第90話 戦いの後の憂鬱
一刀両断にされたマモンと同時に力が抜けていく酒呑童子。
力が抜けていく酒呑童子と共に威圧も一気に霧散して、今にも気絶しそうだった志保を守るようにイズナが権限する。
声を震わせながらイズナが口を開いた。
「お前は本当に酒呑童子か?さっきのは明らかにアヤカシの限界を超えた力だった、、いや、それよりもまだ出てくるのが早くないか?お前ほどの妖気はあと1年近くは復活は無理なはず」
「ふんっ、その妖気、貴様はイズナとやらか?その昔鬱陶しいヤツが居ると聞いていたが、いつの間にか消えていたのは人間に取り憑いていたからか、、ふんっ!愚かで鬱陶しいヤツめ」
「質問に答えろ!」
イズナが声を張り上げる。
「ふんっ!羽虫が何か言いおるが、何も聞こえんぞ?所詮羽虫は羽虫、ブンブンと囀っているがいい」
イズナと酒呑童子の短いやり取りの内にやって来たトワが信吾の元へ近づく。
「おい!大丈夫か?信吾!」
「大丈夫、、じゃねぇな、ちょっと休ませてくれや、トワの姉さん。後は頼んだ」
言うやいなや地面に倒れ込む信吾。
意識を手放した信吾を見てトワが底冷えする様な低い声でイズナへ向かって口を開く。
「イズナ、信吾を頼む」
トワの息が詰まるほどの殺気が溢れてイズナは少し後退ったが、気持ちを気合いで持ち直し答える
「あ、ああ、わかった。任せろ」
言いながら信吾を介抱するべく近寄る。
トワの殺気を真正面から受ける酒呑童子は狼狽えながら
「おいおい、古の古龍様が人間などを庇ってどうしたんだ?」
酒呑童子の発言を無視して無言で近づくトワ。
更に続ける酒呑童子
「ちょっ、ちょっと待てよ、な?そうだお前も俺達と一緒に配下にならないか?そうすれば本来の力の数倍強くなれるぞっ!どうだ?一緒に、、、」
ガンッ!
「ぐはっっ!」
トワのボディブローが酒呑童子のミゾオチに食込む。
咄嗟にミゾオチを抑えながらバックステップで距離をとる酒呑童子。
「ま、待て、おい、、、」
無言で近づくトワに恐怖しながら後ずさる酒呑童子。
30メートル先にはクモスケとフォルガイムがゴブリン相手に大暴れしている。
四方八方に吹き飛ばされているゴブリンが酒呑童子に向かって飛んできた。とんでもない勢いでぶつかったゴブリンと酒呑童子はもんどり打って転がる。
丁度その時にクモスケとフォルガイムが全てのゴブリンを殲滅し終わった。
すかさずクモスケは信吾の元へ、フォルガイムはトワの横に立ち酒呑童子を睨みながら大剣を構える。
「フォルガイム、手を出すな、アレはアタイが片付ける」
「あ、えっ?あぁ、そうっすか、わかりまし、、ん?」
もんどり打って転がっていったゴブリンと酒呑童子は砂煙が巻き起こり一瞬見えなくなった。
砂煙が晴れた時にはゴブリンの死骸しか見当たらない。
「あの、、、いなくないっすか?どこに?」
フォルガイムが呟いた瞬間ブワッと辺りに風が巻き起こりトワが飛び上がった。
飛翔しながら辺りを旋回するトワ。
気配を探りながら、少しでも感知したら手当たり次第斬撃とブレスを撃ちまくる。
辺りはすでに観光地とは言えない、言うなれば爆心地といった所か、街が跡形もなく燃え尽きた。
暫く暴れたトワが信吾の元へと戻ってきた。
もちろん信吾達がいる場所だけはキレイに無事であった。
まるでミステリーサークルのようにポッカリとキレイになっている。
「どうでした?やれました?」
フォルガイムがトワに質問する。
首を横に振るトワ
「気配は全てここら辺にいたある程度力を付けた昆虫達とかだった」
悔しさに歯噛みするトワ。
「逃げられましたか、、」
フォルガイムの一言に皆黙り込む。
「信吾はどうだ?」
沈黙に居た堪れなくなったトワがフォルガイムに聞く。
「さっき飛び起きたんですけど、、まぁ、ポーションを飲ませたっす、んでまた眠りに付いたっす」
簡潔に述べるフォルガイム。
先程トワが暴れているときに信吾が飛び起きたが、体中が痛く力が抜けた信吾。地面に突っ伏すかと思われたが、それをすぐにクモスケに支えられた。
