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第89話 相性

 トワとマモンが戦っている最中、一方ではフォルガイムが茨木童子と対峙していた。


 こちらはトワとマモンの戦いとは違い、お互い拮抗している。

 大剣を振るうフォルガイムは全く当たらない攻撃にやきもきしていた。

 フォルガイムの攻撃は一発も当たらないが、茨木童子の攻撃は着実に当ててくる。

 茨木童子は妖術なのか、伸縮可能な長い髪を自在に操り、牽制や、巻き付けからの引き寄せ、近接での体術と、器用に動き回りフォルガイムの追随を許さない。

 フォルガイムは「一発でも当たれば」と思いながら全く当たらずに回避する茨木童子に焦りを始める。

 焦れば焦るほど茨木童子の攻撃がヒットする。


 ***


 一方のクモスケはというと、フォルガイムと同様にお互い拮抗していた。2メートル以上ある酒呑童子に対して足をうまく使い、時計回りで牽制しつつ、腕を鎌にして斬りかかるがダメージは全くと言っていいほど通らない。

 そして酒呑童子も応戦はするが、クモスケのスピードに追いつかず一発も当たらない。だがダメージは殆ど無い為冷静に隙を伺う。


 そんな攻防をしているクモスケの上空から何かが落ちてくるのが分かった。

 咄嗟に飛び退くと今までいた場所に電柱が突き刺さった。


 それはトワがマモンに向かって放り投げた電柱だった。

 クモスケはその電柱を見ていつもの無表情の顔から打って変わって両目を見開いたあとニヤリと口端を上げた。


 クモスケは糸を手のひらから出して電柱を掴みぶん回す。それだけではなく周りにあったガードレールや道路標識、信号機、道路の上にある道標の青看板、そこらのお店の看板を、目に付いた固くてなるべくデカい物を掴んでぶん回し酒呑童子に当てていく。


 さすがにこれは看過できないと、片っ端から粉々に破壊していく。


 するとクモスケの背後から火球が飛んできて直撃した。


 ***


 一方の信吾はガーゴイルをあらかた片付けたと思い、戦況を見守り、

「まずいな」

 と呟いた。

「えっ?どうしてです?どちらも押してませんか?」

 と志保が疑問を口にする


「いや、端的に言うと相性が悪すぎる」

 ハテナを浮かべて首を傾げる志保に答えを話す。


「クモスケはスピード型で、フォルガイムはパワー防御型なのね。まずそこは知ってるよね」

 志保が頷く。


「それに対してクモスケが戦ってる酒呑童子はフォルガイムと同じパワー防御型、フォルガイムと戦ってる茨木童子はクモスケと同じスピード型なんだ。だからクモスケとフォルガイムが対峙するのが逆で、同じ戦型対決だったら難なく倒せたと思う」


 なんとなくわかったようなわからない様な顔をする志保。


「わかりやすく言えばスピードがあっても効かなきゃ意味が無いのと、パワーがあっても当たらなきゃ意味が無いって事」


「えっ?でも実力はこちらが上なんですよね?なんとかならないんですか?」

 信吾はゆっくり頷きながら答える


「確かに実力でいったらこちらが上だろう、実際フォルガイムの一発が茨木童子に当たれば終るだろうし、それは酒呑童子でも同じ、クモスケもスピードでは茨木童子より確実に上を行ってる。だからこそ対峙した相手が悪すぎる」


 話している内に何やらマモンが両手を上げていた。

 そのマモンの両脇が光り魔法陣が浮かび上がった。と思ったら無数のゴブリンが姿を現した。


 次から次へと召喚されるゴブリンに驚愕しているトワはマモンを止めようと殴り掛かったが何かの結界に阻まれ弾かれると、動き出したゴブリンがトワを囲んで羽交い締めにした。


 更に次から次へと召喚されるゴブリンは上位種もおり、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー、ホブゴブリン、ゴブリンジェネラルと多種多様なゴブリンが召喚され各々敵に向かい散っていく。


