122 ヘンゼルとグレーテルとIGYO (2)
一週間ほどしてほとぼりが覚めたろうとヘンゼルとグレーテルは森の中に入って行った。
「ベルノー」、「ベルノー」
二人で呼ぶと森の奥からこの間の大きな動物がやってきた。
ベルノが二人の顔をぺろっと舐める。
ベルノに乗って泉に行ったりキノコのとれるところを教えてもらったり二時間ほど遊んでベルノに乗って森の入り口近くまで送ってもらった。
二時間ほどベルノと遊ぶ楽しい日々が過ぎた。
ある時村人が息せき切って村に戻ってきて村役場に駆け込んだ。
「大変だ。大きな見たことのない黒い怪物がいた」
「どこにいた」
「黒い森だ。キノコをとりに行ったら遭遇した。クマの2、3倍はあった」
「おい、それはなんでも見間違いだろう。それにクマは絶滅していないはずだ」
「いや、いた。クマより大きいからクマではないだろう」
「もしかして今話題のIGYOか」
「IGYOは見たことないからわからない」
「確かに俺も見たことはない。誰も見たことはないな。どうするか。村長、州へ連絡か」
「いや、IGYO案件は連邦国防省扱いでIGYOを確認したら、個人、行政を問わずすぐさま連邦国防省のIGYO対策室に連絡することになった」
「連絡するか」
「IGYOかどうかわからないからどうするか」
「村長、熊の2、3倍の大きさだ。IGYOでなくて何なのだ」
「そいつに気づかれたのか?」
「ああ、目が合った」
「それでそいつはどうした」
「奥へ歩いて行った」
「IGYOは問答無用で襲って来ると言うぞ。IGYOではないのではないか」
「そういえば襲って来る雰囲気はなかった」
「難しいな」
「満腹していたんじゃないか」
「何かあるといけないから連絡はしておいたほうがいいんじゃないか」
「そうだな。連絡しておこう」
村長が、村にまで配られて来ていたIGYO対策マニュアルを見て連邦国防省IGYO対策室に電話した。
「IGYO対策室です」
「あのう、IGYOの目撃情報がありまして」
「どこですか」
「黒い森のそばの××××××郡××××××村です。村の近くの黒い森です」
「被害は?」
「それが今のところありません」
「おかしいですね。IGYOは人を見れば餌とおもってすぐ襲ってきます。本当にIGYOですか?」
「目撃者と変わります。おいお前出ろ」
「あのう」
「どんな大きさですか?」
「動物園のクマの2、3倍です」
「大きさはそうですね。色は?」
「黒です」
「大きさと色はIGYOですね。襲ってこないか。うううん」
目撃者は村長に受話器を押しつけた。
「間違いがあると大被害になりますから、一応、IGYOバスターズに連絡して見ましょう。とりあえず立ち入り禁止にしておいてください」
連邦政府などに電話をしたことはない村長と村人たち、電話が終わってホッとした。
「とりあえず黒い森は連邦政府から連絡があるまで立ち入り禁止だ。村のみんなに周知してくれ」
狭い村だ。すぐ周知は終わった。
ヘンゼルとグレーテルの家にも連絡が来た。
ちょうど遊んでいたヘンゼルとグレーテルにヘンゼルの母親が
「いいかい。しばらくは森に入っていけないと連邦政府が言ってきたから入ったらだめだよ」
「どうして?」
「なんだか怪物が出たようなんだよ」
「あの森に怪物なんかいないよ」
「どうしてわかる」
グレーテルに変わった。
「おばさん、だっていつもキノコをとりに行っているけど、怪物はいないよ」
「会ってないだけかもしれないでしょう。とにかく森に入ってはダメだよ」
「怪物がいたらどうするの?」
「そこは聞いてないよ。とりあえず入ったらダメだよ」
「ふうん」
ヘンゼルとグレーテルはまだ立ち入り禁止になっていない森に急いだ。
「ベルノー」
すぐベルノが来た。
「なんだか怪物が出たとか言っていて森を立ち入り禁止にするんだって。危ないから奥に行っていてね。しばらく出てきたらダメだよ。怪物がいなくなったらまた呼ぶからね」
二人でベルノに抱きついた。
「早く奥に行きな」
ベルノは二人をぺろっとしてから小走りで森の奥に行った。
二人は素知らぬ顔をして家に帰った。
一方、連絡を受けたIGYO対策室。一応山城稲荷神社のIGYO担当者に相談してみよう、相談くらいなら受けてもらえるだろうと、電話に手を伸ばしたが日本は夜だと思ってやめた。
それっきりすっかり忘れてしまった。
数日経って、今度は違う村からIGYO対策室に電話があった。
今度は正真正銘のIGYOらしく、IGYOに村が襲われ食べ尽くされ森に引き上げたとの連絡である。
そういえば数日前にもそんな電話があったなと思い、書類を引っ張り出した。山城稲荷神社に電話するのを忘れていた。
襲われていないが同一個体かもしれないと対策会議で話をしておくことにした。
すぐIGYO対策室長は、連邦宰相にアポを取り宰相室に向かった。宰相室には連邦国防大臣もいた。三者でドイツで初めて出現したIGYO対策を協議。
結果は、次の通りとなった。
すぐ在日本ドイツ連邦共和国大使館から大使を山城稲荷神社に向かわせ討伐依頼をする。
軍は出現地点を中心に黒い森沿いに展開、なるべく黒い森からIGYOが出ないように、出てきたら集中砲火を浴びせ嫌がらせをする。
ドイツも人類の軍では討伐できないことを知っていた。