興奮している信吾を何とか落ち着かせて、信吾が気絶してからを解説するイズナ。
その隙にフォルガイムは5号から貰っていたポーションを収納袋から取り出して信吾に飲ませる。
飲ませながら信吾は治癒魔法を自分の足にかけて優先的に治す。足が治ったと思ったらおもむろにタオルを口の中に突っ込んでから、フォルガイムに右手首を持たせて、「動かすなよ」と、一言言って、左に側転宙返りをした。ゴキゴキンッ!と音がして「ぐううううっ!」と声にならない声を出し、苦痛に顔を歪める信吾。
そんな感じで曲がりまくった腕を正しい方向に無理矢理戻し、治癒魔法をかける。
その時フォルガイムの突っ込みがはいる。
「荒療治で有名な医者もビックリな治療法ですね」と
安心した信吾はまた眠りに付いた。
眠りに付く前に「やっててよかった身体強化」と呟いた。軽口を言っているが、相当無理していて体力的にも精神的にも限界だったのかもしれない。
といった流れがあったが、フォルガイムは説明が面倒だったので簡潔に済ませた。
「そうか、、」
気落ちした様に呟くトワ。
体育座りで信吾の横にいるクモスケはジッと信吾を見ながら心配している。
イズナも無造作に座り込んで俯いている。
暗い雰囲気の中フォルガイムが沈黙を破る。
「と、とりあえず、どうします?この後、かれこれ結構時間が経って日が暮れますよ?」
「フォルガイム、なんであの時すぐに信吾の所に行かなかった?」
クモスケが独り言の様に呟いた。
「えっ?自分のせいっすか?そりゃ無いっすよ、クモスケさんだって酒呑童子なんか瞬殺すれば良かったんじゃ?」
「フォルガイムだってなんであんな弱いやつに苦戦してたんだ?すぐに片付いたぞ?茨木童子とかいうやつ」
「はいー?そもそも、、」
言い合いを始めたクモスケとフォルガイムにトワが割り込む
「おい、やめろ二人共、アタイと比べてあんたら二人は茨木童子とマモンを倒したんだ。アタイだけ何の成果もない上に敵を取り逃がした、、それに比べたら別になんてこともないだろ」
その言葉にイズナが割り込む
「それをいったらオイラだって、、酒呑童子にビビって動けなかった、、しかもマモンが倒されて力が抜けた酒呑童子にすら、、震えちまって、、」
「あ、えっ、とー、いや、ま、まぁ落ち着きましょう」
フォルガイムが雰囲気が悪くなっているのをまとめようとする。
「その、クモスケさん、そんな怒ってるクモスケさん見たら信吾さんはなんて言いますかね、ここは落ち着いて今後のことを考えましょう。過ぎたことは過ぎたことで、反省会なら信吾さんが起きてからにしましょう、とりあえず軽くなんか食べて早めに休みましょう」
「アタイは食べなくてもいいから、先に休ませてもらうでもいいか?」
トワが言う
「別に構いませんよ」
と言い終わる前にトワは信吾の横に陣取り添い寝を始める。優しく信吾の頭を撫でるトワ。
それを見たクモスケも、珍しく糸で眠るのではなく添い寝で信吾の横に陣取った。クモスケもそっと信吾の胸に手を当てる。
「くあぁぁー」
トワとクモスケを見たフォルガイムは思わず声が漏れた。
何故漏れたかというと、こんなときに何してんの?からの、甘すぎて砂糖吐きそう。と、いった怒りというより呆れと、羨ましさによる信吾への嫉妬、バカバカしくなり目を逸らした時に漏れ出た声であった。
そんな二人を放っておいて収納袋から適当な食べ物を出して食べ始める。
信吾から非常用にと渡されていたオニギリやサンドイッチ、ペットボトルの水を出して食べる。
ふとイズナに向かって声をかける。
「イズナさんも食べますか?」
俯いていたイズナはフォルガイムに向かい口を開いた
「いや、オイラはいいから、志保に食べさせてやってくれ」
そう言って志保に変わった。
「食べる?」
フォルガイムが聞くと、志保はコクンと頷いた。
更にいくつかオニギリを出して渡す。
「ありがとうございます」
暫く無言で食べる二人。
ふと志保が口を開いた。
「フォルガイムさんって強いんですね」
フォルガイムは口の中の物を飲み込んでから返答する。
「そんな事ないよ、志保ちゃんの方が強いと思うよ」
