135 メルクリオ統括大僧正王 外国訪問する (6)
朝から金ピカ教会でのメルクリオ統括大僧正王来訪記念特別礼拝式、教会関係者との昼食会を波風立てずつつがなく終えたメルクリオ大僧正王。
パレードの準備の間、大僧正王補佐と応接室でお茶を飲んで待っている。外が騒がしい。
「おい、ただの騒ぎではないな」
「悲鳴も聞こえるような」
「よからぬ予感があったがそれかもしれない」
応接室の扉が乱暴に開けられた。兵が三人、急いで入ってきた。メルクリオの秘書二人も入ってきた。
兵がメルクリオに声を掛ける。
「不測の事態が生じました。大僧正王様と補佐様は退避願います」
「何が起こった?」
「信じられませんが、大きな鳥のようなもの2羽が飛来し、群衆を襲っています」
「そうか。わかった。補佐を連れて先に退避しなさい」
「大僧正王様は」
「後で良い。船が沈むとき、船長は最後まで残るものだ。早く逃げなさい」
「お二方を退避させよと命令を受けています」
「兵は信者か」
「もちろん」
「大僧正王が命じる。補佐を連れて直ちに退避せよ」
「しかし・・・承知しました。では行きます」
兵三人は補佐を連れて出て行く。
「大僧正王様」
「よい。安全なところに退避せよ。余の命である」
補佐は深く礼をして兵と出て行った。
「着替えるぞ」
メルクリオはバングルから、秘書二人は収納袋から忍者服を取り出し着替えた。狐面もつける。
背中に忍者刀を背負った。
「行くぞ」
「はい」
窓を開けて三人が飛び出した。全速力で走る。
大通りまで出るとパレードを待っていた群衆を襲っている2羽のIGYOが見えた。大混乱である。
警備の軍と警官が発砲しているが全く効き目はない。
すぐ愛ホンでメルクリオが宗形に一報を入れた。
「飛行型IGYO2体出現、応援を乞う」
「俺が先の方の一羽を相手にする。二人で手前の一羽の相手をしろ。俺たちは飛べないが奴らが飛び上がって空から降りてきたら邪魔をすればいい。リューア様たちが来るまで犠牲者を増やさなければいい。今道路に着陸して食事中だ。気づかれないように同時に襲撃だ。俺が屋根から飛び降りたらそれが合図だ」
「承知」
メルクリオは建物の屋根に飛び上がって屋根上を走って先に行く。IGYOの脇まで到着したら忍者刀を抜いて両手でしっかり持ち、屋根を駆け下り踏み切りIGYOめがけて勢いをつけて特攻した。同時に秘書二人もIGYOにかかっていく。
メルクリオが忍者刀と一体になってIGYOの首の根本を狙って矢のように飛んでいく。忍者刀が首に刺さる寸前にIGYOは初めてメルクリオに気づいて首を振った。メルクリオの忍者刀はIGYOの首をかすった。
道路に着地したメルクリオは嘴の攻撃をかわしてIGYOの足に切りつけた。足から青い液体が吹き出す。
IGYOはグォーと鳴いて、翼を広げ飛びあがろうとする。コウモリのような翼だ。メルクリオは道路脇の建物に向かって走って、飛び上がり建物の壁を蹴ってIGYOの広げた翼に取りついた。
「逃すか」
軍により頑丈な建物に退避した大僧正王補佐と秘書二人。中継映像を食い入るように見ている。
パレードの中継のために何台もカメラが配置されていた。IGYOによる襲撃は最初から中継されていた。
「あれはスーパー狐面デブ忍者か。すごいな。あれは人ではなかろう」
「そうですが、我が教義はそのようなものは否定しています。悪魔では」
「細かいことは言うな。人を襲う怪物に向かっていく悪魔は良い悪魔だ」
「それはそうとも言えるでしょうが、それとは別に」
「なんだ」
「三人の狐面忍者の体型に見覚えがあるような無いような」
