124 ヘンゼルとグレーテルとIGYO (4)
ロンドン、ゆったりした時間が流れる午後の官庁街。
紅茶を淹れるタイソー。タイソーが淹れた紅茶は秘書にも評判がいい。
人数分淹れて、秘書に配ってさて飲もうと思ったら黄龍がテーブルの上に現れた。舌をチロっと出してニタっと笑ったような気がした。
これはダメなやつだ。諦めてカップを置いた。
タイソーは見覚えのあるところに転移した。エディンバラ大学である。
舞とルーシーは交通事故の急患の処置を終わったところである。手術室を出た。
手術室の中では、うなだれた医師が椅子に座ったっきりだ。パラメディカルが言っているのを聞きながら。
「デビルシスターズはすごいね」
「日本にはデビルムナカタという医者がいて、その弟子だからデビルチルドレンと言われているらしいわよ」
座っている医者の方を見て声を顰めた。
「しかし、役立たずの医者ね」
「まったく」
椅子に座ったうなだれ医者には聞こえているのであるが、デビルシスターズの手技を見てしまったから反論のしようがないのであった。
舞とルーシーが建物の外に出るとタイソーが黄龍と待っていた。
「仕事らしいよ」
黄龍が三人をホーク龍の上に転移させた。
神社には黒龍が荒木田夫人と円、大井先生を連れて来た。黒龍が2階に駆け上がって勝婆さんのズボンの裾を咥えて降りてきた。
「なんじゃい」
「ドイツだよ」
「行ったことはないね」
「それじゃ行こう。大使も行ってみる?」
「いや、私は・・・」
「行ってみよう」
大使の周りが真っ暗になった。下に街の灯りが見える。足元は羽である。大きな鳥の上だ。
「ホーク愛だよ」
一瞬で周りが明るくなった。下は森が広がっている。どうもホークも進化して転移したらしい。
大使がつぶやいた。
「黒い森だ」
ホーク龍がこっちと呼んでいる。
森の中が騒がしい。
龍愛と眷属、黄龍は飛び降りた。大使は黒龍が転移させる。
森の中、大木を背に異形が子供二人を後ろに庇って、2体の異形と争っている。
2対1、それに守るべきものがいる。明らかに劣勢である。あちこち爪で切り裂かれ、噛みつかれて瀕死に近いが必死に子供を守ろうとしている。
「これはどうなっているんだ」
勝婆さんが宗形に聞いた。
「ううーん。龍愛わかるか?」
「一頭が子供と仲がいいらしい」
「それはわかる。待て、子供を庇っている異形は遺伝子が今までの異形とは異なる。遺伝子が多い。今までの異形の遺伝子は単純だった。この個体はもしかするとDNAに調整が加えられていない個体かもしれないな。黄龍、荻野を呼んで来てくれ」
「宗形のお姉ちゃん、ほんとだ。これは異界の普通の生物だろう」
「とりあえず一頭を襲っている二頭を討伐する。タイソーとルーシーで一体、円と江梨子で一体、勝婆さんと舞と大井は控、子供に危害が及びそうなら対処。行け」
あっという間に2頭が討伐された。
黄龍が解剖用に支度をして目を爛々と輝かせた荻野と寝ぼけている普段着の高橋と宮川を連れてきた。
子供二人が瀕死の異形に抱きついて泣いている。
「ベルノー、ベルノー、死んじゃ嫌だー」
それをじっと見ていた龍愛。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんを呼んでくる」
転移して行った。
すぐ龍愛がシンとアカとドラちゃん、ドラニちゃんを連れて転移してきた。ドラちゃんとドラニちゃんは小さいドラゴン形態だ。
「大丈夫だよ」
アカが子供二人に声をかける。
シンが聞いた。
「だけどこの大きさだと一緒にいられないから子犬にするけどいいかい?」
「ベルノだよね」
女の子が聞いた。しっかりしている。
「そうだよ。二人のベルノだ。子犬ならいつも一緒にいられる」
「お願い。ベルノを助けて」
「わかった」
大井と舞が子供二人を異形から離した。
シンが手を異形に伸ばす。
光が異形を包む。異形が縮んでいく。
子犬になった。
「ジャーマンシェパードの子犬だよ。うちに連れてお帰り」
「ベルノ、ベルノ、良かった」
子犬は尻尾を振って涙を流す子供に抱きついてぺろぺろしている。
「荻野、ベルノの体組織を回収」
「わかりました」
荻野がすかさず肉片や毛を回収した。
龍愛が周りを綺麗にした。異形二体についたベルノの肉片、毛、体液なども消した。代わりに討伐前に二頭が争っていたようにお互いの肉片、毛、体液を付けた。証拠隠滅である。
「ドラちゃん、ドラニちゃん、ベルノの痕跡を消してきて」
シンが頼んで、ドラちゃんとドラニちゃんが森の奥に飛んでいった。
宗形が大使に向き直った。
「異形2体討伐だ。2頭が争っていたことにする。2頭が傷つけあった傷があちこちにある。ベルノの痕跡は今ドラちゃんとドラニちゃんが消してくれている。ジャーマンシェパードの子犬は森の中にいた。いいね。大使」
大使は片膝をつき祈りのポーズだ。
「もちろん。争っていた2体討伐をしっかりと確認させていただきました。子犬の件は私がうまく親に話しましょう」
シンが付け加える。
「DNAはジャーマンシェパードそのものだ。遺伝子的には異形由来の遺伝子は全くない。遺伝子検査をしても大丈夫だ。ただ、長生きだ。その辺は龍愛の名前を出していい」
「ありがとうございます。リューア様には国民に代わって感謝いたします。それから二柱の神様も子供のために来ていただき、奇蹟を見させていただきました。感謝の念に堪えません」
龍愛が照れている。
「これをやる」
鈍く輝く黄金の像を大使に渡した。
「これに入れておけばいい」
首から下げられるようになっている皮袋を渡した。
「これは神像」
「そうだよ、あたしとシンお兄ちゃんとアカお姉ちゃん、ドラお姉ちゃんとドラニお姉ちゃんだよ。袋は容量は小さいけど収納になっている。ギュンターの専用だよ」
「ははあ」
神像を捧げ持った。大使はすっかり信徒になってしまったらしい。
ドラちゃんとドラニちゃんが帰ってきた。シンとアカに抱きつく。シンとアカが撫でてやる。
「ベルノのすべての痕跡を消して来たよ」
「ありがとうね」
シンとアカに甘えられてドラちゃんとドラニちゃんの尻尾が振れている。
「一回りして帰ろうね」
ドラちゃんとドラニちゃんが上空に飛んで行って大きくなる。
「龍愛、よくやった。あとは頼んだよ」
「うん、お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」
シンとアカがドラちゃんの背中に転移して行く。ドラちゃんとドラニちゃんがホーク龍、ホーク愛を従えて、軍が展開しているあたりを飛んで、ドラちゃんとドラニちゃんが急上昇して転移して行く。
軍は低空を飛んできた巨大なドラゴンとホークに肝を冷やした。
ホーク龍とホーク愛は黒い森の上を飛んでいる。IGYOがいるか念の為確認しているようだ。




