潜水から浮かび上がった一撃をくらえ
息を止めて深く潜り始めてからどれくらい経っただろうか。
暗闇の中で同じように深海で泳いでいる仲間が、また一人と息絶えて地上へと浮かんでいく。
死んだ魚の目をした同胞と目が合う。虚ろの濁りに皮肉めいた輝きが宿る。
「誰もそこまで本気でやってねぇんだよ」
最後の力を振り絞って吐き捨てられた台詞が泡となって消えていく。
砂に埋もれていた屍たちが、言葉に引きつけられて次々と浮かび上がっていく。
「一人で熱くなって逆にサムいわ」
「努力が報われるとか本気で思ってんの」
「現実みろよ。才能なんか一握りなんだから」
「一生“特別”になれないまま死んでいくんだよ」
「今更一発当てたいとか、痛い夢見てんなぁ」
辛抱強く息を止めていた仲間もつられ、少ない酸素を吐き出して死んでいく。
くらげのようにただ海底を漂う人の群れを眺めながら、私は手に握った筆をもう一度握りなおして“作品”と向き合った。
趣味の延長であることは否めない。
三角形の頂点に位置する高みを目指すには、生まれ持った才能が足りないのも自覚している。
愚直な努力が認められるほど甘い世界ではないし、特別な人間だと自惚れられる身の程知らずではない。
しかし──だからといって夢を捨てられるほどの甘っちょろい覚悟で、光の届かない場所で息を止めてはいない。
弱音の泡を吐き出すくらいなら、歯を食いしばって弱さを創作にぶつける。
誰かの才能を妬む暇があるのなら、自分の至らなさを底深く反省する。
下を見て嗤うくらいなら、高みにある光に向かって笑う日を夢想する。
そしていつの日か陽の下で大きく息を吸うために、ただひたすらその時を叶える終わらない闇を泳いでいく。
あの日、あの時、今この瞬間。
諦めていって吐き捨てていった同胞や馬鹿にしてきた人たちが。
海面から飛び出してきた私の“才能”で一撃胸を貫くまで、まだまだ潜水選手権は続いていく。
屍になるより先の未来を描くように、息苦しい世界の中で筆を描いた。