「う、確かに」
メルクリオは翼に忍者刀を突き刺した。右の翼の胴体に近いところを貫いた。
IGYOがメルクリオを落とそうと羽ばたく。だがそれは悪手だ。メルクリオを落とせたが、翼の前方部分から後方まで切り裂かれてしまった。
IGYOは飛びあがろうとするが右の翼が破れていて思うように行かない。メルクリオは再び右の翼に飛びつき、忍者刀を突き刺した。さっきのところより翼の先端に近い。再び翼を切り裂く。
地面に立ったメルクリオ。
「もう飛び上がれないだろう。飛べない豚は、違った。飛べない飛行型IGYOはダチョウ以下だ」
IGYOは飛び上がるのを諦めて嘴でメルクリオを攻撃するが、首を伸ばすと首に切り付けられる。あきらめて足で踏み潰そうとするが、メルクリオにさっき切り付けられた足にもう一度切り付けられた。片足が切断されてしまった。片足で地面を蹴るもぐるぐる回るばかりである。
メルクリオが無事な足に切りつけ、何回か切りつけ切断した。
両足を切られてしまったIGYOは地面にしゃがみ込んだ格好である。
翼をバタバタさせ風を起こしビルのガラスを割る迷惑行為をするから、メルクリオが飛び上がって右の翼の付け根を切断した。左の翼も破いておいてから切断。もはや嘴攻撃しかできないようになった。
IGYOは苦し紛れに街灯に噛みついて引き抜き振り回し始めた。
閃いたメルクリオ。
無事な街灯の根本を切り、上の明かり部分は斜めに切り落とし、長い槍にした。穂先を先にして、IGYOに向かって走り始める。IGYOが振り回す街灯をかわし、貫けと気合を入れて街灯槍をIGYOの首元に突き刺した。ただの街灯がIGYOを串刺しにした。さしものIGYOも息絶えた。
後に兵がIGYOを収容する時、街灯が邪魔なので切断を試みた。IGYOに刺さっているのだからとてつもなく硬いだろうと思ったが、案に相違して簡単に切断できた。なぜこんな柔らかい街灯がIGYOを串刺しにできたか謎であった。
「あのデブの狐面忍者が怪物を串刺しにしてお陀仏させたぞ。すごいな」
「お陀仏は仏教です」
細かい秘書であった。
メルクリオはIGYOから飛び降りて秘書二人の方に駆け寄る。二人を啄もうとしていたIGYOはメルクリオが駆けてくるのを見て上空に逃げた。
「いくらか傷つけたのですが」
「よい、よい。十分だ。人的被害が増えなければ重畳だ」
上空に大鷲が2羽出現した。
「リューア様が来てくれた」
一羽の大鷲が異形の首を掴んで握りつぶした。高度を下げメルクリオたちの前に異形を落とした。
ポニーに乗った龍愛と宗形、黒龍が転移してきた。
ポニーの上でふんぞり返った龍愛。
「皆の者、大儀じゃ」
ゴン。
宗形の鉄拳が龍愛の頭に落ちる。
「偉そうに言わない。時代劇じゃないんだから普通に言いなさい」
龍愛は涙目になりながら
「みんなよくやった」
「そう言えばいいのよ」
「龍愛様、宗形様。ありがとうございました」
メルクリオにお礼を言われ宗形に頭を撫でられすぐ復活した龍愛である。
「なにかあったら呼んでいいんだよ」
「さて、夜中に起こされたから帰るか」
「うん。皆の・・・みんなバイバイ」
龍愛と宗形はホーク龍の上に転移した。
黒龍がメルクリオと秘書二人を元の部屋に転移させた。
黒龍によくやったと言われた気がした三人である。さらに宗形マネージャーがタダ働きだ、儲け損なったと思っているから補填してねと言われた気がした。
黒龍は言うことを言ってすぐ転移していった。
なかなかのマネージャーだと三人は思った。国に帰ったら食事会に励んで情報収集、投資で儲けて貢がなくてはと思った。




