100 空飛ぶ異形出現
スペイン シエラ ネバダ、ムラセン山。
2頭の異形が飛び立った。ゆっくり飛行する。餌がある方へ向かう。小さい村々を破壊、住民は餌となった。
運よく逃れた村人は必死になって警察に電話、隣村の知り合いにも電話した。
知り合いと話しているうちにスマホから轟音が聞こえた。それっきりであった。
異形は餌が多い方に向かう。
警察に、空飛ぶ怪物に村が襲われ壊滅、住民は食べられたという通報があった。最初はイタズラかと思ったら、次々に他の村から同じ通報があった。
進行方向を辿るとグラナダである。グラナダは世界遺産のアルハンブラ宮殿がある。国の貴重な観光資源である。焦る警察。すぐ航空宇宙軍に出動要請をした。
航空宇宙軍はこのごろ噂のIGYOと判断、すぐユーロファイター戦闘機をスペイン南部の基地より出撃させ、遠くから大量のミサイルを打ち込んだ。なんらダメージを与えられたようには思えなかったが、うるさいと感じたのか海の方へコースを変え地中海に出た。
海上で運悪く旅客機がIGYOに遭遇。IGYOは自分の何倍もある旅客機を鷲掴み、小島のアルボラン島に運んだ。食べられるかと思ったらしく胴体に噛み付く。ペッと吐き出したが、中に餌を見つけた。二本足の空飛ぶ巣と思った。
島の駐留兵士は、IGYOに向け小銃を撃つも全く効果なし。あっという間に餌になってしまった。
スペイン、モロッコ、アルジェリア、フランス、チュニジュア、イタリアとヨーロッパとアフリカの沿岸の街を襲いながら地中海の上を東に進む。
遠く旅客機が飛んでいる。二本足の空飛ぶ巣だ。飛ぶものを相手に狩りをするのは面白い。IGYOは狩に行った。
空飛ぶ巣が逃げる。面白い。小さい巣も飛んできた。小さい巣はうるさい。握りつぶす。大きい巣は少しからかってから掴んで島に下ろした。巣の上部をむしり取って二本足を食べる。
まずまずの狩の成果である。休憩。
襲われたスペイン、フランス、イタリアの首脳陣は考える。
噂によれば討伐はリューア神と眷属しかできない。確かに各国の空軍が出動したが撃墜できなかった。
リューア神に依頼すると初穂料と言う名目の討伐料が一体一億円だそうだ。空を飛んでいることから上乗せ初穂料があるかもしれない。EUから依頼させ初穂料もEUに払わせた方が得策である。
すぐ三国で話がまとまり、被害が広範囲にわたるとしてEUを巻き込んだ。
巻き込まれたEU。前例のないことではあるが移動速度の早い飛行型IGYOでは一国では対応不能だ。加盟国もいつIGYOが自国内に出現するかもわからない。そのとき他国からの支援が必要だ。そう思ってここはEU対応としておいた方がいいだろうということになった。
しかし、抜け目のないEU、アフリカ大陸諸国にも被害が及んでいると知って、すぐさまアフリカ諸国と交渉、IGYO討伐はEUが代表してリューア神に依頼するが、初穂料はIGYOが落ちた側が支払うことで決着した。
EUはすぐさま駐日EU代表部のクンラート ゼーマン駐日欧州連合特命全権大使に訓令。
内容は、「直ちに山城稲荷神社に赴き、リューア神様に地中海付近の空飛ぶIGYOの討伐を依頼せよ」であった。
大使は急ぎ山城稲荷神社に向かった。
この頃は各国大使館は山城稲荷神社の住所等は把握しているのであった。駐日EU代表部ももちろん把握している。
外交官ナンバーの車で山城稲荷神社に向かうが警視庁に依頼して先導してもらった。白バイのナンバーは大使は読めないが異である。
かなりのスピードで狭い首都高を突っ走る。
「君、こんなにスピードを出していいものなのかね」
大使が運転手に聞いた。
「白バイが先導していますのでいいのではないでしょうか。それにあの白バイは噂のナンバーのようです」
「なんだいそれは」
「IGYO関係の白バイで、緊急車両用の制限速度はないようです。スピード出し放題です」
「そうか。さすが世界で初めてIGYOが出現した国だ」
大使はハラハラしながら運転を見守る。
やがて首都高を抜けて広い高速に入った。
しばらく走って高速を降りた。流石に白バイはスピードを落とした。
白バイは山城稲荷神社の階段下駐車場まで先導し、戻って行った。
「これを登るのかね」
階段を見上げて大使は秘書に聞いた。
「武蔵西南市の観光案内のホームページの情報ですと上に向かう道路はありません」
「上までどのくらいかね」
「標高差約100メートルと各国からの情報を集めた極秘資料集に載っていました。邪な者は階段を10段登るのが限界のようです」
「資料集は見たが気がつかなかった」
「登らないと話になりませんので頑張って登ってください」
大使は自分一人苦行をするのでは面白くないと思った。
「お前も行くんだ。登るぞ」
諦めた秘書。車と運転手を駐車場に残して一緒に登り出した。
「大使、11段目です。無事に10段の壁は乗り越えられたようです」
二人してフーフー言いながら登る。年寄りの夫婦が降りてくる。
「こんにちは。良いお天気で」
秘書は日本語がわかるので、返事をした。
「こんにちは。まだ先が長いのでしょうか」
「もうすぐですよ。あと半分くらい」
日本語で「もうすぐ」と言うのは半分のことを言うのか、知らなかったと秘書。
