151 オーストラリア在住のカンナの日常 (4)
151 オーストラリア在住のカンナの日常 (4)
初めてクルージングの参加者を迎える日の早朝、空港にカンナとグレースがバスで迎えに行った。バスの運転はグレースである。
バスはダンプ相手に格闘しても無傷な仕様のバスである。スクラップ寸前のバスをただ同然の価格で引き取って龍愛と黒龍、黄龍で改造した豪華神式バスである。
ただグレースの運転は急発進、急ブレーキ、急ハンドルの危ない運転である。周りの車は恐れて十分車間距離をとっている。
やばいから免許を取らなくちゃとカンナ。
それでも無事空港に着いた。
初回の参加者は定員いっぱいの16人。豪華クルーザー乗船体験+ホームステー(8名)、豪華クルーザー乗船体験+ホテル宿泊コース(8名)である。
2回目以降も同じく定員いっぱいの予約が入っている。倒産の心配は遠のいた。
カンナ達がクルーズ船の写真をプリントした旗を持って待っていると女性の集団が到着ロビーに出てくる。20代から30代の日本人である。
「こっちですよー」とカンナが声をかける。
日本人の声を聞いて安心した様子で集まってくる。小金持ちではあるが英語に難あり、海外に行こうと思っても躊躇していたお嬢さん達なのだろう。
「皆さん、10時間ほどの飛行、お疲れ様でした。私が橋本カンナです。カンナと呼んでください。こちらがホームステーホストのグレース ホワイトです。私どものツアーを選んでいただきありがとうございました。今日は予定通りレストランで全員で朝食、それからクルーザーでゆっくり周遊しながら昼頃グレートバリアーリーフへ。海で遊んだ後、夕方港着、宿泊ホテル、ホームステー先にお送りします。ではレストランはこちらです」
予約してあった空港内レストランで朝食後、港へ。
「はい。ここが私どもの会社です。荷物はバスに置いていただいて結構です。必要なものだけお持ちください。防犯装置がありますので盗難はありません」
社屋からフリーマンとミアが出てくる。
「こちら副社長のヨス フリーマン。州政府から出向中です。こちら専務のミア ブラウンです。ではみんなで行きましょう」
船の係留場所まで歩いていく。
「おー」
という声が上がる。ホームページの写真で見たよりさらに迫力があって立派な豪華クルーザーである。
乗船すると案内のスタッフは巫女さんである。
実は、スタッフが足りないので山城稲荷神社の巫女さんにアルバイトを依頼した。
時差もほとんど無し、クルーザーに乗ったことがないのですぐ行きたいとなった。送り迎えはクロちゃんかキイちゃんである。船上に直接転移である。帰りも船上から転移。上陸はしない。密入国の証拠は何もない。
ともあれクルーザーは出航した。揺れも少なく快調に沿岸を進む。
観光スポットを巡り昼食どきになりグレートバリアリーフで停泊。
昼食は巫女さんが配膳してくれた。カンナが収納から出した豪華つくりたての食事である。今日は洋食であった。きちんとカトラリー類も並んでいる。
カンナが説明する。
「働いている人も一緒に食べさせていただきます。従業員とご存じの山城稲荷神社の巫女さんです」
巫女さんが一人一人にお守りを配る。
「お守りは龍愛神の加護つきです。皆さんの身を守ってくれるでしょう」
日本人乗客である。文句を言う人はいない。ありがたくもらった。
「では乾杯しましょう」
ワインが注がれる。
「乾杯」
和やかに昼食となった。料理は好評である。荒木田夫人の料理だ。
「泊まっていただくにはスタッフが足りずクルーザーへの宿泊は行っていませんが、昼食後船室のベッドでお休みになることはできますのでどうぞご利用ください」
昼食後、デッキに出たり、船室で休んだりする。のんびりとした時間が過ぎる。お客さんは日々の喧騒を離れてゆらゆらとクルーザーにゆられ大満足である。
2時ごろみんな集まってきた。
「では、これから二時間ほど自由時間です。海で泳ぐことも可能です。本船は停泊したままで、ボートで浅瀬に行きます。ライフセーバーの副社長がボートに乗っています。なにかあればすぐボートに引き上げますのでご安心ください」