「まずい!志保ちゃん!」

 と信吾が言うと志保は頷きながら銃を構えて撃ちまくる。

 信吾もガーゴイルの時と同様に土の杭を作りゴブリンに放つ。

 だが、召喚されるゴブリンはガーゴイルの比ではなく次から次へと数が増えてくる。百、二百、三百と数を増やす。


「くそっ!まるで中国の人口の様に増えやがるな」

 と言いながら土の杭を撃ちまくる信吾。


 そしてゴブリンメイジから火球を打たれたクモスケは盛大に吹き飛び、拮抗しているフォルガイムの方向へ飛ばされる。


 フォルガイムは戦いながら飛翔して上空にいた。

 その上空でも攻防が続いていたが、近づいてくるというか、吹き飛ばされて来たクモスケに気付いて受け止めると、クモスケも羽を出して空中にホバリングする。


「油断した、ありがとうフォルガイム」

 フォルガイムに受け止められたクモスケが短く感謝する。

 ゴブリンメイジの火球は通常の人間なら一瞬で生命を刈り取る位の攻撃であったが、クモスケには全くダメージを通してはいない。魔力吸収のスカーフがある為魔力は吸収したが、直撃時の爆発でただ物理的に吹き飛ばされただけのこと。


「珍しいっすね、クモスケさんでも勝てませんか?」

 そのフォルガイムの言葉に少しムッとしたクモスケが言う。

「フォルガイムこそ苦戦してるんじゃない?ボクが変わってあげようか?勝てそうに無いようだけど?」

「吹き飛ばされてきたクモスケさんに言われたくないですねぇ」


 二人は内心決定打が無く長引く戦いにイライラしていた。

 そんな言い合う二人に茨木童子は内心ホッとしながら体力を回復させている。実は茨木童子もジリ貧で体力が尽きれば終ると思っていたので、これ幸いと二人のやり取りをジッと見ながら手は出さない。


 言い合っているとリストバンドから声がした。

「おいっ!二人共真面目にやれ!」

 信吾からの叱責が聞こえた。


 クモスケとフォルガイムはリストバンドに耳を傾ける。クモスケは「フォルガイムのせいで怒られた」とフォルガイムを睨みながら、そんなクモスケを柳に風と受け流しリストバンドに向かって喋る


「戦況はどんな感じですか?」

 フォルガイムの言葉にすぐに返答が返ってくる。


「詳しく説明してる暇がないから、指示に従ってくれ。まず、そこの茨木童子はクモスケが退治してくれ、で、フォルガイムはトワの所で召喚しまくってるマモンを全力で障壁ごとたたっ斬ってくれ、頼む」


「えっ?トワさんは?」

「トワはゴブリンに囲まれてて身動き取れない!早くフォロー、、にっ?、、、っ!」


 チラッと遠目でマモンの方を見ると確かにゴブリンがトワに群がっていて、対処に手が足りていない様子。


「てことは、酒呑童子は?」


「くっ!お、俺の目の前にいるっ!こっちは何とかするからとにかくマモンを!」


 無理矢理冷静を装った様な声を最後にリストバンドからの声が途絶えた。


「クモスケさん!」

 フォルガイムが言うとクモスケはフォルガイムと目を合わせて二人で頷いた。


 すぐに動き出す二人。


 急降下でマモンに向かうフォルガイムは空中で魔力を全身と大剣に巡らせる。


 身体強化と魔力を纏わせた大剣を落下速度と飛翔効果を

 プラスして突っ込む。


 気合いを入れる為、声を出して大剣を振るいたい所だが、気付かれて避けられたら目も当てられないために、気づかれないように黙って、そして全力で大剣を上段から振り下ろす。


 フォルガイムの接近に気付かないマモンはそのまま脳天から真っ二つに割かれてその人生を終了させた。



 そしてクモスケはフォルガイムがマモンに向かって行くのを見つつチラッと信吾を見ると、信吾、酒呑童子、志保の3人は微動だにしない、まだ大丈夫そうだが、悠長に相手をしている暇はないと、気持ちを切り替えて全力で対処する事にした。


 フォルガイム同様、クモスケも身体強化をして茨木童子に突っ込む。

 急に向かってくるクモスケに驚いた茨木童子は身構えるも、クモスケのスピードの速さに目を剥き防御を固めようと長い髪の毛を硬化させて迎える。


 迎えたが何もせずに茨木童子の目の前に佇んでいるクモスケを訝しそうに見ると視点がズレていく。バラバラになった自分の身体を見ながら。


 その実は茨木童子すらも追いつけない、目にも止まらないスピードで繰り出されたクモスケの攻撃は、一瞬で茨木童子の全身を、頭の先から爪先まで、蜘蛛の巣状に細切れにされる茨木童子の胴体がそこにはあった。


