シン様、DNAがあるよ。遺伝子は単純だけど』
どこに行ってしまうのか観察ちゃん。可愛いままでいてくれ。
首をこてんと傾けている。可愛い。うん。いい子だ。
観察が終わったから死体は消した。あたりも綺麗にした。岩は、そのままでいいか。ちょっと邪魔だったし。DNAはこの星の眷属に発見してもらおう。
みんなが休んでいる近くに転移。
「荒木田先生。用は終わりました。三人を返します。ゆっくりハイキングを楽しんでください」
「はい」
荒木田先生は、神さんが龍姫たちを連れて行ってしばらくしたら不穏な気配がなくなった。何かしたのだろうと思った。しかし不穏の気配の正体がわからないから何があったかさっぱりわからない。