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地球に異形出現 幼女神あわてる  作者: SUGISHITA Shinya


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134 メルクリオ統括大僧正王 外国訪問する (5)

 翌日午後、メルクリオは次の訪問国アクエータに飛行機で向かった。


 狙撃について大僧正王サイドからの追及がなかったことがあり、申し訳なさに大統領をはじめ政府要人がずらりと並んで見送った。

 心なしか大僧正王がやつれたように見えて礼の角度が深くなるのであった。


 もちろん教会関係者、信者らも多数が集まり飛行機が離陸して見えなくなるまで見送った。暗殺者は遠くから見送った。


 飛行機が無事に飛び立ってホッとした関係者である。


 アクエータに向かう機内ではメルクリオと随行記者との懇談が行われていた。


「大僧正王様、今回の狙撃についてどのようにお考えでしょうか」

「狙撃した方の動機はわからないが、我が宗教が排他的になっていたのではないか、異なる宗教を排除していたのではないか、考えさせられる出来事であった」


「狙撃犯を恨まないのでしょうか」

「この肩の痛みは我が宗教の閉鎖性について思い起こさせるきっかけになった。感謝している」


「狙撃犯に伝えたいことはありますか」

「私は感謝こそすれ恨んではいない。しかし罪は罪だ。罪を償い自分の命も他者の命も大切にして前を向いて生きて欲しい。彼らの人生に幸あらんことを」

 メルクリオは祈りのポーズだ。


「大僧正王補佐を庇われましたが」

「彼は私より若い。これからの人である。老い先短い年寄りが若い者を庇うのは当然だ」


「常人では命が惜しくて咄嗟に行動できません」

「皆さんも何かあれば咄嗟に我が子を庇うだろう。本質的にはその行動と我が行動は同じだ」


「なるほど、大僧正王補佐は子供であると」

 大僧正王補佐は苦い顔をしている。


「大僧正王補佐はどのように思われますか」

「大僧正王様には感謝しかありません」

「なるほどなるほど」


 随行記者は、大僧正王と大僧正王補佐の不仲を知っているのでなるほどを重ねることでそれを表明した。

 それがわかるのでさらに苦い顔をした大僧正王補佐であった。


「ところで中央教会での演説ですが、宗教の布教と植民地化の関係、宗教の罪など今までと違いずいぶん踏み込んだようですが」


「君はどう聞いた?」

「ええと、多分宗教が絡まない国の歴史の世界では常識ではないかと思います」


「そうだ。我が宗教の罪に目を瞑ってはいけない。もっとも我が国、我が信者に急に目を覚ませと言っても無理だ。多分理解できない信者も多いだろう」


「そのように思います。これからどうするのでしょうか」

「無理強いはしない。自分で資料を集め自分の頭で少しづつ考えて貰えばいい。先の演説がそのきっかけになれば良いと思っている」


「アクエータでも同じ演説をするのでしょうか」

「いや、やらない。すこしづつだ。薬というものは一度に大量に飲むと毒になる」


「ありがとうございました。ところで大僧正補佐はどのようにお考えでしょうか」

「難しい」

「なるほどなるほど」

 一応懇談は終わり、雑談になった。


 メルクリオが聞く。

「君たちはコロンの料理はどうだったね」

「はい。レストランで堪能しました」

「そうか。羨ましい」


 歓迎する側が気を遣ってさぞ質素な料理を出したのだろうと記者は思った。


「アクエータでは我々と一緒に食事をしませんか」

「いやあ、そうしたいが用意してくれているからな。残念だ。それに何やら悪い予感がする。アクエータでは羽目を外さず予定外のところには行かないほうがいい」


「何か起こるのでしょうか。政治的なこととか」

「いや、そっちではない。単なる胸騒ぎだ。だが当たると大変だ。気に留めておいてくれ」


 雑談も終わり飛行機は無事アクエータの首都郊外の空港に着陸した。赤道直下ではあるが標高3000メートル弱である。飛行機から降りると冷涼な空気が迎えてくれる。

 それに加え軍が迎えてくれた。狙撃事件があったので厳戒態勢である。


 出迎えの政府関係者、信者たちは軍に囲まれている。そのまま一団となって空港玄関まで行き、軍に囲まれた出迎えの人に送られ、メルクリオたちは車に乗って高速道を首都に向かって走る。


