125 ヘンゼルとグレーテルとIGYO (5)
「さて説明に行くか」
宗形がバイクを出して、子供二人とベルノを乗せた。
「婆さん頼むよ」
勝婆さんがスーパーカブ110を出した。
「ギュンター、乗れ」
「はい」
「行くよ」
機嫌良い爆音を轟かせながら宗形のNinjaが森の中を疾走する。爆音は調整できるらしい。バイクは少し浮いているので振動はない。
龍愛を乗せたポニーもNinjaと一緒に走り、楽しそうに抜きつ抜かれつしている。
勝婆さんはバイクを浮かせられないので、根や窪みを避けるのが忙しい。
ギュンター大使は急に進路が変わり振り落とされそうになったり、根にぶつかってバイクが跳ね上がって投げ出されそうになったりするたびに悲鳴を上げる。
「うるさいやつだ。黙っていろ」
「宗形さんのバイクは浮いているようですが」
「あっちは神の領域に足を突っ込んでいる。こっちは人間だ」
ギュンター大使はさっき空から飛び降りたのを見たので婆さんは人間ではないだろうと思うが、何か言うと振り落とされそうなので黙っていることにした。
他の眷属は黒龍がホーク愛の上に転移させた。黄龍が荻野と高橋、宮川トリオを送って行った。
森から出て軍の待機場所に着いた。
指揮官らしいのが出てきた。
宗形がバイクからベルノを抱えた子供を下ろして聞いた。
「この場の責任者か?」
「はい」
「龍愛」
宗形に指名されて龍愛がポニーの上で偉そうに言う。
「異形2体を討伐した。今出て来たところの奥だ。確認しに行くと良い」
指揮官が合図して、兵が小銃を構えて森に入って行った。
「こちらは?」
「リューア神様と、眷属の宗形様、勝様である」
大使が答えた。
宗形が続ける。
「討伐結果は、ここにいるヘンケル大使が政府に報告する。では我々はこれで帰る」
「お姉ちゃん、お婆さん、ありがとう」
お礼を言うベルノを抱く子供二人に手を振って、龍愛たちは上空で待っていたホーク愛の背中に転移した。
巨大ホーク2羽が急上昇して消えた。
「消えた」
「神様だからな」
そう言って大使は宰相に「リューア神様と眷属がIGYO2体を討伐した」とスマホで一報を入れた。
兵の後ろで子供の親らしい人がびっくりしている。
大使が手招きした。4人来た。二人の両親だろう。
「私は、駐日本国ドイツ連邦共和国特命全権大使のギュンター ヘンケルといいます。二人の親御さんですか」
「はい、そうです」
「異形討伐が終わって森から出るところで子犬を抱いた二人に出会いましたので一緒に連れて来ました。子犬はベルノと名前をつけて二人が世話していたようです。飼うといいでしょう。先ほどのリューア神様はこの犬は二人の良き友となり、二人を守ってくれるでしょうとおっしゃっていました。またリューア神様がそのために子犬に加護をお与えになったようです」
「・・・はい。わかりました」
「ではこれで失礼します」
大使が黄色い子犬と消えた。
「消えた」
ヘンゼルとグレーテルの親をはじめ、兵もびっくりした。
これは子犬を飼わねばならないとヘンゼルとグレーテルの親は思った。
荻野は法医に戻るとすぐに異形のベルノのDNAの解析を始めた。
技師は実験室に入れなかった。作業は荻野と高橋、宮川で全て行った。高橋と宮川は実験助手の仕事も行わなければならずヒーヒー言った。
荻野は疲れを知らないようであった。寝てこいと言われて二人は仮眠したがその間も荻野は仕事をしていた。
天才荻野は24時間稼働であった。そして結果も出す。二人は天才に付き合うのは大変だが、仕事は大変面白い。荻野について行こうと思った。
ベルノのDNAは今までの異形にくらべ遺伝子の数が圧倒的に多かった。
異形のDNAはベルノのDNAを元に人工的に作られたものと思われた。解析結果は龍愛と眷属には知らせたが論文としては発表しなかった。
解析が終わったら試料は全て宗形が引き取り、龍愛が来て綺麗に証拠隠滅をした。実験室と法医には何も残さなかった。パソコンの中にもない。荻野の愛ホンの中だけにデータがある。もちろん眷属はデータを共有している。
シン様、アカ様には龍愛が報告に行った。褒められたようでご機嫌で神社に戻ってきた。
荻野用の神式ノートパソコンももらってきた。荻野しか触れない、画面も荻野しか見られない、電源不要、壊れない、容量無限、神式CPUでスパコンより遥かに早い。荻野はもちろん大喜びであった。愛ホンの中のデータを神式ノートパソコンにコピーし、ハワイでの訓練でもらった収納袋にパソコンを入れたり出したりしている。
ヘンゼルとグレーテルは大人になって二人はちゃん呼ばわりがなくなってハンスとグレーテと呼ばれるようになり、二人は結婚した。
ベルノは普通なら寿命のところだが元気であった。リューア神様の加護だと人々は理解した。
ハンスは林業作業者となり、森へはいつもベルノと一緒に行った。
ハンスとグレーテに赤ちゃんが生まれると、ベルノが子守をして遊んでやり、子供たちの成長を見守った。
やがてハンスが先に逝き、ついでグレーテが病の床についた。
ベルノはグレーテに寄りそってグレーテに続いて息を引き取った。
グレーテとベルノをハンスの隣に葬る時、知らない女の人とお婆さんと子犬が参列した。
狭い村なのに誰も知らなかった。
ただハンスとグレーテの子供たちは両親に連れられてキノコ採りに行った時に、時々森の奥から出てきて両親が親しそうに話していた人達に似ていると思った。
あまり人に慣れないベルノも二人と子犬には尻尾をブンブン振っていたのを覚えていた。
子供が大きくなって森へ一緒に行かなくなっても両親は時々ベルノを連れて森に行った。あの人たちに会っていたのかもしれないと子供たちは思った。
ただ参列してくれた人は子供達の昔の記憶にある姿から全く変わっていないので確かにその人たちだとは言えなかった。
参列者が棺に土をかけ花を投げ入れ終わった時、参列者は墓から大きなIGYOに跨ったヘンゼルとグレーテルがIGYOと楽しそうに話しながら天に昇っていく幻影を見た。
気がつくと女の人とお婆さんと子犬は消えていた。
子供たちは察するものがあって幻影が昇って行った空に向かって手を合わせた。




