155 オーストラリア在住のカンナの日常 (8)
食事とお昼寝を終えた龍愛一行、カンガルー、ワラビー、エミュー達が放し飼いされているエリアに行く。
「広いねえ。どこにいるんだろうね」
ドラちゃんに言われた龍愛「お姉ちゃん、すぐ呼ぶよ」
神の気配を遮断していた龍愛が少し遮断を弱める。
たちまち動物達が走って来て龍愛に寄ってくる。
一頭のワラビーが小さな前足で龍愛の足に抱きつき必死に引っ張る。他の子は抱きついたり擦り寄ったりしてくるだけだ。
「どうしたの?」
なおも引っ張るワラビー。
「龍愛、何か用があるみたいだよ」
ドラちゃんに言われた龍愛、
「用なの」
うん、とばかりにワラビーが引っ張る。
「じゃ行ってみようね」
龍愛にドラちゃん、ドラニちゃん、ジェナとチルドレンがついていった。
ワラビーがピョンピョンと跳ねて時々振り返りながら案内する。
ワラビーが人の来ない端の方の茂みの中に入っていく。ついていくと奥にワラビーが倒れていた。
「あれ、大変」
龍愛がワラビーを抱き起こし、治れ、治れと唱える。
「龍愛、体は弱っているだけで問題はないみたいだよ」
「お姉ちゃん、どうしたんだろう」
「そうだね。多分、住んでいたところから連れてこられて人が多くてストレスになって心が疲れてしまったのだろう。人のいない生息地に戻してやるといい」
「さっきの偉そうなのを連れてくるね」
ジェナとチルドレンが消えた。
園長室。ドアが開いた。子供達が入って来た。
「おや、今日は子供の体験教室はないはずだけど、どうしたんだい?」
「おじさん、偉い人?」
「そうだよ」
「ワラビーがいるよね」
「いるよ」
「一頭倒れてしまっているよ」
「それは知らなかった。どこだい?」
「触れ合える場所の端のほうの茂みの中」
「行ってみよう」
無邪気に見える子供が4、5人言いに来たので、行ってみる気になった園長である。
子供に案内されて管理棟を出る。さっきご注進に及んだ職員と出会った。
「園長、どこへ?」
「ちょうどいい。ついて来てくれ。この子達がワラビーが倒れていると教えてくれた」
はて子供が管理棟に入った様子はなかったが、子供に少し見覚えがと思いながらついていく。
動物に触れ合えるエリアに行き、端の方の茂みに案内される。
「この奥だよ」
「どれどれ」
茂みをかき分けていくとワラビーを抱いている女児がいる。
「おじさん。このワラビーは人に触られてストレスになって心が疲れてしまっているんだよ。だから元の住処に戻してやらなければこのまま死んでしまうよ」
「病気だろう」
「病気は原因を取り除いて治せる。これは心の病だよ。人が多くて心が疲れてしまった。心の問題。原因は環境だ。だから環境を変えないと治らない」
「どうしてわかる」
『あたし、神だから』
「あ、お前はさっきの」
「そうだよ。もう一度遊覧飛行をする?」
「しない」
「それでこの子と友達を元に戻すけどいい?」
「それは」
「このままだと死んじゃうよ。おじさんは動物殺しだ」
「治療を」
「出来ない」
「隔離して」
「それではさらに悪くなる。黒龍、この子達を放してきて」
黒龍が来てワラビー2頭と消えた。
「消えた」
「よかったね。動物殺しにならなくて。動物園から野に持ち込む病気はないから野生動物も安心だよ」
龍愛達が茂みから出る。
「あの二頭のお代は」
職員が聞いてきた。
「何?勝手に捕まえてきてこんなとこで病気にしておいてお代?」
カンナが割ってはいる。
「よした方がいいよ。私はオーストラリア連邦政府リューア神連絡担当終身官だ。龍愛ちゃんは神だ」
「では、本当なのでしょうか」
「そうだよ。この国の上層部は知っている。だからここに来るのにも海軍基地にクルーザーを停泊できた」
「ほら、後ろを見てみなさいよ。カンガルーがファイティングポーズをしているよ」
後ろを振り返ると放し飼いの動物が全て集まってきたようだ。園長と職員が非難されているようだ。
ごくりと唾を飲み込んだ園長。
「わかった。おい2頭減ったのはうまく処理しておけ」
ご無体なと思った職員であるが、
「わかりました」
それから龍愛はもう一度神の気配を遮断して、みんなで園を巡って集合時間の3時少し前にエントランスに戻った。参加者達も戻ってきた。全員で園を出た。
遠巻きに見ていた園長と職員、リューア神一行が園から出てくれてほっとした。
『また来るね』と頭の中に声がしてがっくりしてしまった園長と職員であった。
動物園のエントランス近くでバスに乗り、カンナ社長がマイクを握る。
「これから、子供達は遊園地のルナ パークに行きます。参加者は古い街並みが残るザ ロックスでいかがでしょうか」
「子供達と一緒でルナ パークでいいです」
参加者は龍愛、ジェナ、チルドレンと仲良くなったようだ。それに動物園で歩いたから小さい遊園地でゆっくりしたいのかもしれない。そう思ったカンナ、
「ではみんなでルナ パークに行きましょう」
バスはルナ パーク近くの路地まで龍愛が転移させ、全員バスを降りて、バスはカンナが収納、遊園地まで歩いていく。
ルナ パークは入場無料のレトロな小さな遊園地だ。華蔵寺公園遊園地のようなものか。それより狭いか。
入場は大きな顔の口の中へ入る。
入場無料なので龍愛、ジェナ、チルドレンが駆け足で口の中に入っていく。
遊具は意外と絶叫系が多い気がする。龍愛達は大喜びだ。参加者も童心に帰って龍愛達と一緒に楽しんでいる。もちろん眷属達、巫女さん達も楽しんでいる。
観覧車も小さいが、ハーバーブリッジが目の前に見えて楽しい。
日本で言えば射的のようなボール投げゲームを楽しんで、ピザやバーガーを食べた。
龍愛達はアイスクリームショップを見つけ突撃した。次は顔より大きい綿あめを見つけた。手に持ってにこにこである。
童心にかえってみなさん十分楽しんだようだ。
帰りはルナパークから出て路地でバスに乗り、海軍基地近くまで転移、海軍基地の警備の兵隊さんに敬礼されて、埠頭へ。
美月が操縦するクルーザーで湾を出てスピードを出して母港まで帰った。
バイトの巫女さんは黄龍が転移で送っていった。
グレースはバスでホテル宿泊組をホテルに送り、ホームステー組をグレースの自宅に連れ帰った。
参加者を見送ってから眷属達はナイトクルーズを楽しんだ。そして龍愛や眷属達、ジェナやチルドレンも明日参加者が見物予定のエアーズロックを見たいと言うのでクルーザーで宿泊だ。
一日が無事終わった。