ハーハー言いながら二人は階段を登り切った。振り返って見ると駐車場ははるか下である。
登り切ったところに鳥居がある。
「大使、これは鳥居と言います。リューア神様依頼作法その1。鳥居の手前で一礼する。です」
「わかった」
二人で礼をする。
「それで作法その2はなんだい?」
大使は気さくな人である。
「作法その2は、境内を掃除している人には軽く会釈をし、正面の建物の前で一礼して、箱にチップを入れる。です」
二人は社殿の前で一礼して、箱に大使は100ユーロ、秘書は10ユーロ入れた。ここでケチってはまずいと思って張り込んだ大使である。
「それで作法その3は?」
「傍にある家に行って礼をして訪いをする。あとはひたすらお願いする」
「では行ってみよう」
隣の家に行き、一礼して玄関前まで進んだ。
引き戸が開いて背筋の伸びた老婦人が迎えてくれた。足元に子犬がいた。
「いらっしゃいませ。どうぞ中へお入りください」
駐日大使だから日本家屋で靴は脱ぐのはわかっている。大使と秘書は靴を脱いて上がった。
応接室に案内された。よく磨かれた床にテーブルと椅子がある。
背の高い骨格のしっかりしたキリリとした女性が待っていた。上が白、下が赤の服装である。
挨拶後、大使がIGYO討伐を依頼した。
「英国には龍愛の信者がいるのよ。EUにはいたかしらね。信者のために討伐しているのよ」
「わ、私が信者になります」
神よ許したまえ。方便ですと祈った大使。
「そう。まあいいわ。黄龍、龍愛を迎えに行って」
尻尾を振って子犬が消えた。
「消えた」
「大使、眷属の黄龍様です」
秘書はなかなか物知りだ。
女児が出現した。その後ろに背の高い神々しい男女がいらっしゃった。まさに神だ。腕に一羽づつ鷲を止まらせている。子犬は2匹になった。
神様が降臨されたと慌てて大使と秘書は椅子から降りて膝をついて胸の前で手を組んで頭を下げた。方便はどこかに行ってしまった。
「たまたま龍愛と空飛ぶ乗り物を探していたところでした。どうぞ椅子にお座りください。今日は龍愛に用なんでしょう」
「大使、神様と朱様の二柱の神様です。女児が龍愛様です」
へ、女児が龍愛様かと大使は思った。
「私が龍愛よ。神よ。偉いんだから。平伏しなさい」
ゴンと女児が女神様に頭を叩かれた。
「そんなこと言わないの。偉いかどうかは相手が決めてくれる」
龍愛様は涙目である。
「今日は龍愛様にお願いにあがりました」
お願いと聞いて気分回復した龍愛。
「何?」
「ヨーロッパとアフリカ、地中海を股にかけて飛行型IGYOが沿岸の街、飛行機を襲っています。どうか討伐していただきたくお願いに参りました」
「そう。でも空を飛ぶ乗り物、ホーク龍とホーク愛を今日手に入れたばかりだから。あ、タイソーが飛行機に乗っている。タイソーにやらせよう。でも落ちちゃうか」
「ドラちゃんに手伝いを頼んでいいよ」
「わかったー」
女児が消えた。
「それでは、初穂料ですが、今回2羽、基本初穂料は2億円です。ですが、空中加算1億円。計3億円。龍愛はまだそんなに力がありませんので、世界樹の星の神様に手伝いをいただきました。3億円の中から1億円世界樹の神様に支払いとなります。私はマネージャーの宗形と申します」
「僕はいらないよ」
「いえ、もらっていただかないと龍愛が増長します」
「そうか。それじゃこのホーク龍とホーク愛を訓練して来るよ」
二柱の神様が鷲と共に消えた。
大使と秘書は、宗形マネージャーは確実に龍愛神さまより偉そうだ。子役のマネージャーと思えばいいのか。そう思った。
鷲とともに消えた二柱の神様には即帰依してしまった。
「お二人は他の星の神様だからね。龍愛はこの星の神だから幼女神だけど信仰してやりなさい」
「はい。もちろん」
二柱の神様の子供のような神様であるがこの星の神というので入信することにした。
龍愛様が戻ってきた。龍愛様より遥かに強そうな二人の女児と一緒に。
「あれ、シン様、アカ様は?」
「ホーク龍とホーク愛の訓練をしてくれるって」
「助かる。じゃ討伐に行って来るね」
「お二人がドラちゃんとドラニちゃん。神様、朱様の眷属。龍愛のお姉さんのようなものね」
「なるほど」
「そうね。二人にはこれをあげるわ」
宗形が鈍い黄金色の小さい像を取り出して二人に渡した。
「龍愛と神様、朱様、ドラちゃん、ドラニちゃんの像」
「ありがとうございます」
神像を押し戴いた二人であった。
二人は完全に信者になってしまった。神に会ったら誰でも信者になるだろう。あったこともない神は想像上の妄想だ。そう思う二人である。
さっきまで信仰していた神は妄想になってしまった。
「この皮袋もあげよう。中に入れておくといいわ」
二人が皮袋をもらって像を入れようとしたらスッと消えた。袋の中に入っているのはわかった。
「小さい収納になっている。上手く使えば」
「ありがとうございます」
宗形にも頭が上がらなくなった二人である。
「討伐したら連絡するからすぐ払ってね。口座は今回はこの口座」
神社の口座を教えた。
二人は後退りしながら応接を出て家と社殿に一礼して帰って行った。
二人は階段を降りながら気がついた。
最初に迎えてくれた老婦人も含めてすべて大使の母国語で対応してくれた。言葉に何ら違和感がなかった。やはり神様とその眷属様だと思った。