「山が近いな。飛行機から見たら山が深かった」

 助手席に座った迎えの役人がメルクリオに答える。

「はい。首都のすぐそばに4000メートル級の山々があり、人はほとんど住んでいません」


 大僧正王を乗せた車列は間も無く高速道路から300メートルほど高くなって連なる丘、標高は3000メートルくらいだから山か。その山を迂回して首都に入った。


 大僧正王は随行員とともにホテルに入った。ホテルも軍と警察が囲み厳戒態勢である。


 大僧正王は部屋に入って一言。

「やれやれこれでは籠の鳥か。ファーストフードも買いに行けない」

「ホテルにうまく話してきます」

 秘書が部屋を出て行った。


 大僧正王補佐も部屋に入って一言。

「やれやれこれでは籠の鳥か。ファーストフードも買いに行けない」


 実は大僧正王補佐もコロンではあまりに質素な食事だったので大僧正王にバレないようにこっそりファーストフードもどきを秘書に買いに行かせていたのである。


「おい、外に出られそうもない。大僧正王は怪我の回復のために栄養をとらねばならない。質素な食事では栄養が足りない。ホテル側にそう言ってこい。もちろん俺たちの食事も大僧正王と同じだ」

 秘書は喜んで出て行った。


 途中大僧正王の秘書と行き会った。一瞬緊張したが、目的は同じとわかって二人で歓迎側の責任者に話をつけた。


 その日の夕食は豪華であった。久しぶりに満足な大僧正王、大僧正王補佐、秘書たちであった。


 今回はどの国も同じパターンの行事が組まれていた。すなわち首都到着日は休養、翌日中央教会でメルクリオ統括大僧正王来訪記念特別礼拝式、教会関係者との昼食会、首都パレード、大統領主催晩餐会である。


 部屋で大僧正王が秘書と予定を確認していると補佐とその秘書がやってきた。言わずと知れた偶像安置である。


「当分俺の怪我の回復のために食事は栄養のあるものになる。質素倹約とは外れるがいいか」

「もちろんでございます。御身大切に。怪我が治るまでは栄養豊富な食事に大賛成です」


 こういう時だけ気が合うと双方の秘書。


「では像を安置しました」

 大僧正王補佐と秘書は像に恭しく礼をした。もちろんメルクリオとその秘書は後ろで見ているだけである。


「ああ、ありがとう。明日は一日中行事だ。ただよからぬ予感がする。気をつけてくれ」


「また狙撃でしょうか」

「いや、ちがう」

「ではなんでしょう」

「わからない」


「悪魔が囁いたのでしょうか」

「悪魔は囁かない。堂々と話す。神も堂々と話す。この星の神は時に悪魔でもある。神と悪魔は相即不離。見方による。異界からの侵略者はただの悪魔だ。滅ぼさなければならない」


 大僧正王の言っていることがわからない大僧正王補佐と秘書。

「そうですか。では明日よろしくお願いします」

 首を振りながら部屋を出ていった。


 自分に割り当てられた部屋に戻った大僧正王補佐。

「大僧正王は悪魔と神と話したことがあるような口ぶりだったな」

「はい。悪魔の一味ですから当然悪魔と話したことがあるのでしょう。悪魔の一味が神と話せるのでしょうか」


「わからん。今日大僧正王が言った神は我々の神ではないのではないか。それに異界からの侵略者などと訳のわからないことを言っている。頭がおかしいのではないか。大僧正王の秘書二人も当然のような顔をしていた。すでに悪魔の一味だ。三人が我が宗教、信者に悪影響を与えないうちに早いところ尻尾を掴まなくてはな」


「はい。悪魔だけに」

「そういえば悪魔には尻尾があったな」

 秘書と笑いあう大僧正王補佐であった。

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