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吸血姫に受肉した神の子、世界を救う~努力目標~  作者: 烏兎徒然
一章 神界と呼ばれる俗世界にて
6/10

閑話 邪教徒が泣いた日

そろそろゲームも飽きてきたな……私も大人に成ったということか……。

『神々の試練』とやらを受けてみるのも良いかも知れぬが、父上からの許可がなければ私の立場では難しかろうし……。

しかし皆が神としての義務を全うしてる中、一人遊んでいるのも気が引ける……いや、アルマという例外がいたか。

しかしそのアルマですら今はまともに働いているしなあ……いや、私が言ったからなのだが。


『たまにはまともに仕事してくれないと、私がいざ世界を管理する立場になった時、アルマが管理の仕方を忘れていては助言をもらう事もできない。せめて少しの間だけメイド業から離れ、勘を取り戻してこい』


あれは効果テキメンだった。鬱陶しい時には、また同じ手を使ってアルマを追い出そう。


しかし仕事……か。

そういえば昔、父上達がなにやら私のために世界を創ってくれたと言ってくれてたような気がしたが……?

ん? 一緒に遊ぶためだったか? まあ細かい事はいいか。私にも少し関係あるという事ならば、私が管理を代行しても問題ないな。うん。



さて、あの世界の核を思い出し……良し。次は場所だな。

記憶と一致する核が置いてある場所は……なるほど、そこか。

下級神が管理する世界と言っても油断は禁物。

見つからずに侵入するためには――念のため一度存在自体消すか……? いや、それをすれば父上にバレるな。

ならば管理者に対象を限定して認識されぬようにすればいいか。



○  ○  ○  ○  ○


イレースィの緻密で高度な神術の行使によって、『ビフレスト』の管理者アーシュヌの意識をイレースィがこれから成す事全てを完全に逸らすよう洗脳する。

これによって例え同室にいても、そこでどれだけ騒ごうともアーシュヌはイレースィを認識することすら出来ない。


「む……管理水晶から強き祈りが届いているというのに、このドライアド上がりは気にも止めず茶を飲んでおる…………まったく、コヤツは慈愛という存在すら知らぬ愚か者とみた。対する私は、神の子であり、優しく、慈愛に溢れ、全ての存在を皆等しく愛す高尚な美しき美の神よ」


後に『奔放にして傲岸不遜、唯我独尊にして時に苛烈な美少女』と評されるイレースィの当時の自己評価である。


イレースィが管理水晶を自身の神力で一時的に掌握すると、途端に世界の全てを認識出来るようになる。

その中でも一際祈りの強い場所へと意識を向けるイレースィ。

そこは薄暗い洞窟の最奥であるのにも関わらず、荘厳な神殿が地下空間に建てられていた。

神殿の内部では、あらゆる動物や魔物の血肉が祭壇へと捧げられており、魔法陣を囲むように真っ黒のローブを着た十二人の人間が厳かに呪文を唱えていた。


「ふむ……なぜ人は神々への供物に動物等の死体を用意するのやら……いや、彼らにとってはその血肉は食料も同然なのか。人は食わねば生きられぬ。その糧を献上しているのか。なんと信心深い! 服装も黒いローブと簡素なもので統一し清貧を心掛けているのだろう……」


そんな彼らの願いなら聞いてやってもいい、というより願いを聞き届け叶えてこそ一人前の神。つまりイレースィはとにかくお仕事がしたかった。

まだ八千歳。ちょっとだけ背伸びをしたい年頃なのである。


そんな信者達の様子を眺め感心しつつもイレースィは困っていた。

強い願いは感じ取れるが、何をして欲しいのかが今の自分の実力ではいまいち読み取れない。

そもそも管理水晶も権限を奪っているわけではなく、一時的に借りている状態にすぎないため、靄がかったようにいつものような力を十全に行使する事は出来ないのだ。どう願いを聞いたものかと考えていたところ、信者のうち二人が突如ナイフを自身に突き立て自死した。


「どうか我らが願いを聞き届けください!」


なんと! ソレほどまでに信心深いとは! 死を経験したこともなく、今後もおそらく死する事もない私如きでは図り知れないが知識としては知っている! 死とはもっとも忌避するもの……それを躊躇なくやって遂げるほど信心深いとは……よし! 今こそ出番だ! 『イレースィちゃん人形1号(ゴスロリ仕様)』! お買い物用の零号ちゃんとは違う最高に格好良い1号ちゃんのお披露目といこうではないか!



