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死にゆく少女の見る夢は

金のために、死に瀕した人に走馬灯を見せる業師。走馬灯士

今日は少女の枕元に立つ。

死の直前、願う映像を見せてくれる業師

死の直前の脳裏に浮かぶ画像を残してくれる業師

死の直前に脳裏に浮かぶ映像を作り替えてくれる業師


少女はずっとベッドの上だった。

生まれてきてずっと体が弱かった。両親は心から少女を愛したので、できる限りのことをした。田舎の小さな領地を持つ貴族だったが、まず領地で特産物を生み出し、それを広く商うことで金を作った。その金で王都にタウンハウスを持つことができた。

他の大貴族のような大きなタウンハウスではなく、こぢんまりとした小綺麗な建物だった。

嘔吐には医者もいる。娘のために環境を整え、できる限りの薬剤を手に入れ、高名な医師にも見せたが、娘は元気にはならなかった。


「猫、どうしたの」

猫が足元で遊んでいた。少女はベッドの上に起き上がって手を伸ばした。

猫がぺろっと手を舐めた。そしてふわっと少女の膝に乗り甘えた。しばらく甘えて、ベッドからひらりと降りた。

「どこにいくの」

少女はベッドから降りた。

「降りられた、私立ってる」

少女は一人でベッドから降りたことがなかったにも関わらず、猫を追い、ベッドから降りた。そして猫を追いかけて窓辺に歩いた。

窓の外には、両親が娘のために植えた数々の花が咲き誇っていた。

「綺麗・・・」

少女はその花畑の間を猫に先導され歩いた。

「綺麗、なんて綺麗なの」

地面はお日様に照らされて暖かく、微風が柔らかな彼女の髪を揺らした。

「素敵な花、外ってこんなに素敵だったのね」

少女はゆっくりと歩き続けた。猫がぴょんとはねた。はねて空を飛んだ。

「猫ちゃん」

手を伸ばして追いかけると、少女の足は地を離れ、空へと飛び出していた。まるで背に羽が生えたかのように少女は空をかけていった。タウンハウスの建物が小さく見え、街が広がっている。大きなお城、王宮がそれも小さく見え、遠くの山が深い緑の中に白い雪を抱えていた。

「なんて綺麗なの。これは、以前本で見た、高い山から見た景色なのね」

少女の目から涙が溢れた。溢れた涙はほおをつたい、散っていった。


「ご臨終です」

医者は深かい息と共に静かに少女の瞼を閉めた。いく筋かの涙が枕を濡らし、それ以上に両親が声を殺して泣いていた。

母親は涙をこぼしながら、走馬灯士に頭を下げた。高貴な身分である貴族が平民に頭を下げることはまずない。

「最後にあの子にあんな綺麗な夢を見せられたわ」

「いや、仕事ですから」

執事も泣いていた。その執事からずしっと重い皮袋を受け取ると、走馬灯士は静かにその部屋を辞した。部屋では両親や執事、使用人たちが悲しみを共有するのだろう。喧騒の街で、欲望渦巻く王都の片隅で、少女は何も穢れを知らず、心優しい人たちに囲まれ、愛され、そして死んでいった。

「あんなふうに生きるのは幸せだろうか」

答えのない問いを巡らして、今はねぐらに向かうしかない。


なんの汚れも知らず、人に愛され、大切に守られた命は、幸せなのか

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