「シュノーケリングの希望者は4名受け付けます。ボートで浅いところまで行き、二人一組で40分楽しみ、交代です。2名は船に残っていてください。ボートに乗っていても構いませんが疲れるかもしれません。船で待っているほうがいいでしょう。希望者は申し出てください。救命胴衣も配ります。つけてください。意外と危ないです」
シュノーケリングの希望者は4名だけだった。
巫女さん達も水着になった。海で泳ぐらしい。乗客の半数くらいが泳ぐことを希望し、船から下ろした大きなボートに移った。
会社側で船に残ったのはグレース船長とミア専務である。カンナとフリーマン副社長は体力的に全く問題がないので乗客と一緒に海である。
カンナはシュノーケリング希望者に救命胴衣をつけさせボートに乗せて浅瀬に行った。
マスクとシュノーケルに水を入れて水を抜いてもらうなどマスク、シュノーケルの扱いを十分練習して、常に二人一組で行動する事、相手が見えなくなったらそれは遭難、最悪死んでいるかもしれない、しかしパニックになると自分も死ぬ、相手が見えなくなったらただ浮いるのが一番助かる可能性があると脅かしてから二人を連れて海に入る。
珊瑚の林を色とりどりの小魚が海上の波の反射のキラキラの光の中で踊る。
時々ボートにつかまり「きれー」という参加者のお嬢さんの感想である。
40分は瞬く間に過ぎ去り、まだまだというお嬢さんをボートに引き上げ、クルーザーまで連行し、次の二人と交代。
大満足のシュノーケリング参加者であった。
海水浴組も海底が見える透明な海に感動し問題なくクルーザーに戻ってきた。
全員グレートバリアリーフを堪能した。
「お疲れ様でした。ではこれから帰港しますが、本船はだいぶスピードが出せます。すこし外洋に出てスピードを楽しんでいただいてから帰りましょう。明日はシドニー観光をしましょう」
グレース船長が船を動かし始める。陸地から離れてスピードを上げる。乗客は初めてのスピードに大歓声だ。「新幹線よりも速ーい」という声も聞こえる。急に変針したりジェットコースター並みの操船である。他の船では絶対できない。
もしかするとグレースはスピード狂ではないかとカンナは思った。
楽しんだあとはゆっくりと帰港。
その間に巫女さんアルバイトが船室の清掃、リネン類の交換をしてくれた。港に着く前にクロちゃんが来て転移で山城稲荷神社に帰って行った。
アルバイト代は神社に帰って宗形から手渡し。龍愛基金からなので税務署から追及されることもない。クルーザーに乗って遊べてホクホクの巫女さんバイトである。
帰港後、カンナとグレースがバスで参加者をホテルまで送っていく。カンナはホテル組と一緒にホテルまで行き、荷物をバスから下ろし宿泊手続きをして会社に帰った。
グレースは簡単な英語で参加者たちと会話しながら自宅までバスで戻る。
バスの戻る音を聞きつけて、自宅前にグレースの娘と孫が出ていた。挨拶して荷物と一緒に家に入った。
手続きはないので双方気楽である。グレースが身振りと簡単な英語で部屋に案内し、部屋の説明をして、グレースの娘が作った食事を一緒に食べた。家庭料理ではあるが丁寧に作られたのは参加者にもわかる。お礼を言って食後はグレースの孫と一緒に遊んで、就寝となった。
なお、グレースのバスの運転に疑問を持った橋本、後日乗用車とバスの運転免許をとりに役所に行った。窓口に行くと名前を聞いただけですぐ書類が用意され、知識問題のテストに合格、運転の練習は昼間、夜間それぞれ一回やったらすべてやったことになり、技能試験は満点で合格、その他諸々の試験に合格、免許が発行された。
何かあると神罰が下るという噂のリューア神一味のハシモトである。無事にハシモトに出ていってもらえて万々歳の役人であった。
橋本は永住権を持っているので国民と同じ免許である。乗用車とバスの免許を取得した。
私はシュノーケリングをやったことはありません。
私がシュノーケリングについて本文中に書いたことを信じてはいけません。死んでしまうかも。




