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願い星 -平和への願い-

作者: ・リヴ・

願い星。

この空のどこかにあるというその不思議な星には、一生に一度だけ、心から望んだ願いを叶えてくれるという伝説があった。

これは『願い星』にまつわる、どこにでもある無数の物語の一つに過ぎない。




人間は死ぬくらいの大きな怪我をしたら痛さを感じなくなるというのは本当らしい。

薄れゆく意識の中で私はそんなことを考えていた。


腹部からはおびただしい量の血液がとめどなく流れ出しており、助かる可能性は低そうだ。

ましてや戦場の、それも最前線のこの場所では万に一つの奇跡も見込めない。


しかし死を目前にしても不思議と私には恐怖心はなかった。戦場で多くの死を見てきたからなのかもしれないし、いつかこうなることが分かっていたからかもしれない。


私はあまりにも多くの生命を奪いすぎた。

言い訳をするつもりはないが、自分が生き延びるためには殺すしかなかったのだ。


だからこそ、いつか私も誰かの手によって、その誰かが生き延びるために殺されるだろうと、ずっと感じていた。

それがたまたま今日という日だっただけのことだ。





私が初めて戦場に立ってから、早いものでもう三年になる。


私たちの国と敵である隣国とは、もともと一つの国だったが、何十年も前に王位をめぐって起こった内乱によって二つに分かれてしまったという歴史を持っている。


そのため長らく国境周辺で小競り合いが起きていたのだが、三年前に国境上に大量の資源が眠っていると分かってから、その所有権をめぐって戦火は一気に拡大した。


別に私自身、その埋蔵資源に興味があったわけではないし、とりたてて敵国の人間が憎いという感情もない。

では、何故戦場で戦っているのか。

その理由は実に簡単だ。

ただ今がそういう時代だったというだけ。

たったそれだけの話なのだろう。


きっと私を撃った相手も同じような理由で戦場に立たされ、同じような理由で私を撃ったに過ぎないのだ。

もし彼が撃たなければ私のほうが彼を撃っていたのだから、その判断は何も間違ってはいない。


そんなことを考えている所為だろうか、不思議と心の中に憎悪の感情は沸いてこない。

今度は私の番だったのかと諦めに似たような気持ちが溢れてくるだけだ。





ただ一つ、心残りなのは故郷においてきた家族のこと。


私はまだかろうじて動かせる右腕で首に掛かった銀のロケットをまさぐり出した。

故郷を出てからずっと身につけていた所為か、すっかり酸化してくすんでしまっている。


苦労して蓋を開けると、生まれて間もない息子を囲み、笑いあう私と妻の写真が顔を覗かせた。

徴兵される少し前に撮った最後の写真。

戦場で幾度となく眺めたそれは、すっかり色あせてしまい、ところどころセピア色に変色してしまっている。

けれど、今でも私はあの時の光景を色鮮やかに思い出すことができた。


そっと息子に優しげな表情を見せる妻の姿。

私たちを見つめ幸せそうに笑う息子の声。

そのどれもが今となっては懐かしい。


あれから随分と時間が経ってしまった。

妻も私が家を出てから大変な苦労をしただろうし、息子とて写真の中の姿から成長して大きくなっているに違いない。

あの頃と今では何もかもが変わってしまっている。


何故こうなってしまったのだろう。

私たち家族が一体何をしたというのだろうか。


その問いに答えてくれるものは『戦場ここ』にはいやしない。

そんなことはわかっていた。

誰もが私と似たような問いを抱え、そして答えを出せずに戦い続けているのだから。





いよいよ身体が動かなくなったとき、以前、戦死した上官に1度だけ聞いた話を思い出した。


『一生に一度、どんな願いでも叶えてくれるという星が、この空のどこかにある』

たしかそんな内容だったと思う。


聞いた直後は『そんなのただの空想話だ』と仲間と一緒に笑ったものだが、死に逝く今になってその話を信じてみたいと思い始めていた。

今更信じたところで手遅れかもしれないが、気がつくと私はかすむ目で、本当に実在するのかもわからない星を探していた。



白昼の空に星など見えるはずがない。分かってはいたが最期に何かせずにはいられなかった。

けれど、万が一星が見つかったとしても、私は一体何を願うのだろう。


生き長らえたい、死にたくない。

今更そんな都合の良い事を願おうとしているのだろうか。

それとも最後に一目家族に会いたいと願うつもりなのだろうか。


なんだかどれも違う気がした。

大勢の人間の生命を奪った私が、今更自分だけは助かりたいなどと願えるわけもないし、自分が動けない以上、一目家族に会うためには妻たちがこの地獄に足を踏み入れなければ実現しようがない。

そんなの叶うはずないじゃないか。


そう思い自嘲した時、私は自分の気持ちに気がついた。

私は『家族にこんな地獄を見せたくない』、そう願っているのだ。



このまま戦いが拡大し長引けば、間違いなく息子も私と同じように戦場に駆り出されるだろう。下手をすれば、そこまで成長する前に戦火に巻き込まれる可能性だってある。

そんな未来はとてもじゃないが許容できるはずがない。



私はゆっくりと冷たく重くなる目蓋を気力だけで開きつつ、ただただひたすらに星を探した。

白昼であろうが、目がかすれようが、そんなことはもうどうでもよくなっていた。

 

そして、とうとう目蓋さえも言うことを聞かなくなったとき、わずかに開いている視界の端に、明るい空にあるはずもない星を見た気がした。

 


やっと見つけた…。



安心した途端、抗うことのできないほど強烈な眠気に襲われる。

ゆっくりと意識を眠気に任せながら、私は眠りに落ちる直前に不思議な星に向けて、ありったけの願いを込めて祈ることにした。



『もう二度と争いのない、平和な世界がやってきますように』と…。



まずは、つたないお話にお付き合いいただきありがとうございました。

久しぶりの投稿なので勝手がよく分かりませんが、そのあたりはご容赦いただきたいです(苦笑)


お話の内容に関してですが、あえて最後を尻切れトンボで終わらせてみました。

最終的に『私』がどうなったのか、本当に『願い星』なんて星はあったのか、願いは本当に叶ったのか、その全ては謎のままにした方が自分の中ではスッキリしたんです。

結果的にそれが良い方向に出たのか、悪い方向に出たのかは自分じゃ分かりませんけどね(笑)

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