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地球に異形出現 幼女神あわてる  作者: SUGISHITA Shinya


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113 異形釣り作戦

「さて始めるか。アンカーは誰が担当する?」

「面白そうだから私が投げる」

 唐獅子が立候補した。


「唐獅子はヘリとの連絡調整をお願いしたい」

「チェ」

「まあそう言わずに。手榴弾投げ放題だ」


「私がアンカーを投げよう」

 宗形が立候補する。


「アンカーを投げるのは上手くないかもしれない」

 宗形が投げると異形の頭が無くなりそうだと祓川は思った。


「作戦を変えよう。吊り下げている豚にアンカーを縛り付ける。鎖は岸から伸ばす。豚を水面につける。豚は騒ぐ。異形が餌と思い水面に上がって来る。豚をアンカーと一緒にひと呑みする。そしたら豚を吊り下げているロープは切ってヘリと切り離し、岸からアンカーの鎖を引いて異形を引っ張りあげる。異形が口を開けたら手榴弾を口の中にぶちこむ。体内からの攻撃が効かなかったらいつものように討伐する。でどうだ」


「やってみよう」

 唐獅子がヘリを呼んで豚を下ろして、自衛隊員がアンカーを豚に縛り付けた。いやアンカーに豚を縛りつけたというほうが正確だ。

「危ないと思ったらロープはすぐに切り離して良い」

 ヘリの乗員に唐獅子が命令する。

 唐獅子も偉そうだと高橋と宮川は思う。


 祓川が法螺貝を吹く。

「始めるぞ」

「待て、俺はヘリに乗ろう。危なかったらヘリのロープを切る」

「俺も乗ろう。アンカー作戦が失敗したら、俺が飛び降りる」

 仲良く、荒木田と榊原の忍者コンビがヘリに乗り込んだ。


「異形釣り作戦開始」

 唐獅子の命令を受けヘリが上昇し、川の淵を目指す。岸からアンカーの鎖が伸びる。淵の水面に豚をつけた。最初の淵は反応なし。二つ目の淵も反応なし。


 三つ目の淵に豚を降ろす。波が立つ。下から黒い大きなものが浮かんできた。アンカーごと豚を飲み込んだ。


「ロープを切れ」

 唐獅子が指示して荒木田が忍者刀で豚を吊り下げていたロープを切った。


 宗形がアンカーに繋がった鎖を一人で引く。淵からワニ型異形が引っ張り出される。首を振って四肢を踏ん張り抵抗する10メートルくらいの異形を宗形が軽々と鎖を引っ張って岸まで引き上げた。警官は宗形の怪力に呆然。


 異形が口を開けた。

 唐獅子たちおばさん三羽烏が箱から信管がすでにセットされている手榴弾を取り出し、ピンを抜いて十数メートル先のワニの開いた口に直球で投げ入れる。豪速球である。直線で飛んで行って異形の口内を通過、体内にまで届いてくぐもった爆発音がした。アンカーの鎖は切れた。


 異形は口を閉じた。尻尾で攻撃することにしたらしい。向きを変えて尻尾を鋭く振った。

 祓川が錫杖で尻尾を切り落とした。


「異形が逃げるぞ。脚だ」

 ヘリから飛び降りた荒木田と榊原が前脚を一本づつ切り落とした。後ろ脚は宗形と唐獅子が切り落とした。


「おい、頭を撃ってみろ」

 銃オタと皆殺し愛子が神式銃で頭に無数の銃弾を浴びせる。動かなくなった。


「こいつは形は爬虫類だが、基本的構造は異形そのものだな。頭を潰せば死ぬ」


「バスから出て来ていいぞ」

 高橋と宮川助教がバスから出て来た。顔色が悪い。


「荻野を呼んでやれ」

 高橋がスマホで連絡した。すぐ防護服を着た荻野が黄龍と転移して来た。


「ああ、頭を潰したら死にましたか。形は爬虫類ですが、異形そのものですね」

 一眼見ての感想である。


「ひっくり返してください。ざっと見てみましょう」

 みんなでひっくり返した。


 荻野は、高橋と宮川に

「防護服を着てください」

 二人は乗って来たパトカーからリュックを取り出し防護服を着た。


 荻野がシートを敷いて異形が切れる龍愛特製解剖用刃物などの道具をリュックから取り出し並べておく。

「では始めます」

 礼をした。身についた人間用解剖時の習慣である。


 龍愛特製短刀のようなもので腹を縦に切って、四肢の方にも切り込みを入れて、腹を開いた。


 高橋と宮川に両脇から龍愛特製開創器で皮を引っ張ってもらっている。

 爪付きクリップのようなものでガッチリ皮を挟んで、クリップから伸びたワイヤーの先に水上スキーのような持ち手がついていて両手で引っ張れるようになっている。人間の手術の開創器はおもちゃのようなものだ。