○  ○  ○  ○  ○


二人の同胞が鮮血を撒き散らすと同時に、祭壇の奥から漆黒のドレスを身に纏い、黒々とした翼を生やす眼帯をした漆黒の髪を揺らす美しい少女が、コツコツと足音を立て、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

瞬時に儂は、いや我々全員が理解した。


――――〝生物としての格が違う〟と。


我々は即座に跪いた。

圧倒的な存在感を放つのにも関わらず、まるで人形を前にしているかのような存在感の無さという矛盾を含んでいる。おおよそ生物と呼べるようなものではない。

ネクロマンサーとして世界最高位と自負する儂には分かる。まるで……ただの物言わぬ人形が圧倒的な存在であるというような……これが神という生物か…………いや生物かどうかすら怪しい。

そういう概念が形を持ったもの、と考えればしっくりくる。

恐らくこの御方こそ、かつて世界を支配せんとたった一柱で数多の神々と戦ったとされる邪神様。

あの眼帯はその時に負った傷か代償か何かなのだろう……。



イレースィは年頃であった。ちょっと悪いものに憧れる時期なのだ。

眼帯に意味はない。格好いいと思って装着したものである。

そしてローブの集団の首魁である男、名をグスタフ・ゼーガース。

正真正銘ビフレストが魔改造されて以来、最も魔法行使に長けた人間の最高峰とも呼べる存在であり、その観察眼はイレースィちゃん人形1号(ゴスロリ仕様)を生物ではないと見極めるという偉業を人知れず遂げていた。

そしてもちろんの事ながら邪神等という存在はいない。ビフレストVer4.0開発チームの作った世界観に深みを出すための設定である。


「表を上げよ。我に言葉を交わす許可を与える」


そう、年頃なのだ。


「はっ……御方に我ら矮小な人間如きが――」


イレースィは片手を突き出しを会話を静止させる。


「我が名はイレースィ。貴様ら人間は我にとっては何の感心も無い小さき存在である。しかし我を信奉する者は別だ。我が名を呼ぶ事を許可する。そして望みを言え」


イレースィは何かの物語にドップリと影響されている時期であった。

それに加え生来の気質としてイレースィは元より傲岸不遜であり、何より他者に敬われるのが大好きなのであった。そのため今は少し機嫌が良い。

そんな茶番じみた邂逅ではあるが、当の本人たちは至って真面目であるし、グスタフ・ゼーガースに至ってはそもそも信心深いわけでもなく、邪神を利用しようとしていたのにも関わらず、涙を流し、頭を垂れ「何と慈悲深きお言葉っ」と一瞬にして敬虔なる邪神様の信徒となった。

人形を介した神力であっても、イレースィのカリスマの波動は健在であった。


「イレースィ様……私グスタフは貴女様の敬虔なる下僕でございます。そんな我らに仇をなす存在、イレースィ様にとっても怨敵である者のその尖兵の抹殺をお願い致したく。我ら如きの命を持って失礼を存じつつもイレースィ様に縋る術以外見つからず……こうしてお呼び立てさせてしまった次第であります」


ふむ……神の怨敵? なるほど。悪魔の類いがこちらの世界に現れて悪戯しているわけか……。

しかし、私が直接悪魔と対峙するとなると、後々この件がバレた場合、父上やアルマに叱られてしまう……。うーん、どうして誤魔化したものか。


「なるほど……確かに貴様らにとっては荷が重かろう。しかし尖兵如きに我が赴くのも面倒だ。尖兵には尖兵。醜悪なるものには醜悪なるものをぶつければ良い」


イレースィは亜空間に繋がる次元を軽く開け、そこに手を入れ目的の物を掴み取るとグスタフに放り投げた。


「こ……これは?」


グスタフは突然渡された、綺麗に丸められた一枚の紙を眺め呟いた。


「醜悪な相手には醜悪なものをと言ったであろう。グスタフ、それを床に広げろ」

「はっ!」


偉大なる邪神様に名を覚えられ、名を呼ばれ、命じられたことに歓喜に打ちひしがれた。しかしそんな余韻に浸るのは後にと、すぐさま邪神様の命令をこなすべく、しかし慎重に丸められた紙を広げる。すると不思議な事に一度紙を床に広げると徐々に紙は大きくなり、グスタフ含めたローブの姿の集団は思わず後ずさる。


