140 メルクリオ統括大僧正王 外国訪問する (11)
大僧正王補佐と秘書がメルクリオのそばに行く。
「メルクリオ様、神は、神は顕現された?そして我らの神は?」
「自分で確かめるのがよかろう。あちらが紹介のあったリューア神様だ」
「行っていいのでしょうか」
「大丈夫だ。今日はそういう会だ」
補佐と秘書が龍愛に近づく。
「あの、あの、リューア様」
「なあに。コンちゃん」
「リューア様は神様なのでしょうか」
「そうだよ。この星の神だ」
「私と秘書が信じていた神は?」
「知らない。妄想じゃない」
「妄想・・・」
「だって誰も見たことはないでしょう。でっちあげた妄想よ。あたしはこの星の神だからね。あたしの他にこの星に神はいない。でもあたしは寛容だからあたしの他に神がいると思っても一向に構わないけどね」
「メルクリオ様は・・・」
「あたしの眷属。この頃よくやっている。この間は飛行型異形を一羽退治したよ。秘書も二人で被害拡大を防いだ」
「それでは私が今まで信じていた神は、我が国は?」
「いいの、いいの。気にすることはない。今まで通りで構わない。役に立っているでしょう。日本では結婚式とか」
「私は何を信じたらいいのでしょうか」
「信じられるものを信じたら。あたしは一向に構わないよ。心境の、違った、信教の自由っていうんだってさ」
「転移は神の御技と思いました。そしてここも神域と思いました。私は教会で神域と感じたことはありません」
「私は、私たちは、棄教しなければならないのでしょうか」
「そっちの宗教は知らない」
宗形マネージャーが続ける。
「信じていた神がいないとわかったのだろう。いないものを信じていたのだから間違っていたと考えればいいのではないか」
「間違っていた?」
「そう。間違っていたのだから正しい道に進めばいい。そこに棄教なんて小難しいことはない」
「それでは我が国は、私はどうしたらいいのでしょう」
メルクリオがやってきた。
「気にすることはない。我が国もリューア様の役に立っている」
「それに今急に我が国を解体したら大混乱だ。ゆっくりやればいいさ。とりあえず、他宗教、他の宗教を信じている者を誹謗中傷しない。他派閥を誹謗中傷しないというところから始めればいい。狂信者がいるから難しいがの。おまえさんたちは狂信者に近かったが、本物の神様を知って狂信から我に返った。狂信者は我に返る人とますます狂信の度合いを深める人がいるだろう。後者は難しいな。今までの自分を捨てるのに耐えられないから全ての理解を棚上げして今まで信じていた神に固執してしまうだろう」
「私もそちらに行きそうでしたが、顕現された神様を拝して流石に今まで信じていた神は違うのでは無いかと思うようになりました」
「それでいい。何事もゆっくりだ。心にリューア様を、今の宗教はリューア様を支える方便と考えればいい」
「方便。それもなんだか」
宗形マネージャーが問答を引き取る。
「間違っていたということを気にするなら本地垂迹という都合の良い説もある」
「Honjisuijyakuとは何でしょう?」
「仏などが日本の様々な神になりすますという説だ」
「なりすましですか?」
「そうだ。詐欺のような説だ」
「誠に」
「で、本地垂迹を応用すれば良い」
「どの様にでしょうか」
「あんたらが信じていた神は実は龍愛だったと思えば深刻に間違っていたとか棄教などと悩まなくて済むだろう」
「それは詐欺では?」
「マネーロンダリングも龍愛の名の下に行えばただの浄化よ。本地垂迹詐欺も龍愛が絡めば神の方便だ。正しい道に至る一つの道だ」
「なるほど。そう考えれば気が楽になります」
「そうだろう。日本人は融通無碍だから本地垂迹などというなりすまし説を編み出せた」
「ほんじすいじゃくでいいんじゃない」
龍愛がわかっているのかいないのかそう発言する。
「Honjisuijyaku説に乗ってみます」
補佐とその秘書は納得したようだ。Honjisuijyaku、Honjisuijyakuと呟いて首を縦に振っている。
さすが宗教者、神から言われると信じてしまうらしい。
間違っていたとか棄教とか重く考えなくて済む。気持ちが楽になった補佐と秘書であった。一件落着である。
それにしてもメルクリオとその秘書は最初からかの宗教を信じていなかったのではないかと宗形と近くにいた人たちは思った。
