133 メルクリオ統括大僧正王 外国訪問する (4)
オープンカーの警備担当者が無線で本部に連絡する。
「メルクリオ大僧正王様が補佐を庇って撃たれた。大至急救急車を手配してくれ。撃たれた箇所は幸い肩だ。狙撃地点は近くのビルだ。警官が向かっている」
くそ。重い。ダイエットしろとメルクリオの腹に潰されている補佐。自分の腹も同様なのには気がつかない。
血が上から流れてくる。成功したのか。車の周りで叫ぶ声が聞こえる。
なんだと、大僧正王が俺を庇って撃たれた?生きていれば英雄だ。まずい。血が流れてくるがそう多くない。失敗したのか。とりあえず気絶したふりをしていよう。
すぐ救急車がやってくる。現場警備責任者が叫ぶ。
「大僧正王様を運べ。国立中央病院だ。肩を撃たれている。補佐は大僧正王様に庇われて気絶しているだけだ。一応そのへんの病院に運べ」
大僧正王が救急車で運ばれていく。
「大丈夫だ。大したことはない。補佐はどうした?」
「補佐は大僧正王様に庇われて無事です。気絶していましたが」
「そうか。よかった」
全世界に事件の一報が流れる。
「メルクリオ大僧正王狙撃される。大僧正王補佐を庇い右肩を撃たれた。意識はあり現在治療中」
全世界の教会で大僧正王の回復を願って祈りが捧げられた。
大僧正王の状態については、国立中央病院の病院長と主治医が記者会見した。
「大僧正王様は銃弾が右肩を貫通しているが弾丸は骨は避けて筋肉も最小限の損傷で済んでいる。命に別状はない。驚異的な回復を示しており、出血量も少なく傷が治れば後遺症もないだろう」
集中治療室に運ばれたメルクリオ。看護師が部屋から出て行った。
部屋の中にちっちゃい子供と銀髪女が現れた。今日はもう一人いた。体格の良いキリリとした銀髪女に似て怖そうな女性だ。
「これは神様」
悪魔かもしれないがと思うメルクリオであった。悪魔が一人増え三悪魔かと頭をよぎる。
銀髪女が
「起きなくていい。怪我は皮膚から1センチを残して中は治しておこう。残った傷も化膿しないようにしておくからすぐ治る」
体格の良い女が
「明日は一日休んであとは予定を繰り下げなさい」
「承知しました」
小さい子供が
「そうだ。10分ほど訓練をするか」
ガタイのいい女が
「せっかくだからみんなを呼びましょう」
メルクリオにつけられた各種管類が自然に外れた。各種機器はセンサーが外れても正常値を示して動いていた。病室を映すモニターにはメルクリオが病床に横たわっている映像が流れている。
メルクリオの足元は草原に変わった。
メルクリオの隣にメルクリオの秘書二人。そのほか知らない人が多数。婆さんがまた訓練になってしまったとぼやいている。
秘書二人はキョロキョロと辺りを見回している。
ちっちゃい子供が秘書二人に向かって言う。
「メルクリオはあたしのためにマネーロンダリングや投資とか色々活動してくれている。秘密が多くなったから二人でガードしてね」
「あの小像のリューア神様でしょうか」
「そうよ。偉いんだから平伏して拝みなさい」
「ははー」
ゴン。龍愛の頭に宗形の拳が落ちた。
「宗形のお姉ちゃん、痛い」
「平伏を強要してはだめよ」
「うん」
宗形のお姉ちゃんという方はリューア神様より偉そうだ、そして俺たちに拒否権はなさそうだと秘書二人は思った。
宗形が続ける。
「私は宗形、地球の神の龍愛のマネージャーだ。ここは地球ではない。龍愛の親代わりの神様であるシン様の星だ。3人はこれから嫌でも異形と関わる。関われば普通は死ぬ。死なないために力をつけてもらう。訓練はシン様に頼んである。まず仲間を紹介しよう」
宗形が龍愛の眷属を、エスポーサがシンの眷属達を紹介した。
「ではゴードンさん、お願いします」
宗形がゴードンに頼んだ。
エスポーサが「メルクリオの怪我は訓練中は治しておきます」
「今日は新人は三人だな。おれはゴードンだ。では始めよう」
訓練は10日、地球で過ぎた時間は10分。
10分が過ぎてメルクリオは元の通り病衣を着てベッドに横になった。ちゃんと各種管類が自動で装着された。看護師が見回りに来た。
メルクリオは俺の傷は訓練中は完治していたが元通りになってしまった。トホホと思った。
その晩、大僧正王のメッセージが流された。
「全世界の皆さん、ご心配をおかけしましたが、幸い神のご加護により軽傷ですみました。余は撃った方を赦します。あなた方に平和がありますように。神はこの星と共にあります」
メッセージの発出と同時にプレスリリースが流された。
「大僧正王は、明日一日休養にあて、その後は日程を一日ずらして予定通り訪問が行われる」
晩餐会には触れられていないが当然中止である。触れないのは大僧正王様のご配慮とコロン政府は思った。もちろん治療費は政府負担である。
大僧正王を狙撃した二人は自首した。誰からも指図は受けていない。二人で決めたと供述した。狙撃の動機は話さなかった。狙撃地点から検出された指紋から二人の犯行に間違いないということにはなった。
検察は大僧正王の意向を汲んで、殺人未遂ではなく単なる傷害罪で起訴した。メルクリオ大僧正王が補佐を庇って伏せていて、確実に頭を狙える状態であったにも関わらず肩を撃ったことが殺意はなかった証拠とされた。
二人は独房でメルクリオ大僧正王の写真をテーブルに置き日々祈りを捧げている。狂信の対象がメルクリオ大僧正王になったらしい。




