116 大統領はIGYOを攻撃する
「IGYOとは何なのだ」
側近が初めてIGYOについてパソコンで検索している。
「全くのガセ、デマ、フェイクだと思いますが、日本にリューアという神がいてそのリューアと眷属が退治したと出ています。IGYOは日本、英国、北の国、中心国、砂漠の国、EUなどに現れ、その神と眷属が退治したと書いてあります。我が国にも現れたとあります」
「誰が書いているのか?」
「わかりません。AIが情報を拾って纏めてあります」
「我が国に出たと言うのなら資料があるだろう」
「IGYO対策室の資料はすべて捨ててしまいました」
「そうか。それは正しいだろう、な。リューア神だと?そんなものは信じられん。神は我々の神しかいない。邪神だ。異教徒が流しているフェイクニュースに違いない」
「硬いところではOginoという日本の学者がIGYOについて論文を次々と発表しています」
「そいつは信用できるのか?」
「我が国、EU、英国で発行の超一流誌に次々と論文が掲載されていますから学問の世界では認められているのでしょう」
「討伐方法が書いてあるのか」
「いや、タイトルを見るに純粋な学術論文のようです。しかしたくさん発表していますので何か知っているかもしれません」
「どこの大学だ」
「所属は、日本国異形等対策室となっています」
「そいつは何か知っているのではないか」
「メールでも送ってみましょうか」
「壱番国政府から属国のような日本の政府機関に頭を下げるわけにはいかない。個人の足がつかないメールアドレスから送ってみろ」
「何を聞きましょうか?」
「まずはIGYOの入手方法だ。それを知っていたらどうやって倒しているのかわかるだろう。うまく聞け」
無料のgafaメールサービスの無料メールアドレスを新たに作った側近、そこからOginoにメールを送った。
内容は、IGYOの研究者を目指している。ただIGYOの資料は手に入らない。どこで資料を入手しているのか、祖父は猟師をやっている。猟師でも倒せるのか。そう書いてメールを送った。
メールチェックと論文に関するデータベースチェックは最先端の科学者には必須である。荻野はキーボードの前で猫のように遊ぶ一向に成長しない黄龍をどかしながらチェックする。
黒龍や黄龍は時々遊びに来る。多分巡視のつもりなのだろう。
しかし来るのはおやつどきだ。ひとしきり遊んだらおやつをもらって次の眷属のところに行くらしい。
荻野は思う。私は眷属ではないがおやつをたかられる。可愛いからいいが。
変なメールが来た。大抵メールは研究内容の話である。それ以前の資料を得たい?資料?なんだこれは。それに名前はジョージ ワシントン。
黄龍が画面を見た。ふんと言う顔をしている。子犬はパソコンの作業内容もみんなわかっているらしい。メールに返事はしないことにした。
黄龍が消えた。おやつを食べずに。
すぐ戻ってきた。紙を咥えている。宗形の手紙である。たまにローテクな宗形であった。
黄龍がお駄賃と言っている気がする。しょうがないから硬い草加煎餅を一枚やった。湿気ていると文句を言っている気がする。
確かにいつの煎餅か忘れた。稲本夫人からもらった気がする。食べられたのだから良いだろう。
黄龍が消えた。口直しに何処かに行ったらしい。異形等対策室の秋月や美月なら何かくれそうである。多分そっちだろう。ルーシーもくれそうだが時差がある。
どれどれ宗形先輩はなにかな。
「さっきのメールの差出人は、壱番国大統領の側近、××××××、業務用メールアドレス◯◯◯◯だと龍愛が言っている。身分詐称だ。何も教えてやることはない。少しからかったら」
ふうーん。なるほど。龍愛様はメールアドレスも教えてくれた。では返事。
ジョージ ワシントン様
ジョージ ワシントンはコードネームとしては長いようですが。
なお、壱番国大統領側近 ××××××さん、あなたの場合は巨額のお賽銭なくば希望はかなえられません。
また貴政権は、人間の性別は男と女だそうですが、その分類でいくと私は女です。
親愛なる荻野澪央
「ばれた。なぜだ。・・・まずい」
「どうした?」
「大統領、Oginoに身分と名前、業務用アドレスがばれました。巨額のosaisenを要求されました」
「なぜばれた。Osaisenとはなんだ」
「どうしてばれたかわかりません。Osaisenは情報料でしょうか」
「CIAに調べさせるか」
「やめといた方が。ネットでは数年でノーベル賞を取るだろうと評判です。もしやるにしても合法的に穏やかにやらないと世界中から叩かれそうです」
「そうか。軍の活躍を待とう。退治出来ればそれで良いわけだから。ところで一拍あった後のまずいとは何か」
「Oginoは女性でした。Leoという勇ましそうな名前でしたので、Dear Mr. Oginoと書いてしまいました」
「それはまずいだろう」
翌朝、参謀が大統領執務室に来た。
「準備完了しました」
「よし。退治の瞬間を見ようではないか」
「会議室に大画面のモニターを用意してあります」
側近が手配したらしい。
機嫌が良い大統領。
「幹部連中を呼べ。一緒に見よう」
役立たずの国防長官、CIA長官も呼ばれた。
「始めるぞ。Ogino作戦、開始」
大統領が勝手につけた作戦名である。出鱈目であるが、そこは大人の参謀である。作戦開始を前線に告げた。
IGYOはバッファローを食べて満腹したのか寝ている。
モニターに展開している戦車隊が映る。一斉に戦車砲を撃った。
「やったか」
「いや、起きた」
きょとんとしていたIGYO。再び戦車砲が火を吹く。目が覚めたらしいIGYO。戦車に突進した。ひっくり返したり投げ飛ばしたりした。
「ミサイル打て」
モニターから将官らしい男の声がする。
ミサイルが次から次へと飛来。轟音が聞こえる。外れたミサイルが土煙を巻き上げる。
「どうだ」
土煙がおさまってきた。
「ダメです」
「MOABを投下しろ」
「あの、大統領、まだ戦車が残っているようですが」
国防長官が大統領に言ったが大統領は聞こえないのか聞こえないふりをしたのかわらないがモニターを見ているだけだ。
モニターの画面が無人機からの映像に切り替わった。
上空を飛んでいた輸送機の後部貨物扉が開かれパラシュートに引かれて荷台ごとMOABが空中に引き出された。荷台から外れてMOABはIGYOに向かって誘導されていく。
IGYOの頭上で大爆発した。濛々たる土煙、まるで原爆のようなキノコ雲が湧き上がる。戦車などは吹っ飛ばされた。岩に当たってぺちゃんこになったようだ。
「やったろう」
土煙の中から怒気に満ちたIGYOが現れ空に向かって吠えている。心持ち大きくなっている。
「くそ、MOABが無くなるまで投下しろ」
次は輸送機2機から同時にMOABが投下された。IGYOの前後で大爆発を起こした。
さらにIGYOはかんかんになって怒ったようだ。明らかに大きくなっている。IGYOを傷つけることもできなかった。IGYOが大きくなっただけである。
「次いけ」
大統領の指示で合計10発投下したが効果はなかった。怒らせて大きくなっただけである。
州知事は知事室で真っ青、大統領も顔色が悪い。
IGYOは東に向かって移動し始めた。怒れば腹が減る。帽岩渓谷州立公園を出た。




