150 オーストラリア在住のカンナの日常 (3)
「箔付けはもう一押しかな。ヨッちゃんに州政府首相の動画を頼もう」
カンナから首相インタビュー申込を頼まれたヨス フリーマン、渋々首相秘書官に電話する。
「あのう、州政府の下っ端公務員のヨス フリーマンと申します。首相のインタビューを希望している会社がありますが」
「会社に利用されるようなインタビューには首相は出ない」
「そこをなんとか」
「会社の宣伝になるようなインタビューに出ると切りがないし、会社に何かあったら首相も追及される」
「それが会社の代表はカンナ ハシモトです。断ると言うことでしたらそれでいいですけど」
「待て、待て。お前はあのヨス フリーマンか。ハシモトはあの悪名高いハシモトか」
「悪名高いかどうかは知りませんが、はいそうです。今度クルージングの商売を始めましてそのホームページに首相の動画が欲しいとのことです」
「・・・聞いてくる。折り返す」
「はい。お願いします」
すぐ電話がかかってきた。
「承知したとのことだ。予定を合わせて収録してくれ」
「わかりました。日程は連絡調整と言うことで話しておきます」
「なお、首相から、死にたくないからよろしく頼むとのことだ」
「大丈夫です。ハシモトはそんなに過激ではありません」
どうだかと秘書は思った。
州政府首相に連邦政府から電話がかかってきた。連邦政府首相からである。
「わかっていると思うが、決してハシモトの機嫌を損ねるな。特にムナカタが危ない。ムナカタはリューア神の傀儡師という噂がある。出てきたら最大限の接待だ。この国の命運は君の双肩にかかっている」
電話が切れた。連邦政府首相にも誰からか連絡がいったらしい。それにしても連邦政府首相はリューア関係の情報収集に熱心だ。噂話も収集しているようだ。
冷や汗の州政府首相。ムナカタ来るな、ムナカタ来るなと神に祈った。あれ、神はどの神だと悩む首相であった。
ヨッちゃんから連絡をもらったカンナ、ほぼ出来上がったホームページとパンフレットをヨッちゃんにメールで資料として送った。
それから舞に連絡して、撮影機材持ち込みで来てもらった。撮影は舞とルーシー、インタビュアーは第三者?のタイソーである。もちろん密入国である。
首相のスケジュールは空いているとのことだったのでカンナはすぐヨス フリーマン達を連れて撮影に出かけた。
首相秘書に案内されて首相の部屋へ。
首相はソファに座って待っていた。
「こんにちは、ヨス フリーマンです。今日はありがとうございます」
「こんにちは、ハシモトです。今日はよろしくお願いします」
ハシモトには苦い思い出がある首相であったが顔に出さず、
「こちらこそよろしくお願いします」
「撮影はこちらの舞とルーシー、インタビュアーはタイソーさんです」
「全く見たことのない機材ですね」
「はい。龍愛製の神式撮影機材一式です」
「しんしきとは?」
「神が作ったという意味です。世界に一セットしかありません」
やばそうと思った首相、話をそらす。
「タイソーさんはどちらの放送局でしょうか」
「英国政府に勤めています」
どこかで聞いた英国のタイソーの名前。思い出してしまった。
「あ、あのタイソー様でしょうか」
「リューア様の眷属のタイソーです」
顔色が悪くなってきた首相。
室内に数人出現した。
面白いから見に来た龍愛と宗形である。黒龍と黄龍もついて来た。
「龍愛だよ。面白そうだから宗形のお姉ちゃんと来てみた」
リューア神と傀儡師ムナカタが出現してほとんど泣きそうな首相である。
「セット完了したよ」
舞の言葉に首相が見ると撮影機材が宙に浮いている。カメラがぐるっと首相の周りを回る。三脚などはない。
「では始めるよ。舞、首相の顔色が悪いね」
「カンナ、大丈夫。その辺は出力の時自動で調整するから。今首相の音声と三次元データを取ったから最悪喋らなくても動画は作れる」
勝手に自分が喋る動画を想像してしまった首相、ぜひ自分で話さなくてはと思った。
「タイソーさん、お願いね」
タイソーのインタビューはなかなか上手だ。カンナの会社を直接誉めることはしない。