「さて、何を呼び出すか……1894世界より魔の大峡谷からイビルデーモンよ、顕現せよ!」


紙に描かれた円型方陣は『神術式』と呼ばれるもので〝宙に式を刻む神術〟とは違い、式を〝物理的に物体に円型方陣として刻む〟事で神術では難しい術の行使も安定して行える。そのうえ一度神術式を刻めば恒久的に使えるので、神界では便利道具的な位置づけとして、あらゆる場所に、あらゆる効果を持った神術式が刻まれている。

この紙に描かれた神術式は異なる世界を簡易的に繋げるための効果がある。

生命一つ程度の、そして片道で呼び出す事しか出来ない神術式であるが、今回の用途としては充分であった。


方陣が光輝き、現れたのは1894世界において魔物と呼ばれる中でもそれなりに強い力を持つものである。本来であれば獣同然、目に入った者を容赦なく襲う凶悪な魔物であるが、そこはやはり神の子イレースィ。

神術を使ってちょちょいと洗脳してやれば、すぐさま従順なペットと化す。


「さてグスタフ。イビルデーモンに向かって目標の相手を思い浮かべろ。それを私の力で、グスタフとイビルデーモンを接続させ討伐対象として組み込む」


こんな辺鄙な世界に現れる悪魔の尖兵程度ならこの魔物で充分だと思うが……。


「えっ……あっ、はっ!!」


既にこの場の者達は、イビルデーモンの異様な圧と、その醜悪な風貌に誰もが怯えていた。

格としては明らかにイレースィが上だという事はこの場の誰もが理解できていたが、イレースィはその圧はともかく美少女なのである。恐れより畏敬が勝るのは必然だった。

しかしイビルデーモンはまさしく悪魔そのもの。巨体な体躯にどす黒い肌は鉄より硬く思え、禍々しい角、細い目つきに大口から見える牙はいっそ嗜虐的な笑みを浮かべているようにも見え、こんなものが突然現れ、恐れるなと言う方が無理である。

しかしグスタフは恐る恐るイビルデーモンに近づく。思い浮かべろというのも、接続というのも、討伐対象として組み込むというのも、何一つ理解出来ずこの上なく危険な香りがしないでもないが、邪神様のご命令ならば、と既にグスタフの有り様は殉教者のそれであった。


「グスタフの言う標的の始末を終え次第、貴様は元の世界に戻るよう神術を組み込んでおこう。では行ってこいイビルデーモン!」


イレースィが命令すると、まさに目にも留まらぬ速さで駆け抜け目標へと向かったイビルデーモン。

視覚的暴力からの解放にホっと一息つく邪教徒達。


イビルデーモンが目標へと突進ししている間、邪教徒に煽てられ、魔法の教えを請われ、非常に気分良く過ごしていると神術で繋いでいたイビルデーモンの気配が消えた。

帰還の神術が発動したことから、倒されたのではなく無事任務を終えて帰還したのであろう事が分かり、イレースィは邪教徒達にその事を告げると泣いて感謝される。


「では、私は帰るとする。人間よ。今後も信仰を怠るなよ」

「はっ!!」


一同揃って跪く邪教徒達。

そしてそれらを背に向け格好良く去る――ようにしてイレースィちゃん人形1号を神界へと戻し、アーシュヌの洗脳を解いた後、満足気に自室へと帰る。


良い仕事をしたものだ……まさに神らしく、しっかり努めを果たしたといえよう。



清々しい気持ちでその日を終えたイレースィはその世界で最もヤバイ場所に、召喚の神術式が刻まれた紙という特大の爆弾を置き忘れていたのだった。





「邪神イレースィ様によって王都のアーシュヌ教徒共の殲滅は無事完遂した!」

「「「うおおおおおおお」」」





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