北の大国対外情報庁(TJC)長官ニコライ ニコラエヴィチ ロトチェンコがMI6のウィリアム スミスを見つけた。
「スミス殿、お初にお目にかかります」
「これはニコライ殿。このような場所で一緒にお茶するとは思いもしませんでした」
「誠に。いつぞやご訪問いただいたロンドンの事務所は移転しましてね」
「そのようですね。珍しい貴国産の紅茶をいただきましたが」
「世界最北の茶園の紅茶を持っていますから差し上げましょう」
「それでは私はハロッズのダージリンファーストフラッシュを進呈しましょう。珍しくは無いですが」
二人で収納袋から紅茶を出して交換した。
こちらは橋本カンナ、フリーマンを見つけた。
「あ、ストーカーおじさん、久しぶり」
「ヨス フリーマンです。名前があります。役目により連絡しただけです。オーストラリア州政府の役人です」
「そうだったけど事件の処理は大変だったそうね」
「おかげさまで船会社の処理までやらされました」
「宮仕えは大変ね。こんど日本人向けにホエールウオッチングツアーの企画販売をやるんだけどうちに来る?倒産船会社の事務員さんも雇った」
ハシモトは人使いが荒そうだとフリーマン。
「考えさせていただきます」
「うちだと副社長よ。事務員さんが専務」
「副社長・・・」
「そ。いいでしょう。命令する立場よ。軌道に乗ったら日本人向け英語学校を始めようと思う。生徒の募集は舞に頼むから心配ない。出資はこの間知り合った政府関係者個人にしてもらうのよ。みんな出してくれるかなあ」
恐ろしいから必ず一口は出すだろうとフリーマン。
「講師も政府関係者に紹介してもらおうかな」
災難が降りかかる政府関係者だとフリーマン。
「窓口はフリーマン副社長がやってね」
あ、災難が降りかかるのは俺だったとフリーマン。
「とりあえずはホエールウオッチングツアーの企画販売で資金を貯めよう。そしたら堅実に小さく英語学校を始めよう。儲けたら儲けた分だけだんだん大きくする。倒産はしたくないからね。最悪廃業で済ませられるように徐々に事業を拡大しよう」
「会社の事務所は確保したのでしょうか」
「この間ただ同然で土地建物を手に入れた。倒産船会社の土地建物が売りに出ていてね、誰も買い手がつかないから捨て値で買ったのよ」
あ、確かに誰も買い手がつかなかった。申し出があっても次々に取り下げになった。建物は耐震に疑問があったので値をつけなかったが建物を壊せば立地は良く好条件なのに不思議だった。取り下げた業者が呪いがと言っていたな。いくら値を下げても結局呪いの物件ということで誰も手を出さないから、塩漬けよりいいとほぼただで売ったというか、呪いを気にしない買い手に引き取ってもらった。債権者も呪いが恐かったのか文句を言わなかった。確か買い手は、ハシモト・・・。
神が絡むとこうなるのかとフリーマン。
「建物は龍愛様に頼んで黒龍にちょいちょいと耐震補強をしてもらったのよ。大地震が来てもびくともしないわ。海が見えるし、二階を英語学校にしようと思っている。掘り出し物だったわ。フリーマン副社長、訓練が終わったら早速仕事を始めましょう」
まだ返事はしていないとフリーマン。だが神が絡んでいるのではや諦めムードではある。
在日本ドイツ連邦共和国大使館大使ギュンター ヘンケルと同秘書、駐日欧州連合特命全権大使クンラート ゼーマンと秘書を見つけた。
「IGYO仲間ですね。山城稲荷神社には行っていますか」
「時々行っています。本国から言ってきたわけではないのですが、稲荷神社に行って、稲本さんにお祓いをしてもらって、宗形さんの舞を見ると体調が良くなりますので」
「やっぱりそうですか。私も通っています。境内で売っているお守りを買って家族に持たせました。孫が歩道を歩いている時、車が歩道に突っ込んできて轢かれるかと思ったら急に進路がそれて車が街路樹にぶつかったと聞きました。ご利益があって評判が良くて。今では家族全員と稲荷神社に詣でています」
「お守りはいいですね。私も家族に持たせました。家内が国に戻った時にバッグのひったくりにあいましたが、犯人がバッグをひったくって一歩踏み出したら両足を挫いて倒れて動けず犯人は通行人に取り押さえられました」
こちらも家族全員信者になったらしい。




