156 オーストラリア在住のカンナの日常 (9)
参加者を受け入れて三日目である。週末から始まって三日目。どうしたって平日である。
クルーズ船で舞が円に聞いた。
「お姉ちゃん、学校はどうしたの?」
「決まっているじゃない。有給よ。有給。大井先生も有給。クルーザーに乗ったことはないし、こんな面白い旅行はない。それにエアーズロックは内陸の真ん中あたりで他の主要観光地から離れているのよね。エアーズロックだけで一泊二日よ。それなら他に見るところがあると思ってしまう。日程が取れない日本人弾丸ツアーには不向きよね。なかなか行けないわね」
そう言われればそうだと思った舞である。
今日もバイトの巫女さんが来ている。こちらもエアーズロックに行けるので大喜び、押しかけバイト嬢になっている。なんでも一週間ごとにローテートして皆でオーストラリア観光を楽しむのだそうだ。
たまにはみんなに喜んでもらおうと龍愛と宗形である。
まだ日が登るには間がある暗いうちからグレースが参加者を乗せてバスでクルーズ船のそばまでやって来た。
クルーズ船から降りて待っていた眷属達も全員バスに乗る。
カンナツアコンさんがマイクを握った。
「さて今日も観光に出かけましょう。今日は内陸、エアーズロックです。お察しのように英語名です。今は先住民の呼び方でウルルと呼ばれています。世界遺産の登録名もウルル-カタ ジュタ国立公園です」
「ウルルは先住民の聖地です。現在は登ることはできません。したがって麓の散策になります。朝焼けのウルルを見て、周辺を散策してからもう一つの世界遺産、カタ ジュタに行きましょう」
「バスはウルルの近くまで龍愛ちゃんが転移させます」
もはや参加者も転移に驚かない。
一応運転手席にはグレースが座った。転移後急発進するといけないのでエンジンはかけない。
「では龍愛ちゃん、お願い」
カンナが頼んで龍愛が、
「いくよ。しゅっぱーつ」
バスはウルルのバス駐車場の近くに転移した。少し走ってバス駐車場に入って停車。まずは朝食の弁当を車内で食べる。お茶も付いている。
弁当を食べてからバスから全員降りた。
「では少し歩いて日の出を待ちましょう。朝日に照らされたウルルを鑑賞したら昼まで時間をとります。一周3、4時間ほどで岩を一回りできますよ。せっかくですから一周いかがですか。泉とか壁画とかあります。でもお気をつけください。トイレはほとんどありません。このバスは神式ですから完全防音無臭水洗温水洗浄便座トイレがついています。すませてからの方が安心です」
慌てて車内に戻る参加者達。
しばらくトイレ時間をとって遊歩道を朝日に照らされるウルルの鑑賞スポットまで歩く。観光客の多いとろころを避けて待っていると空全体が徐々に明るくなってくる。黒く沈んだウルルが昇る太陽の光を浴びて焦茶色から徐々に赤みを増す。スベスベした丸い岩ではないのでところどころ縦に影ができている。赤茶けた巨大な岩が姿を表す。
ほとんど何もない平原に巨岩がどんと鎮座している。
「これは聖地だね」
「聖地になるわね」
誰言うとなく声が上がる。
15分くらいしたら日が昇り切ったようで岩の色が変わらなくなった。
「ではみなさん、正午にバスまでお願いします。なおバスには黒龍と黄龍が交代で詰めています。いまからバスに戻ってもバスに乗れますのでご安心ください。私もバスにいるかな。では解散しましょう」
カンナツアコンさんの説明を聞いて参加者達が歩き始める。どうやらみんな岩を一周するようだ。
龍愛はポニーに乗って、ジェナとチルドレンとかけていった。もちろんお目付けのジュビアとアイスマンも一緒だ。
アルバイト巫女さんは舞と円、大井先生が見てくれる。ホームステーのお嬢さんたちはグレースを引っ張っていった。ホテル組も8人で固まって行動するようだ。黄龍がついていった。
空にはホーク龍とホーク愛が飛んでいる。眷属は放っておいて大丈夫だ。
不都合があればホーク龍、ホーク愛か眷属から連絡があるだろうとカンナは、フリーマン、ミアとバスに戻った。
「黒龍も行って来ていいよ」
カンナに言われて黒龍は尻尾を振りながら消えた。黄龍のところに行くのだろう。
一時間くらいしたら宗形が戻って来た。次々に眷属が戻ってくる。残りはアルバイト巫女さんと保護者、参加者とグレースだけになった。もちろん龍愛達、ホーク龍、ホーク愛、黒龍、黄龍は戻ってこない。
「暇だな」
宗形は研修医以来、基本的に仕事人間だから暇は持て余す。
「訓練しましょう」
ぶっ放し美月が神式SIG MPX サブマシンガンを撃ちたくて提案する。実弾秋月も美月と一緒に龍愛に作ってもらった神式SIG MPX サブマシンガンを取り出した。こちらも撃ちたくてしょうがない。
「そうするか。ではいくぞ」
棒を持った宗形が先頭でサブマシンガンを手にした美月と秋月が砂漠の方へ駆けていった。続く眷属も武器を携行して走る。ほぼ戦闘集団である。カンナも江梨子夫人に任せて訓練に行った。
「訓練は若い衆に任せておきましょう」
江梨子夫人はそう言って、フリーマン、ミアにコーヒーを淹れてのんびりお茶の時間である。
龍愛とジェナ達が「おやつー」といいながらバスに乗って来た。
「はいはい、待ってね」
龍愛とジェナ、チルドレンにはおやつとジュースを出した。
ジュビアとアイスマンにはコーヒーだ。
遠くからサイレンの音が聞こえて来た。だんだん近づいてくる。
「なんでしょうね」
「あれはパトカーですね」
江梨子夫人に聞かれたフリーマンが答える。
「こっちにくるようですね」
ミアが心配そうだ。




