120 龍愛達は壱番国のIGYOを討伐する
夜10時前、遠くの眷属は黒龍と黄龍が手分けして連れてきて全員集まった。レナードも起きてきた。
「では行くよ」
龍愛が掛け声をかけて境内に出た。
鳥居に止まっていた二羽が上空に飛んで大きくなった。
「みんなはホーク愛に乗ってね」
黄龍が上空のホーク愛に転移させる。龍愛はポニーに乗ってホーク龍に転移。
「出発ー」
龍愛が楽しそうだ。
レナード室長が呟く
「これは羽があってふわふわしていますね」
「元は鳥だからね。バリアも張れるし乗り物として優秀。攻撃もできるから今度の異形などはイチコロにできるけど、みんなで行かないとありがたみがないからね。一兆円は損害賠償だから関係はないけどね」
すぐ海上に出て昼になり朝になって現場に着いた。
龍愛がメガホンを取り出した。
「龍愛だよ。眷属が異形を討伐するからみんな下がってね」
すでに下がって遠巻きにしている兵。空を覆わんばかりの巨大な鳥2羽に唖然としている。
「ちょっと大きくなった一体だけだね。勝婆さんと舞と円と黄龍で行ってきて。残りは潰れた戦車からご遺体を回収する」
「わかった。行くよ」
勝婆さんがバングルからバイクを取り出した。神式スーパーカブ 110である。舞が後ろに乗って発進した。円は飛び降りる。
ブライトマン室長が宗形に聞く。
「あれはスーパーカブでしょうか」
「そうだよ。世界のスーパーカブだ。文句ないだろう」
「それはそうですがなんだか東南アジアを走っていそうな」
宗形が黄龍に言った。
「州立公園の潰れた戦車のところに先に向かう。婆さんたちはホーク龍に乗せて来て」
舞がスーパーカブから異形の前に飛び降りる。スーパーカブは異形の背中にアタックした。異形が思わず立ち上がる。舞が腹を切り裂く。「キエー」と円が叫んで上から頭を真っ二つにする。討伐は終了。
黄龍がすぐ婆さんたちをホーク龍に転移させて、ホーク愛を追う。ホーク愛はホーク龍が追いついてくるまでゆっくり飛んでいた。
帽岩渓谷州立公園
戦車から兵を救出するのに仲間の兵が苦労している。ひっくり返ったり岩にめり込んでいたりしてハッチが開かない。ハッチが露出していても変形して開かなかったりする。
現場に差し掛かった二羽。兵は二羽に向けて小銃を構えている。新手のIGYOと思ったらしい。
龍愛がメガホンで
「龍愛だよ。戦車の中の人を助けにきた。撃ってもいいけど撃たないでね」
兵は一応撃たないことにしたらしい。銃口を下げた。
全員ホークから飛び降りた。
「これはひどいな。戦車がいるのにMOABを投下したのか。人殺しだな。戦車を切って中の人を救出。生きていれば舞とルーシーが手当。亡くなっていたら、一箇所に安置する。はじめ」
宗形が仕切る。
龍愛はポニーに乗って満足そうだ。
眷属が刃物でバターのように戦車を切っていく。中の人を引っ張り出して中央に並べていく。大半は遺体である。
数人息がある人がいた。ルーシーと舞が手当。バングルから点滴セットを出して点滴。
宗形が兵を見渡して、
「指揮官はいるか?」
「本官です」
「今、手当している人をヘリで病院まで運べ。眷属のドクターと子犬がついていく。ドクターヘリでなくて良い。一刻を争う」
「了解」
すぐ待機していたヘリが飛んできた。ルーシーと舞、子犬が瀕死の兵と一緒にヘリに乗って飛んでいった。
残りは遺体である。
「顔だけ手入れをしておいてやろう。龍愛、死後硬直はといてね」
「わかった」
龍愛が手を遺体に向けた。
「もういいよ」