 とどめとばかりに獄炎ブレスを見舞い、灰すら残らない程に燃やし尽くした。


 クモスケとフォルガイムはほぼ同時にマモンと茨木童子を倒してトワのフォローに向かう。

 ゴブリンは召喚主のマモンが死んだとて消えることはなく、何事もなかった様に今まで同様トワに襲いかかる。


 だが、いくら数が多くても強さが段違いなので、トワが負けることはない。

 それにフォルガイムとクモスケが加勢する。

「トワ、ここはボクとフォルガイムでなんとかするから信吾の所にっ!」

 いつになく焦りながら声を張り上げたクモスケに驚いたトワは、一瞬二人を案じ逡巡したが、任せることにして信吾の元へと向かう。


 クモスケとフォルガイムは千を超えるゴブリンの軍勢を確実に対処、殲滅していく。


 ***


 一方信吾はと言うと、時間を少し遡る。

 フォルガイムとクモスケにリストバンドでの会話中に現れた酒呑童子に最大限の警戒をした信吾は、通信を切り身構える。


 そんな信吾を無表情で見下ろし

「かかってこい」

 と一言。


 実は酒呑童子が近付いて来るに連れて威圧というか、その強さの圧に押しつぶされそうになっている志保がブルブルと足を震わせて今にも腰を抜かしそうになっている。志保はその圧に耐えかねて銃のトリガーを引こうと思ったが、動かない。身体が、指先さえも全く動かなかった。


 それは酒呑童子の妖術の一つ、金縛りで、志保は腰を抜かすことも出来なくなっていた。

 志保の中にいたイズナも手も足も出なかった。


 信吾もそんな酒呑童子の威圧に押しつぶされそうになりながらも何とか魔力を身体中に行き渡らせ身体強化を掛けて、落ち着く事にした。


「お、お前達の目的は?」

 落ち着きながら時間を稼ぐために質問する信吾


「ふん、それはマモン様が仰ったであろう」

「は、配下にするってヤツか?」

 酒呑童子は頷いた

「配下にして何を企んでる?」

「・・・・・・・・」


 酒呑童子は沈黙する。

「答えないか、じゃあ質問を変える。お前はマモンの配下なのか?それともルシファーの配下なのか?」


「我はマモン様の配下」

 これ以上の問答は無用と言った感じで信吾に手を伸ばす酒呑童子。背筋に悪寒が走った信吾は咄嗟にヒヒイロカネのバットで迫る腕を打ち上げる。

 続けて勢いそのまま酒呑童子の膝に打ち込む。

 ガンッ!ガンッ!と金属同士がぶつかりあった衝撃音が響く。

 そんな音を気にせず連打連打で酒呑童子の全身を殴打しまくる信吾。

 全く効いた様子の無い酒呑童子は、振り下ろされる信吾のヒヒイロカネのバットを握った。


「ぐっ!があああああ」

 気合いを入れてバットを引こうとするがピクリとも動かない。上下左右に力を入れるも、まるでガッチリ溶接でもされているかの如く1ミリも動かない。更に離そうにも右手が開かない。だが両手で握っていた右手は動かないが、左手だけは自由が効くようだ。


「これほどまでか、、それとも貴様が弱いのか、、」

 呟いた酒呑童子。


 チラッと自分の右側にいる志保を見ると焦燥を浮かべながら動けないでいる。

 そして背中にある長ドスに目が行くが、柄の部分は志保が右利きの為右を向いている。信吾とは反対方向だった。


 信吾は飛び上がり志保の反対側へ側転宙返りをして左手で鞘から長ドスを抜き取る。

 ゴキンッと音と共に着地した信吾は腰を落としながら酒呑童子の肘から先を切断した。

 と同時に左足に鈍痛を感じた。


 手元に戻ったヒヒイロカネのバットと一緒にくっついている酒呑童子の左腕は赤い霧となって霧散した。直後酒呑童子の腕が赤い霧と共に再生した。


「ぐうっ!」

 信吾が唸りながらヒヒイロカネのバットを地面に落とした。

 先程のゴキンッという音は信吾が無理矢理跳んで捻った為、肘の関節が外れ、更に骨も折れて反対に曲がっていた。それは仕方が無かった、動かない腕を庇うより捨てる覚悟を一瞬でした信吾。

 そして信吾が酒呑童子の腕を切ったと同時に左足に鈍痛が走ったのは酒呑童子の蹴りが入った為であった。


「ふむ、今貴様の足を吹き飛ばそうとしたが、折れただけか、、これは我のせいか、貴様の防御力のせいか今一わからんな」


 一瞬の攻防の後、酒呑童子の真っ赤な目が徐々に薄まって行く。


 力が抜けていく酒呑童子は、ハッとした顔で振り返りマモンを見る。

 すると一刀両断にされた直後であった。

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