121 ヘンゼルとグレーテルとIGYO (1)
ドイツの黒い森に接した村。
幼馴染のヘンゼルとグレーテルがいた。
二人はいつも一緒に遊んでいた。
今日は黒い森にキノコとりに入っていた。
「グレーテル、キノコがないねえ」
「ほんと。どこにもないね」
「いつもはあるんだけど」
この頃雨が降らなかったからキノコは生えていない。二人はそんなことは知らないから奥へ奥へと探して歩いて行った。
「ないねえ」
「うん」
「疲れたね」
二人は大きな木に寄りかかって休憩。ついうとうとしてしまった。
少し寒くなって目が覚めた。日が翳り始めている。
「あれ、遅くなっちゃった」
「帰ろう」
「うん。帰ろう」
手を繋いで帰ろうとしたが見覚えがない森だ。
「あれ、どっちだろう」
「うーーん。わかんない」
二人はしばらくあちこち歩き回ったが一向に知ったところに出ない。
だんだん暗くなってきた。
「寒い」
「うん。寒い」
二人は疲れて寒くて歩けなくなった。とうとう倒れて暖を取ろうと二人で抱き合っていたが背中が寒い。
ガサっと音がした。暗闇で目が光る。大きな動物だ。
二人は息を呑んで恐怖で震え動けなかった。ゆっくり近づいて来る。
大きな動物は二人の隣に来ると横になって二人を抱え込んだ。
二人は初めは食べられるのではないかと思った。
大きな動物は二人の顔をペロッと舐めた。動物は優しい目をしていた。
動物の暖かさと疲れからいつの間にか二人は眠ってしまった。
「眩しい」
朝日が森の中にまだらに差し込んでくる。ちょうど顔に朝日が当たって二人は起きた。
ゆっくり大きな動物は立ち上がってそれから伏せをした。頭を背中の方に向けた。
「乗れって言っているみたいだよ」
「そうだね。グレーテル。乗ってみようか」
二人は大きな動物の背中によじ登った。
二人が登ったのを確認して、そっと立ち上がって、歩き始めた。
「どこへ行くんだろう」
「わからないけどきっと案内してくれているんだよ」
少ししたら泉があった。止まって伏せをした。二人は動物から降りて泉の水を飲んだ。美味しかった。二人が飲み終わってから動物も水を飲んだ。
二人は促されるまま再び動物の背中によじ登った。
しばらく歩いていると遠くの方から二人を呼ぶ声がする。
大きな動物はゆっくり伏せをした。
二人は背中から毛に掴まりながら降りた。
「ありがとう。また来るね」
「ヘンゼル、名前をつけなくちゃ」
「ええと、ベルノでいいかな。ベルノ」
いいらしかった。
「じゃあ今度来た時ベルノと呼ぶからね。だいぶ怒られるからしばらく来られないよ」
わかったらしかった。
「森の奥に行っていてね。見つかっちゃう」
大きな動物は、振り返り振り返り森の奥に歩いていった。
「ヘンゼル、ベルノのことは話しちゃダメな気がする。黙っていよう」
「うん。見たことのない大きな動物だったからね。黙っていたほうがいいね」
二人は体についた毛を一本残らず慎重に落とした。
「泥もつけておこう」
二人で泥をつけあった。
「いいみたいね」
「そうだね。じゃあ行こう」
声のする方に小走りで進む二人。そのうち見覚えのあるところに出た。
「ヘンゼルーーー」、「グレーテルーー」
呼ぶ声が聞こえる。お母さんたちだ。
「ここだよーーー」
探している親たちと村人に合流できた。
「良かった。良かった」
「無事で良かった」
母親たちは二人に抱きついた。
二人は家に帰ってシャワーを浴びてパンを食べて寝てしまった。
昼ごろ起きてお昼。食べ終わったら両家が集まって当然親からの事情聴取である。
母親がグレーテルに聞く。
「それでどうしたの?」
「あのね。キノコをとりに行った。そしたらキノコが無くって、奥まで歩いて行った」
「それで」
「帰ろうと思ったら帰り道がわからなくなった」
「それで」
「だんだん暗くなってきたから、危ないから動かなかった」
「寒かったでしょう。死んでしまうわ。どうしていたの?」
「ちょっとした窪みがあって昼間陽が当たっていたらしく少し暖かかったから泥をかぶって寝た」
口が回るグレーテルである。
ヘンゼルの母親が聞く。
「それでお前は?」
「グレーテルの言うとおりだよ。窪みで寝た」
「どこにあるの?」
「えええっと」
「迷子になったからわからないよ」
グレーテルが助け舟をだす。
「そうだよ。迷子だから」
「まあいいわ」
終わったと思ったらそこから母親二人のお説教が始まった。
一時間ほどして、父親が
「まあいいんじゃないか」
「十分だろう」
「あなたたちは黙っていなさい」
それからお説教の対象は父親達に切り替わった。
そっと逃げたヘンゼルとグレーテルである。




