149 オーストラリア在住のカンナの日常 (2)
船はゆっくり進んで港を出た。他の船が見当たらないところまで進んだ。
「では前方を見て左右を見てレーダーを見て何もいないのを確認してゆっくり加速してみよう」
レーダーも新しくなっていた。いや全部新しくなっていた。レーダーはアンテナの回転に従って画面を書き換えていくのだが、このレーダー画面にはそれがない。
「それね。龍愛仕様なのよ。常時監視。ついでに三次元ボタンを押すと平面に上下が加わる。浮かび上がった球体の真ん中が本船。その船に乗ったことにすれば自分の周り中がレーダー画面だ」
「全方向常時監視。平面だけ表示でも実は上下も監視している。何かあれば警告が出る。海中にIGYOがいてもわかる。プラスを押せば詳細に、マイナスを押せば広域」
「はあ」
「三次元にして詳細にすれば海中の魚1匹1匹も見える。そうだ釣りをしてもいいかもね。便利でしょう?まあ観光だけでいいか。楽だし」
「・・・はい」
「前方、左右確認してスピードを出してみよう」
少しスピードを出すグレース。
「なかなかいいよ。もっと出してみよう」
グンと加速度を感じて船が加速する。
「あわわわ」
「大丈夫周りをみてさらに加速」
高速道を走る車の速度を超えたと思ったグレース。さらに加速していく。
「はい、300ノットね。もっと出るけどこのくらいにしておこう」
300ノットで走行。
「舵を切ってみよう。レーダーを確認してね。面舵いっぱい」
減速せず舵を切るグレース。普通なら船体バラバラだが傾くだけで転覆しない。船体は軋みもしない。
「はい上手。陸が見えたわ。舵を戻して減速」
息が荒いグレース。
「港に戻ろう」
ゆっくり港に戻る。
「接岸してみよう。レスポンスがいいから簡単だ」
船は重いから慣性で動く。だから予測して操船しなければならない。ところがこの船は慣性無視で指示通り即座に動く。操縦は簡単である。車の車庫入れより簡単かもしれない。
無事接岸した。
「できた」
「簡単でしょう?」
「驚きました。車を運転しているようなものです」
「そうでしょう。そうでしょう。これからクルーズの募集をかける。募集期間中に私は船の免許を取ってくる。そしたら万全だ」
船から降りて会社の社屋へ戻る。
ミアがパンフレットの素案を作っていた。
「いいんじゃない。あとはグレースさんちの写真だね。グレースさんの写真と娘さんの写真も載せておこう。私たちがお世話しますとか書いておこう」
「それと船の写真。実際にクルーズして撮った方がいいね。シュノーケリング希望者用に私が船から飛び込むところの写真、海中の写真なども入れよう」
「家の写真を撮るなら改装してからお願いします。娘にも話しておきます」
「それじゃそちらは準備が出来次第だな」
ハシモトに家まで送ってもらってグレースは忙しくなった。
失業中のグレース、しばらくは旦那の保険金があるがいつまでも収入がなければ消えていってしまう。働き口を探そうと思っても倒産会社副社長を採用するところはなかった。アルバイトではあるが仕事にありつけてホッとした。家も広いからホームステーも問題ない。
すぐ娘に連絡した。娘も心配していたから母親が仕事につけて喜んでいた。娘は一人娘である。仕事が休みのときは進んで手伝ってくれることになった。孫は女の子二人で元々預かることが多かったので孫を連れてきて手伝いに来ても問題はない。
グレースはすぐホームステー用の部屋の改装を手配した。ベッド、家具、リネン類も発注した。改装が終わったらカンナが子犬二頭と一緒に来て耐震補強をしていった。なぜだか家全体が新しくなった。
カンナは早速船舶免許を取りに行った。船舶免許の管轄は州政府である。
商用の船舶免許取得手続きに行ったら窓口の係、「商用は書類がいろいろあって、研修もあって難しいんだよね」と言いながらふとハシモトを見て、書類の申請者がカンナ ハシモトと確認して慌てて手続き書類を受け取った。添付書類も内容は見たふりをしておしまい。カンナ ハシモトは悪名高い有名人であった。
上司もハシモトの名前を見て目を見開いて、早く終わりにしてもらえと指示。
かくしてカンナはすでに講習が終わり頃の講習、研修会に押し込まれた。1回出たら修了となった。関わりたくないから早く免許を取ってここに来ないでくれとの態度が見え見えである。
ペーパー試験は龍愛眷属用AIにより満点。実技も龍愛の眷属になって運動神経が抜群になったので合格、免許申請後、すぐ免許が発行された。
船の内外の写真、観光スポットに停泊中の船の写真、海中の写真、ホームステー先の家の写真などをいれて日本語ホームページを作った。
「ううん、ちょっと信用が足りないわね。フリーダイビングの記録でも作るか」
すぐカンナはフリーダイビングのコンスタントウェイト・ウィズアウト・フィン(CNF)で150メートルの記録を出した。地元テレビ局の中継付きである。ごまかしはない。
あまり記録を出すと疑われるから程々の記録であると自分では思った。しかしフィンなしの素足でフィンをつけた男の記録を簡単に塗り替えてしまった脅威の記録である。
ダイビングはしないがホームページ、パンフレットに記載した。