その言葉に志保はなんとも言えない様な顔をする。
「なんで?ですか?」
「うん?志保ちゃんの強いところ?そりゃだってさ、いきなりこっちの世界に来て色々あって、信吾さんに助けられてからは想像もつかない様な事が起きていて、それに順応するように着いてきてるでしょ?自分だったら心が折れて、諦めたり逃げたりしてたかなって、、だから志保ちゃんは凄いのだよ」
「違います、、それは、、何故なのかわからないですけど、、信吾さんって神々しい?、、いや、少し違うかな?人を引き付けると言いますか、、まあ、それだけじゃなくイズナもいるんで、、、私なんて全然です、、」
少し間をおいて深呼吸をしてから言葉を続ける。
「私は人間不信というか、男性が怖くて仕方がなかったんです。でも、信吾さんと出会ってからは何とか近くにいても大丈夫なようになりました。あ、もちろん信吾さん以外の人で、あの、冒険者のジャンさんとかです。信吾さんとは普通に話しも出来ちゃうのがまた、信吾さんの不思議な魅力なのかもしれませんね」
フフッと笑みをこぼす志保にフォルガイムはため息をを吐く。
「志保ちゃんは信吾さんの事、、、いや、何でもない」
フォルガイムの声が小さくて聞き取れなかった志保はフォルガイムを見ながら首を傾げた。
「うーん、自分も男なんだけど大丈夫なの?」
「えっ、まぁ、その、とても人間には見えないし、、あ、ごめんなさい、失礼でしたね、その、なんというか、、」
「あー、うん大丈夫、ロボットとかアンドロイド的な何かって感じだよね、もしくは何かのキャラクターとか?」
「ご、ごめんなさいそんなつもりじゃなくて、、」
気まずい雰囲気が流れ出す。
「あの、、フォルガイムさんの事を教えてくれますか?過去とか、、信吾さんとかクモスケさんとかフォルガイムさんの出会いなんかは簡単な流れしか聞いて無くて、詳しくは知らないんで、、よかったらその辺も踏まえて」
フォルガイムは空を見ながら深いため息を吐いた。
辺りは夕暮れ時で太陽が半分以上沈みかけていて自分達の影が長く伸びている。
焚き火をするべく周りを見渡すと、家屋やら木などがバラバラになっていて、薪代わりにはうってつけだった。
手当たり次第燃えそうなものをかき集めて焚き火をして、二人で囲む。
収納袋から毛布を取り出して志保に渡す。
「あ、ありがとうございます」
落ち着いた所でフォルガイムが話し出す。
「さてと、過去ですか、そうですか、うん。先に言っとくけど、自分も信吾さんに助けられた方なんだ、あの人って確かに人を引き付けるっていうか、人たらしなところあると思うんだ、現にまだ知り合って間もないのにトワさんはあんな感じじゃん?」
言いながらトワの方に顔を向ける。
志保もつられてトワの方を向いて頷いた。
「その、、、実際自分が助けられた後もダメダメでグズグズしてて、そんな自分の中にある闇と言うか、醜い心を信吾さんは看破してて、、それを気づかせてくれたり、後ろ向きだったのを前向きにさせてくれたり、正しい方向に導いてくれたりって、全てが自然すぎていつの間にか引き込まれてって感じかな。うん、、いつも誰かの事を思っていて自分の事なんて二の次だし、いつも人に与えてばかりで、見返りなんて全く求めてない、こっちとしては恩返しの一つも出来なくて、恩ばかりが溜まっていく一方だよ」
フォルガイムの話しを無言で頷きながら聞き入る志保。
「まぁ、とにかく信吾さんは凄いんですよ、いつもはふざけたり、たまに天然だったりするけど、芯があるって言うかブレない人なんだよね、真面目な時は恐いくらい真面目だし、でもそれって誰かの為だったりさ、、」
「ウフフッ」
思わず笑ってしまった志保
「ごめんなさい、フォルガイムさんって信吾さんの話しすると止まらないんですね、なんだかんだ言ってますけどフォルガイムさんも信吾さんの事大好きなんだって伝わってきて」
ハッとなって我に返るフォルガイムは気まずそうに、そして恥ずかしそうにしながら、無意味に顔をキョロキョロさせて、最終的には俯いてしまった。




