表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エキストラ

作者: 加藤 瀬蓮

私は一瞬でもあなたの物語のヒロインになれていましたか?


「あさひ」

そう呼んでくれるあなたのすべてを愛していました。


でももう、さようなら


あなたのすべてが


「好きです。」


今日もまた、あなたの隣で聞こえないようにつぶやく。

聞こえてほしいと、少しだけ思いながら。


「ん?なんか言った?」

「いえ、何も?」


嘘です。毎回言ってます。

それでも大好きなあなたを独り占めしたくて、まだこの場所を取られたくなくて。

知ってほしいのに、気づいてほしくない。

そんな私は臆病で、意気地なしだ。


あなたに会ったのは本当に偶然で。

覚えていることはこの世界にあなた以上にかっこいい人は見当たらないってこと。


永遠の目標である、大好きな貴方の横顔を独り占めしたくて。

この思いは我慢できているんです。


雨宮さんに出会ったのは入社して間もない頃。

私の人生の中であなた以上にかっこいい人にこれから出会うことはないと思いました。


私は雑用ばかり押し付けられて影も薄い存在。

それでも、めげずに笑顔でい続けた私に目をつけてくれて、

次の移動でいきなり社長秘書。


「杉山 あさひ」

という一人の人として初めて認識してもらえたこと

すごくうれしかったんですよ。


毎日失敗を繰り返して、たくさん叱られて、たくさん泣いて。

今までの雑用がどれだけ楽だったか。人と関わり、責任を持つことの大変さを思い知った。

秘書になってからずっと憂鬱で、何度逃げ出したいと思ったことか。


それでも、私を見込んでのこと。私しかできない役割。

そう言い聞かせては、自分にしかできないことを模索しました。

たくさん愛をもらって、たくさん笑って、たくさん喜んで。


“雨宮 辰哉”

その映画の中で、私はどれだけ輝けていますか。

人としての憧れ、上司としての憧れ、尊敬、感謝。

色々な感情があったはずなのに、いつからでしょうか。

自覚していた敬愛とは、まったく別の愛が芽生えていました。

私は雨宮さんの特別になりたかったみたいです。

それは人として、社会人として認められたい、なんてことじゃなくて、

そんな簡単な気持ちじゃなくて、

もっともっと複雑な


“恋”


と呼ばれるものでした。


私がその感情を認識したのは入社してから7年後、秘書になって5年目のこと。

社長が、雨宮さんが、海外へ拠点を移すと聞いた時でした。


それまで、雨宮辰哉という大きな存在、大きな背中は、

永遠に存在するものだと、思い込んでしまっていました。


取引先との会食後、終電間際の帰り道。

珍しく並んで歩いて、たわいもない話をしていました。

急に真剣な顔で、こちらを振り返った時ドキッとしました。

見たこともない顔だったから。


そのまま私に夢を教えてくれました。


“拠点変更”