州の観光スポットの紹介、クルーズ会社が派手な宣伝をしているが、最も大切なのは観光客のみなさんの安全である。シュノーケリングは意外と危険だ。ベテランの補助が必要ということなどを言わせて、さらに会社の信用も大事というような内容である。一切カンナ商会の話は出てこない。一般的な観光案内に見える。
「はい、カット」
舞の掛け声で収録は終わった。首相は汗びっしょりである。
「なかなか良かったじゃないか。さすが首相」
宗形が持ち上げる。
持ち上げられて青くなる首相。
「お、おい。お茶」
秘書に助けを求める首相。秘書は急いで出て行った。
「いらないわ。これからカンナの事務所に寄るから。そうだ出演料を渡そう」
「滅相もございません。ムナカタ様。インタビューを受けさせていただき光栄です」
焦って断る首相。
「そうだ。船は少し直したんだけど、登録はそのままでいいよね」
「はい。結構です」
「あ、名前だけ変えとくね。RYUA GOZABUNE Ⅰ長いね。R-GOZABUNE I にしとくね」
もちろん首相はカンナの言うなりである。
「それじゃカンナあれ渡して」
宗形に言われてカンナが収納より何か取り出す。
「はいはい。龍愛ちゃんの加護付きお守り。どうぞ」
「ありがたき幸せ」
首相がお守りを押し戴いて顔をあげるとだれもいなかった。手にはお守りがある。秘書がワゴンにお茶とお茶菓子を乗せてやってきた。
「あれ、皆さんは?」
「消えた」
「本当に神様なのでしょうか」
「ああ、リューア神とムナカタ悪魔だ。せっかくだ、お茶にしよう」
首相は、インタビューが無事に終わったので連邦政府首相に報告し、しみじみと互いの無事を確認しあい、お茶にするのであった。
龍愛一行は事務所に転移、ミア事務員がびっくりしたが、すぐ首相インタビュービデオをはめ込んでホームページをアップした。日本語版である。
龍愛たちはホームステーのグレースの自宅を確認して日本に帰って行った。
募集は二コース定員16名。週末から3泊4日。3日休みで回すことにした。
募集コース
豪華クルーザー乗船体験+ホームステー(定員8名)
豪華クルーザー乗船体験+ホテル宿泊コース(定員8名)
希望があればシュノーケリング可能。ただし安全確保のため一度に二名。交代で行う。
ホームステーは女性のみ。
ホームステーは最長次の予約まで延長可。延長希望の場合はホストファミリーと相談が必要。
豪華クルーザーを使用してのクルージング。素潜り世界記録保持者がついてのシュノーケリング。
ホームステー先は一軒家、ホストファミリーは奥さん風の人(メルボルン大卒)と娘さん(シドニー大卒)とお孫さんの写真が載っている。女性だけである。そして大人は高学歴である。
ネットで調べれば素潜り世界記録保持者は確かにカンナ ハシモトと出てくる。
ホームページには州政府首相のインタビューが載っている。
カンナ商会は聞いたことがないが世界記録保持者がやっていて州政府も認知している商会とわかる。
料金は高いが日本人が経営していてしかも州政府お墨付きのようなので安心。
それに飛行機は羽田から直行便である。英語が多少不安でも乗り換えなしなので大丈夫そうである。
そう思った豪華クルーザーに乗ったことがない小金持ちの日本のお嬢さん、言葉の敷居が低いのでぐらっときて申し込んだ。
日本から初めはパラパラと申し込みがくるだけだったがすぐ申し込みが殺到した。
三ヶ月分の申し込みを受けたが各回定員一杯の16名がすぐ埋まってしまった。全部日本人のお嬢さんである。
大忙しになった事務所、すぐヨッちゃんを副社長にした。なお、役所から出向扱いである。役所に籍があった方がいろいろと便利なのである。
橋本がフリーマンの賃金を半分持ってやると州政府首相に交渉した。
首相はハシモトが賃金を半分持ってやると恩着せがましいが、実態は賃金半分出せということなので渋っていたが、それじゃ交渉が難航しているから以後の交渉相手は宗形さんにすると言われ真っ青になり、橋本の言うがままである。
役所とほぼ関係ない仕事に就くフリーマンの賃金を半分払うことになってしまって意気消沈の首相である。




