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010 クラスへ

 教師のゼーハーがおさまって、事務員さんが声をかけた。

「今日転入の5年生の樹乃龍姫様です」

 ゼーハーしていなかった先生が答えた。

「私が担任の荒木田です」

「よろしくお願いします」


「じゃあ行きましょう。小学部は少し歩くようです」

「大丈夫です」

 荒木田先生とドラちゃんが出ていった。


 事務員さんが続ける。

「こちらが3年生の樹乃龍華様と樹乃龍愛様です」

 ゼーハーしていた先生が答える。

「担任の大井です」

「よろしくお願いします」

「お願いなの」


 龍愛ちゃんというのはやけに幼いと思った大井先生、転入生だしこれではいじめられるかしらとも思う。


「大丈夫です。いじめたらいじめ返しますから」

 頼もしいお言葉の龍華ちゃんだ。


「ええ、そうなの。双子なの?」

 資料をよく読んでいなかった大井先生。


「姉妹ではありませんが、親戚です。お父さんがこの子の名付け親です。それに龍愛も強い」

 龍愛はしっかりとドラニちゃんの服を掴んでいる。


 これは龍華ちゃんに任せておけばいいか。龍華ちゃんは目を引く美貌だが、目力があるし、吊り目だし、強そうだ。睨まれたら怖いだろうな。龍愛ちゃんはぽやっとしていて、龍華ちゃんは強いというけど、龍華ちゃんの服をギュッと握っているし、ほんとかなと思ってしまった大井先生であった。


「それじゃ龍愛ちゃんのことをよろしくね」

「承知」

 うへ、怖いと大井先生。


「じゃあ教室に行きましょう」

「龍愛、行くよ」

「うん」

 龍華と龍愛は手を繋いで大井先生と出ていった。


「次は高等部の先生を呼んできます」

 実業団女子駅伝の選手がダッシュして行った。


「どこにお住まいなのですか」

 お茶を持って来てくれた事務員さんに聞かれた。


「山城稲荷神社です」

「稲荷さんですか。この街では稲荷さんと呼んでいます」

「そこの神主さんのところに寄宿しています」


「稲本さんとは親戚なのですか」

「はい、そうです。遠い親戚です」


 話をしていると駅伝選手が男を連れて来た。

「俺が担任の竹田だ」

 マウントを取ろうと威勢よく入って来たゴリラ2号くん。


「よ・ろ・し・く」

 立ち上がってご挨拶申し上げた。竹田先生、腰砕になってよろよろとドアにぶつかって止まった。僕は見かけただの人だけどね。

 口をぱくぱくしている。大丈夫か。酸欠になりそうだ。


 事務員さんから小さく声が上がった。シンさまー。

 アカも立ち上がって、

「シン、教室に案内してもらいましょう」


 歌劇団のスターよりオーラがあるアカ。事務員さんからアカさまーとこちらも小声で声がかかった。


「は、はいー」

 声が裏返ってしまったゴリラ2号君。ヨタヨタと廊下に出た。


「ではみなさん、ありがとう」

 事務員さんにお礼を述べると、目がハートの事務員さん。

「いつでもおいでください。私たちは全力で神様、朱様をサポートさせていただきます」

「はい。よろしくお願いします」


小学部5年1組の教室。

 龍姫ちゃんを連れて荒木田先生が教壇に上がる。

「はい。静かに。今日からお父様の仕事の都合で転入して来た樹乃龍姫ちゃんです。仲良くしましょう。では龍姫ちゃん自己紹介をお願いします」


 教室を睨め回す龍姫ちゃん。

 シーンとしてしまった教室。


「樹乃龍姫です。山城稲荷神社に住んでいます。よろしく」

「か、簡単な自己紹介です。席は窓際、一番後ろの席が空いていますのでそちらにお願いします」


 あ、まずいか、悪ガキがいると思った荒木田先生。

 龍姫ちゃんは無人の野を行くが如し。悪ガキも足を出さない。


「ちょっと狭い。座りにくい」

 ささっと悪ガキが机を移動して龍姫ちゃんの机との間をあける。

「ありがとう」

「はい」


 荒木田先生には悪ガキの「はい」が「へい」に聞こえてしまった。三下、パシリになりそう。心配すべきは悪ガキの方だった。


 授業が始まり、荒木田先生が龍姫ちゃんを観察していると、授業の初めに教科書類をぱらぱらと見て、あとは腕組みをして、じっと前を見ている。それだけ。ノートも何も広げない。わかっているのかわかっていないのかわからない。目を半眼に開いて、じっと前を見ている。座禅をしているようだ。微動だにしない。隣の悪ガキはさらに机を龍姫ちゃんから離したようだ。

 帰りの会の時に龍姫ちゃんを職員室に呼び出した。


小学部3年3組の教室

「ここが3組の教室よ。入りましょう」

 中はざわついている。


「はい、みんな静かにしましょう」

 ざわつきは収まらない。


「今日は新しい友達が来ました。樹乃龍華ちゃんと樹乃龍愛ちゃんです。みんな仲良くしましょう」

 依然ざわめきは収まらない。


「静かにしなさい」

 よく通る声で龍華ちゃんが声をかけた。

 ピタッとざわめきが消える。


「私は樹乃龍華、こちらは」

「じゅ、樹乃龍愛」


「先生、どこに座ったらいい?」

「あの窓際の後ろの空いてる席」


「龍愛、行くよ」


 授業が始まる。学級崩壊気味の大井先生のクラス。何時もざわついていたが今日は不気味に静かだ。授業が進む。


 大井先生がふと見ると龍華ちゃんはノートを取らない。わからないのかしらと思った大井先生。2時限目でも同じ。一切ノートを取らない。気を付けて見ていると授業の初めにぱらぱらぱらと教科書などをめくっておしまい。あとは座禅状態だ。微動だにしない。


 龍愛ちゃんはというと、ノートを取っている。見ていると板書を必死に書き写しているだけのように見える。わかっているようには見えない。これも問題だ。


 頭が痛くなる大井先生であった。


 帰りの会の時に、龍華ちゃんと龍愛ちゃんを職員室に呼び出した。

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