その言葉は私の思考をすべて止め、貴方との記憶が巡りだしました。

あなたと一緒に見た景色、一緒に契約を決めた帰り道。


初めて行ったご飯屋さん、徹夜してプレゼン資料を作った日。

いつも行くバッティングセンターに、車の匂い。

いつも怒られて、喜んだりした社長室、契約を取った日にだけ食べる焼肉。


思い出されるすべてが大切な思い出、私のお守りとなる。


私はこの会社をもっともっとあなたと大きくしていきたい、という

新たな未来が見え始めていました。

でも、雨宮さんは新たな別の道を選んだ。


「好き」なんて言える距離間でもないくせに、貴方がもっともっと

今よりずっと遠くに行ってしまうような感覚に陥って、涙がこぼれた。

でも、大きな野望を抱えた貴方らしい理由。


貴方になんて返したのか分からないまま、気づけば私は家にいました。

改めて貴方から連絡が来ていた。

返信なんてできなくて。

ずっと画面を眺めていると、雨宮さんから電話がかかってきて。

こんな電話でも、少しでも声が聞けることが嬉しくてたまらないのは好きになった弱み


「はい、もしもし!」

「あー、あさひ」

「はい?」

「明日、みんなには話すから。」

「はい、全力でサポート、させてもらいます。」

「ありがとう。あさひなら、」

「はい?」

「あさひなら、大丈夫。」


電話越しだったけれど、不器用に困ったように笑うのが目に浮かぶから、

私は茶化すことしかできなくて、無理やりに笑う。


「いつか、また私も押しかけますね!笑」

「やめろ笑」

「私が退職したら!!!」

「させねえよ!?」

「私じゃ役不足ですか?」

「違う違う笑 あさひはみんなをまとめるのが似合ってんだよ。」

「えー???」

「うぬぼれんなよ笑」

「うぬぼれてなんかないです!笑」

「ま、お前は先頭に立つべき人間ってことだよ。」

「…雨宮さん、」

「惚れんなよ?」

「誰に言ってるんですか!笑」

「お前、明日覚えてろよ!?笑」

「最後のさえなかったらよかったですね!笑」

「うっせえなあ、笑」

「じゃあ、まあ明日、」

「あ、あさひありがとうな。」

「はい。」

「おやすみ。」

「おやすみなさい。」


ツーツーツー

電話の切れた音が耳元に鳴り響く。

気が付くとまた涙があふれ、スマホを持つ手は震えていた。


とっくにあなたに惚れてますよ。


なんて言えるわけないじゃないですか。



次の日、真っ赤に腫れた目と、浮腫んだ顔をどうにか抑えて行くと

あまり朝の頑張りが効果がなかったのか色んな人に心配され、

不安そうな顔で現れた雨宮さんは、いつもの調子でいじってきた。

貴方のせいでこんな顔になっているんですよ!?と

言いたくなったけれどそこはいつもの調子で返事した。


全員が出社すると朝のミーティングで雨宮さんは真剣な顔で海外進出の旨を伝えた。

日本の会社の取締役を退いて、新たに作る海外社の取締役になること。

海外で基盤が築けるまで戻ってこないこと。

真剣に伝えた。退くことは一部の人間しか知らなかったらしく

ショックで言葉が出ない人、喜ぶ人。

反応は様々だった。

でも、全員に雨宮さんの覚悟は伝わっていた。


雨宮さんが最後にやるプロジェクト

これは私が知る中で最高の出来になった。

雨宮さんはこのプロジェクトが始まる一年前くらいから決めていたんですよね。

だから、いつも以上に残業して、情報収集して自分の力すべてを詰め込んだんですよね。


雨宮さんの作ったものを越える仕事をしないといけない。

完成したときのあの高揚感、人の笑顔溢れる空間

越える壁は、雨宮さんが思っているよりもなかなかに大きいんですよ。



「杉山さん自身の言葉で意見が欲しいんです」


会社が大きくなくて秘書だけどプレゼンをやることになった時

予定にない質問に答えたときに言われた言葉。

貴方の背中ばかり追い続けていたら、

私は自分の言葉が、貴方に似た言葉になってしまいました。

自分らしさが分からなくなって悩む私を見かねて、ご飯に連れて行ってくれましたね。

雨宮さんにだから言える悩み、ばれていた悩みはたくさんありました。


「私は、雨宮さんになりたかった、んですかね、 」


震える声を抑えながら雨宮さんに言うと

やっとわかったかと言わんばかりの笑顔で


「俺になろうなんて早いんだよ!笑」


そういって私の髪をぐちゃぐちゃになるまで撫でてくれましたね。



私は雨宮さんじゃない。

雨宮さんにはなれない。


当たり前のことに気付けて私は救われました。

私の言葉を求めてくれている。


そう思えるようになって初めて私のやりたい企画をプレゼンできるようになったと思います。



私の異変に気付いてくれるあなたが好きです。

いつも見てくれているあなたが好きです。

私にしか見せない顔で笑うあなたが大好きです。

その笑顔は、誰にも見せないでください。

助手席も、私しか乗せないでください。

誰とも付き合わないで。結婚しないで。


私と、いや、





“俺”だけ







俺だけの特権を残してください。



、、、嘘。幸せになって。




これは『叶わぬ恋』なんてちっぽけな言葉に納まらない

気が遠くなるような片思い。






雨宮さんが海外に行って、貴方に依存することがなくなるかなと

思っていたけれど、相も変わらず電話をする。

そして今日は休暇を取って雨宮さんのいる場所へ来た。


雨宮さんとデート。と浮かれるも

片付けの下手な雨宮さんに家具探しに付き合う。



助手席は俺の定位置。って自慢したい。

昼ごはんに入ったお店手、俺は雨宮さんの顔を真剣に見つめた。



「雨宮さん!」

「なんだよ、改まって笑」

「俺、雨宮さんが大好きです!」

「ありがとう。」

「あれ?茶化さないんですね笑」

「ちゃーんと見極めてんだよ。笑

普段は秘書らしく「私」なのに今日は「俺」だからな」


俺の「好き」と雨宮さんの「好き」は、全然違う。

そのことに目の奥がツンとしたけれど、我慢して目を見て微笑んだ。


“雨宮 辰哉”


社長期、海外期。私の知るだけでも2章。

その前も含めれば既に6章くらいに分けられた映画。

雨宮辰哉主演の映画はこれからもずっとずっと続いていく予定です。

その中で、俺は一瞬しか映らないエキストラかもしれない。


俺たちの物語がこの瞬間しか交わってなかったとしても

たとえ全カットされても、名もなき社員のままでも。

急にこの映画が打ち切りになっても。

俺は好きです。

ずっと、ずっと、大好きです。




貴方と結婚できないから、

貴方の物語のヒロインにはなれないから

せめて名前のないエキストラではなく



仲のいい後輩:杉山あさひ



としてあなたの映画のエンドロールに流れますように。



そして願わくは同じ性に生まれながら

貴方を好きになってしまった俺と

幸せになるエンディングはだめですか。






好きになってごめんなさい。

この気持ちが一生、貴方に届きませんように


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