154 オーストラリア在住のカンナの日常 (7)
潜水艦の件が片付いて、船は一路シドニーを目指す。
操縦は海自出身の美月が買って出た。
潜水艦対応のロスタイムがあるのでスピードを出し、ポート・ジャクソン湾に入った。
天然のリアス式海岸入江で湾口から奥へ長い。どこまでが湾でどこから河口なのかはっきりしない。
ともあれ船上でゆっくりお茶しながらヨットの帆か貝殻が重なったような世界文化遺産のオペラハウスとハーバーブリッジを見る。
参加者の感想は、オペラハウスは写真の通りだ、観光パンフレットに載っている写真は一番見栄えがいい写真を使っているな、ハーバーブリッジは橋だとのことであった。
「龍愛ちゃん、上陸しようか」
カンナに言われて龍愛が陸の方を見渡す。
「宗形のお姉ちゃん、動物園に行くとして船はどこにつけようか」
「桟橋は混んでいるな」
舵をとっている美月、
「ガーデン アイランドの海軍基地にしましょう。知り合いがいます」
「そうか。そこにしよう。連絡してくれ」
宗形に言われて美月が連絡を始める。
「OKだそうです。指定された埠頭に向かいます」
舳先をガーデン・アイランドに向けた。
すぐ指定の埠頭に接岸した。軍艦が何隻も停泊している。
岸には制服を着た軍人さんが数人待っていた。
秋月がロープを投げるとすぐ兵隊さんが拾って繋船柱に巻きつけ船を繋留した。
美月が先に降りて将校らしい人と話をしている。話が終わったようだ。船に向かって呼びかける。
「いいよ。降りて来て」
宗形が龍愛と一緒に降りていく。その後を眷属と参加者が続いて下船する。
「龍愛のマネージャーの宗形だ。お世話になる」
「基地司令官のロビンソンです。こちらこそ。今日は某国の潜水艦を片付けていただきありがとうございました。国際問題にならずに某国に貸を作ることが出来ました」
「鯨がまだ戻ってこないのでね、鋼鉄鯨のジャンプでお客さんに楽しんでもらった。橋本が世話になっている国だからな、潜水艦の件はサービスだ」
「これから動物園ですか。バスを出しましょうか?」
「いや自前のバスがあるので大丈夫だ」
宗形の視線を追って司令が後ろを振り返るとバスが停車している。
「いつの間に。ゲートまで一緒に行きましょう。帰りは私がいなくても入れるようにしておきます」
「すまないな。街で夕食を食べてからバスで戻って来て出港する」
「承知しました。手配しておきます」
司令と一緒にゲートまで行き、司令が降りて警備の兵と話をしてゲートが通過できた。
タロンガ動物園へは橋を渡るようだ。面倒なので近くの植物園方面に行き交通量の少ない道に入りそこから小高い丘の上のタロンガ動物園エントランスの近くまで龍愛が転移させ、カンナがバスを収納。エントランスまで少し歩く。
チケットを買って入園。黒龍達は面倒なのでこっそり入園。
まずはみんなでエントランス近くのコアラ舎にコアラを見に行く。
昼寝をしているだけのコアラである。
「寝てるね」
「かわいいね」
そんなみなさんの感想。
コアラ舎を出て自由行動として昼食は各自レストランなどで食べてもらって、3時に入場したエントランスあたりに集合とした。
ちょうどお昼時である。参加者はすぐレストランに入り込んだ。
ただ大人向けのレストランだったりして、龍愛とジェナ達は木陰にシートを敷いて荒木田夫人の昼食だ。眷属達も一緒だ。
「今日のお昼はピクニック弁当ですよ」
大勢でシートを敷いてピクニックのようなことをしているので通りがかる入園者がびっくりしている。
黒龍、黄龍、ホーク龍、ホーク愛、ポニーの龍馬がピクニックの人たちに混じって遊んでいるので目を見張っている
やがて園の職員がやってきた。
「あのう、園はシートを敷いて食事をするのは構わないのですが、動物の持ち込みはご遠慮願いたい」
「そうか。ホーク愛、みんなを乗せて上空で待っていて」
宗形に言われてホーク愛が飛び立ち上空で大きくなる。ホーク龍も付き合う。
黒龍達が転移していく。
「消えた」
「これでいいか?」
「・・・。どこへ行ったのでしょう?」
「上空だ。行ってみるか?」
園の職員が上を見ると大きな鳥が二羽飛んでいる。
職員は一羽にジロッと睨まれた気がした。
「人相が、いや鳥相が悪い」
急いで走り去った。
もちろん園長にご注進である。
「ワシや犬、ポニーを連れ込んだ入園者がいます」
「ここは動物園だ。動物の持ち込みは不可だ。どんな病気を持ち込まれるかわかったものではない。直ちに退園させろ」
「それが動物は消えました」
「消えた?」
「はい、なんでも空の上とか」
「馬鹿なことを言うな。おおかた林の中にでも隠したのだろう」
「それがそうでもないようです」
「行ってみよう」
急いで現場に向かう二人。
まだ一行はシートの上で寛いでいた。
「お前達か動物を持ち込んだのは」
「動物は持ち込まないけど動物に見えるような眷属はここにいたよ」
カンナが返事する。
「動物はどんな病気を持っているかわからない。園の動物もそうかもしれない。だからお互いの安全のために動物は持ち込んではならない」
「わかったわ。ここで遊んでいたのは動物ではないから病気は持っていない。安心してね」
「生き物だ。そんなことはわからない」
「普通の生き物じゃないから」
「ではなんだというのか?」
「神の眷属」
「ふざけたことを言うな」
「ふざけてないよ。ここにいる龍愛ちゃんがこの星の神」
「たわけたことを」
ムッとした龍愛。
「それじゃホーク愛の上へ行ってもらおう」
龍愛が園長と職員をホーク愛の上へ転移させる。
「うわ。なんだ。空の上だ」
眼下には動物園、湾が見える。
必死にホーク愛の背中につかまる二人。
黒龍と黄龍がちろっとピンクの舌を出して笑った。
頭の中に先ほどの小さい子供の声が聞こえる。
『おじさん、わかった?』
「わかった。わかったから助けてくれ」
『いいよー』
ホーク愛が急降下する。
「地面に衝突する。死ぬー」
二人はふわっと元いた場所に転移させられた。加速度も消えている。
ハアハアと息をする二人。
「どう、楽しかった?」
「・・・・・」
「気がつかなくってごめんね。他の人の手前もあるから眷属には空で待機してもらうけどね」
「よ、よろしくお願いいたします」
園長と職員は逃げていった。
園長と職員の会話。
「どうしましょうか」
「どうしようもない。あれは動物ではない。さいわい空で待機してくれるそうだから何事もなく平穏な一日だ」
「ですがあの人たちは何者なのでしょうか?」
「わからん。神か悪魔だろう。調べるとやばそうだ。近づかないことだ」
「業務日誌には平穏な一日であったと書いておきます」
「そうしてくれ。神とか悪魔だとか書くと頭が疑われる。首になる」
「何事もなく園から出ていってもらいたいですね」
「ああ」