「数が多いな。黒龍、荻野を連れてきて」
黒龍が消えてすぐ荻野を連れてきた。解剖用の支度をしている。
「高橋と宮川は逃げられると困るから声をかけなかった」
「そうだね。悪いね。大統領の命令で爆弾を落とされて吹き飛ばされて亡くなった兵隊さんだ。顔を見られるようにするから手伝ってね。始めるよ」
「わかりました。しかし、数が多いですね」
「祓川、荒木田、榊原もやるんだよ。ボーッとしていない」
「俺は死体は縫ったことはない」
榊原がぼやく。荒木田はやったことがあるらしい。
「血が出ないから簡単だ。さっさとやれ」
「宗形は何をするんだ」
「監督よ」
なんだかエスポーサに似てきた宗形である。
諦めてぶつぶつ言いながら外れた顎を元に戻したり、飛び散ったパーツを集めて縫い付けたりして顔を修復していく。
「おい、それはこっちの耳だ」
祓川が榊原に言う。
「いやこっちだ」
二人が譲らない。
「祓川の方だ」
宗形が声をかける。
「なぜだ」
榊原が聞いて、宗形が答える。
「DNAが同じだ」
「DNAがわかるのか」
「わかるに決まっている。だから監督だ」
「そうか」
宗形にもやらせようと思っていた祓川、荒木田、榊原は諦めた。自分たちにはDNAはわからない。
荻野は宗形先輩が異形のDNAの電顕写真をくれたが、目で見てDNAを見つけそれを電顕で写真に撮ったのだろうと思った。
レナードは、やはり宗形は半神だったと思った。
拾ってきた体のパーツを宗形が的確に指示して元の持ち主のところに祓川らが返していく。
兵隊は周りに集まって息を呑んで見ている。
黒龍と舞とルーシーが戻ってきた。
「助かりそう?」
「一命はとりとめたというところ。あとは任せてきた」
「よかった。それじゃ祓川たちの手伝いをして」
「わかりました」
祓川、荒木田、榊原、荻野、舞、ルーシーと人手が増えたので仕事が進んだ。手足のもげたものもそれらしく縫っていた。
「よし。終了。龍愛、綺麗にして」
「いいよ」
遺体の汚れ、服の汚れ、血のシミが消えた。もちろん祓川たちの汚れも消えた。
いつの間にか兵は整列していた。
小隊長が前に出る。
「ありがとうございました。綺麗な状態で家族に返せます。わが小隊全員、この事は一生忘れません」
「愚かな指揮官の犠牲者だ。手厚く葬ってやることだ」
宗形が言って龍愛が続ける。
「あたしが綺麗にしてやれって言ったのよ。感謝しなさい」
ゴン。
涙目の龍愛。
「では龍愛、引き上げの号令」
「帰るよー」
号令をかけてご機嫌になったポニーに乗った龍愛である。
「捧げー銃」
兵に見送られて空中で待機していたホークに転移した。兵たちの上を一周して龍愛たちはハワイである。
高所恐怖症の荻野だけは黄龍と転移した。
海岸で遊ぶ。
龍愛が隙をみてレナードと荻野の飲み物にワンワン印を入れた。宗形は知らんふりだ。
レナードと荻野が走り出した。海岸を走っていく。止まらない。
「あれ、二人は訓練がしたいみたいね」
宗形が言って龍愛がニコニコしている。
二人とポニーに乗った龍愛、宗形、黒龍、ホークが消えた。
「行ったね。美味しいお茶にしよう」
勝婆さんが言った。
悪い予感がする祓川たちである。この前も婆さんのその一言から訓練になってしまった。
足元が草原になった。黄龍が足元で笑い、向こうでゴードンさんが手招きをしている。
「しまった。また訓練になってしまった」
懲りない婆さんである。今度は婆さんは黙っていて欲しいと眷属は思った。外は10分、中は10日間の訓練コースである。