 二人は法医とは肉体労働なのだろうかと思いながら両手で引っ張っている。


「体重をかけて引っ張りなさい」

 そう二人に言って荻野は太い紐を手に取った。


「この臓器の中に強力な液体が入っていて付くと何でも溶けてしまいます。防護服も溶けます」

 言いながら臓器が体とつながっている部分を紐で縛った。


「こうしておけば大丈夫です。前は知らないで触ってしまい、左右の掌の中頃まで溶けたことがあります。クロちゃんとキイちゃんがすぐ治してくれました。そのあとは手が丈夫になったみたいで触っても溶けなくなりましたが。なお液体は死後一時間ほどで効力を失いますのでヘリやトレーラーで運ぶ頃には無害になっています。だから誰も気が付かなかった。縛って空気が入らない状態にしておくとこの特別に丈夫な臓器の中の液体は臓器が腐るまで効力があります。これは貴重なサンプルです」


 荻野の論文はまさに身を切る努力によって出来上がっている。とても我々凡人に真似の出来るものではない。

 液体がつくと溶ける恐怖と筋力不足とで震えている持ち手を引っ張っている自分の腕を眺めながら高橋と宮川は思った。


「この異形の場合、ただ体の外見をワニ型にしただけで内臓は四つ足と変わっていないようです」


「口からつながった部分が消化器相当部分ですが、見かけ手榴弾の影響はないように思います。アンカーはだいぶ消化されています。小さくなっています。生きていれば消化してしまうでしょう。さっきの臓器から出る液体で消化しているものと思います。まだ液体の効力があるといけないので切らないことにします。今出来ることはこのくらいですね。あとは自衛隊の倉庫でやりましょう。高橋、宮川、ご苦労さん」


 荻野はクロちゃんと異形と解剖用道具と一緒に転移して行った。

 キイちゃんが行く?と言うふうに高橋と宮川を見た。逡巡したが頷いた。二人はリュックを持ってキイちゃんと転移して行った。


 宗形が秡川を向いた。

「凄まじい解剖学者だな。いまごろあの万能消化液入り臓器を嬉々として冷凍保存しているぞ」

「そうだろうな。高橋と宮川が逃げ出さなければいいが」


「おれも逃げたい」

 荒木田がぼそりといって榊原が頷く。

「お前たちは直属の上司だ。俺はその上だ。お前らがまず溶かされればいい」

「まあいままでさんざ異形を切って活きのいい液体を浴びているから大丈夫だ」

 宗形はお気楽だ。


 それから二機のヘリで二手に分かれて、川の上流、下流を確認した。他には異形はいなかった。


 数日後、高橋と宮川が教授室に呼ばれた。

「この間はご苦労さん。これは異形討伐特別手当だ」


 通帳とハンコとキャッシュカードを渡された高橋と宮川。口座申込書の控えを見ると自分の筆跡でサインしてある。覚えは全くないが自筆だ。通帳に自分の名前がプリントしてある。開くと残高は一千万円である。

 ぎょええと思った二人。


「その口座は特別で税金がかからないので安心してくれ。税務上は全くのノーカウントだ。自分の年収に組み込まれることもないし悪者に狙われることもない」


「悪者にとは?」

「北の大国が初穂料を払い込んだ後、この手の口座をかぎ回った奴がいてな、夜釣りに出て海に落ちて溺死したり、情報を漏らしたと思われる銀行員が歩いていて北の大国で使う毒物を注入されて死亡したりとか色々あるので誰も手を出さない」

 再度ぎょええと思った二人。


 勇を鼓して高橋が聞いた。

「これはどこから出たお金でしょうか」


「眷属が異形を討伐すると龍愛様に初穂料として一体につき一億円が入ってくる。いわば龍愛基金だな。そこから各人に手当が払われる。龍愛様からもらったと思えばいい。神様のやることに税金はかからない。俺は公務員だから公務員としてもらっている分は引かれてしまう。宗形が細かいのだ。まあ公務員の手当は大したことがないからそんなに影響はないが。今回は二人には初回ボーナスで多少増額したと宗形が言っていた」

「そうですか」


「丈夫な服を買うとかスポーツジム、空手、柔道、剣道等の道場などに通う費用にするといい。射撃はこっそり自衛隊でやっていいぞ」

「ええーー」


 化粧や美容は全くない、すべて筋肉方面か。ここは体育学部か自衛隊の学校かと思った二人である。


「言うまでもないが異形等対策室、眷属、討伐の様子などは部外秘だ。採用に黒龍と黄龍が関与している理由だ。あれで龍愛様の親神様が作った犬だからな。危ない連中にはバツをつける。不採用だ。お前たちはマルだから大丈夫だ。龍愛様に採用されたようなものだ」

 ため息をつく二人。


「何年かすれば荻野はノーベル賞だ。そしたら国が研究所を作る。荻野が所長でお前らは部門長だ。頑張れ」


 通帳を眺めながら、逃げられなくなったと思う高橋と宮川であった。

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