144 メルクリオ統括大僧正王 外国訪問する (15)
三日ほど不眠不休でヒマラヤ山脈ピクニックを楽しんだ?初級組、宗形に水をもらい、ワンワン印の効果がなくなり足が止まり、ふと朝焼けの空を見るとホーク愛が飛んでくる。迎えに来たらしい。
宗形が、「みなさんお疲れさんでした。ではピクニックはこれで終了します。ホーク愛に乗ってください」
ホーク愛が稜線に降りてきた。恐る恐る背中に登る初級組。
「では行きます」
宗形が声をかけるとホーク愛は羽ばたきもせず音もなく上昇を始める。宗形もバイクに乗って一緒に上昇する。
初級組が下を見るとピクニックした山々が眼下に見える。ふっとヒマラヤ山脈が消えた。眼下は草原に変わった。パラソルが見える。ホーク愛はパラソルのそばに下降し、20メートルくらいの高度になったら頭と尻尾を軸にしてくるっと回った。
プリシラと神父はふわっと着地する。宗形はバイクで下降途中バイクから飛び降り空中でバイクを収納しスタッと着地した。初級組はべちゃっと地面に叩きつけられる。
「生きてますか。あら、だいぶ丈夫になったようですね。死なずに済みました。足から降りた人はだいぶ身長が縮んだようね」
魔女がそう言いながら骨折を治した。
エスポーサの治療が終わって宗形。
「服がだいぶ傷んだようだ。服を渡すので着替えてくれ」
訓練生がふと見ると建物が目の前にある。
服を渡されて着替えて出てきた。忍者服である。
「ではこれから剣の練習に入る。皆初心者のようなので剣の握り方からだな。プリシラさんと神父さんが懇切丁寧に教えてくれる。こう持って、こう構えて、こう振るという、ゴードン流教授方法でないから安心してくれ」
「その前に朝食だ。今日は魔物のステーキだ。地球人が食べると死ぬだろうが、みんなはワンワン印を飲んでも死ななかったから痺れるくらいか。フグ刺しと思えばいい。あたれば死ぬ」
宗形に脅されたがお腹はペコペコである。パラソルの下のテーブルに並べられている弁当を手にとった。蓋を開けると魔肉ステーキ弁当である。見栄えよし匂いよしの危険弁当だ。
みんなが一番弱そうなフリーマンと秘書達を睨みつける。先に食べて毒味せよと言わんばかりの強烈な視線である。
「食べればいいんでしょう、食べれば」
やけの下っ端フリーマンと秘書達。
食べ始めて
「うっ」
フリーマンと秘書たちが胸を押さえた。
手に持った弁当を思わず体から離す毒味結果待ちの訓練生。
「うっ、うまい」
フリーマンと秘書達。
わざとやったなと思いながら急いで食べ始める訓練生であった。
「ご存知のように異形に地球の武器は通用しない。シン様か龍愛の作った武器のみが通用する。西洋の剣も異形を切らなければ意味がない。したがってみんなに渡した剣は、剣であっても切る前提の仕様になっている。切るには刃筋を立てなければならない。刃が動く方向に刃を立てる。動く方向に対して刃の角度がつくと切った時刃が滑る。結果滑った刃で同士討ち、自分を傷つける、地面を切るなど思わぬものに切りつけることになる。刀も同様に刃筋を立てなければならない」
「それに腰が引けたら切れない。異形を切れなければ自分が危ない。腰をいれて切る。では朝食を食べ終わったようだからお茶を飲んで頑張りましょう」
宗形のありがたいお言葉の最後の取ってつけたような丁寧な頑張りましょうが大いに危ないと思う訓練生であったが、圧に負けてお茶を飲む。
飲んだらすぐ訓練が始まってしまった。
金髪のママさん風プリシラさんと神父さん達が剣の持ち方を教えてくれる。刀組は追加で来てくれた二百人衆が担当だ。
基本的な刀剣の持ち方、構え、振り方を教えたら師範たちはパラソルのそばにテーブルを出し談笑を始めてしまった。
ダメ出しは石礫である。相当痛い。
「剣を振るのは初めてですな」
ギュンター ヘンケルがクンラート ゼーマンに話しかける。
「さよう。ヨーロッパでは日本と違い、剣は廃れてしまいましたからな」
「せっかく日本にいるのだから剣道場にでも通っておけば良かったな」
「たしかに。我々の国では銃器が発達して剣は顧みられなくなってしまった。フェンシングがスポーツとして残っただけだ」
「日本はよく残りましたね」
「刀の存在なのか、武士を捨て切れなかったのか」
「武士道かもしれん」
「なるほど」
石礫が飛んできて二人に当たった。
「「痛い」」
「しかしスミス殿、なかなか様になっているようですが」
ニコライ ニコラエヴィチ ロトチェンコがウィリアム スミスに話しかける。
「常日頃ステッキを携行して暴漢の一人や二人ステッキで黙らせておりますので。そちらは傘でしょうか。うっかり傘の先がすれ違った人に刺さってしまうとか」
「まあそういう粗忽者もいるかもしれません」
「「わはははは」」
石礫が飛んできた。
「ストーカーおじさん改め副社長さん、異形討伐の時は欠勤か、出張かどっちかな」
橋本カンナがヨス フリーマンに話しかける。
「会社としては欠勤でしょうか、でも社長と副社長なのでそこはどうでもいいのではないでしょうか」
「そうだよね。出かけている時は専務に頑張って貰えばいいな」
「もう一人くらい事務員を入れたらどうでしょうか」
「倒産船会社の社長の奥さんは働きそうにないからなあ」
「奥さんは高学歴と思いました。英語学校のネイティブ英語オンリー臨時講師などはいかがでしょうか」
「そうねえ。それはいいかも。どうせ彼女を雇うところは他にないでしょう。だから給料は値切れるから安上がりよね。生徒相手ではサボることもできないだろうし」
「失業者の救済にもなり、なかなか良い案と思います」
あ、いけねえ。副社長のつもりになってしまった。項垂れるフリーマンである。
石礫が飛んできた。
「おい、デブ狐仮面はこれを振るってIGYOをやっつけたのか」
コンスタンティノス クセナキス大僧正王補佐が秘書に話しかける。
「はい、そのようです」
「化け物だな」
「化け物でなくては化け物が退治できないのではないでしょうか」
「それもそうか。おれたちは小化けか?」
「多分」
石礫が飛んできた。
「俺たちは依頼する方から依頼される方にジョブチェンジするのか?」
ミッチェル トムソンがギルベルト ハーゲンに話しかける。
「どうだろうか。今くらいじゃIGYOに少し傷をつけられるくらいだろう」
「そうだな。初級訓練生では難しいだろう」
「それに俺たちは准眷属だからな。力は落ちるだろう」
「近くにIGYOが出たら眷属のIGYOバスターズ本隊が来るまで足止めが出来ればいいか」
「確かに」
石礫が飛んできた。
「この剣はシン様が強化する前の伝家の宝刀にそっくりだな」
「私のも小ぶりだけどデザインはそっくりです」
「ルーシーが持っている剣はもはや神剣だからこっちを伝家の宝刀にするか」
「よろしいんじゃないでしょうか。このごろルーシーは神剣をいつも持ち歩いていますので、この剣を伝家の宝刀にすれば我が屋敷に飾って置けます。それにリューア様がお造りになったのでこれは形はそっくりですが複製ではなく本物です。我が家の宝刀にふさわしいでしょう」
「よし、これが我がハント家の伝家の宝刀だ」
石礫は飛んでこなかった。




