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第85話 疾風の爪

 冒険者ギルドを出た信吾は腕時計で時間を確認する。

 時刻はお昼を少し過ぎている。


「腹減ったな、ちょっと異世界の食事を楽しみたいけど、、」


 信吾はキョロキョロと周りを見て食べ物屋を探す。

 すると後ろから声が掛かった。


「信吾、何か探してるのか?」

 振り返るとジャンがパーティメンバーを連れてギルドから出てきた

「えっ、あ、はい、ちょっと何か食べる所があればって探してました」

「なら俺が案内してやるよ、さっき受付してたの見たけど、信吾達強いんだな」

「いや、そんなことはないですよ、まだまだです」

「ふふ、そんな謙遜すんなって、あと敬語もいらないから普通に喋ってくれ」


 信吾は少し迷って軽く頷いた

「わかった、ジャンでいいか?」

「あぁ、大丈夫。あとパーティのメンバーを紹介する」

 ジャンの後ろにいるメンバー三人が一歩前に出る

「こいつがクロード、で、こいつがバン、で、こいつがダイン」


 ジャン、クロード、バン、ダイン、と頭の中で反芻しながら、惜しいな、そこダムじゃないんか、、と信吾はそんなどうでもいいような事を思いながらも、こちらのメンバーも軽く紹介してから、近くの食事処に入る。


 疾風の爪のメンバーはいかにもベテラン冒険者といった雰囲気があり、あまり前へ前へといったガツガツした感じではなく全体的に落ち着いている。

 ジャンは顔が濃くて髪色は茶髪、軽い防具を身に着けている。クロードは体が大きく身長は二メートル近くあり、大きな盾を持ち、全身鎧に包まれている。バンは小柄で黒の外套を羽織って、更にフードも被っているので顔の一部しか見えない。ダインもバンと同じ小柄で白の外套を羽織っている。ダインはフードを被ってはいないので顔は見える。幼い顔をしているが、凄く落ち着いていて、若くして悟りを開いたような、達観したような面持ちでこちらをジッと見ている。


 疾風の爪のメンバーはジャンがリーダーでまとめながら戦闘では得意のスピードを活かして全体的に動く。

 他メンバーのクロードは盾役、バンが斥候で、ダインは魔法使い。男だらけだがバランスがいいメンバーである。


 信吾達六人とジャン達四人が一緒にお店に入る。

 十人座れるテーブルが無いため二つのテーブルを近づけて並べる。

 全員が席に着くとジャンが注文するために店員を呼ぶ


「どんなのがいい?やっぱり肉か?」

 ジャンの問に信吾が答える

「肉もいいけど、色んな物が食べたい。俺達結構食べるから適当に頼んでもらえれば助かる、何があるのかもわからないからさ」

「わかった」

 そういってジャンは店員に色々と注文した


 注文が終わるとそれぞれが喋りだした。

 すぐにみんな仲良くなれるだろうと思い、ポツリと呟いた。

 志保はさすがに少し距離を置いていた。端っこで小さくなっていて目立たない、更に隣はフォルガイムの為、隠れていて存在感が薄い。


 まぁ、仕方ないか、徐々に慣れていけばいいだけだ。と思い、その為の協力は惜しまないつもりの信吾。


 志保から視線を外し、周りを見渡しながら信吾が呟く

「ここの国はいい人達ばっかりだな」

 独り言の様に呟いた信吾にジャンは答える


「やっぱり国王様がいい人だからじゃないかな?とにかく国民の為にやたらとお金を使うし、自らも動いて国を良くしようと無茶をするって話しがが耐えないからな」

「なるほどな、、いいね、ちょっとこの国に興味が湧いてきたな、色々と見たいところもあるけど、、、まぁそれは俺達が落ち着いてからだな」

「ん?なんかあるのか?そう言えば信吾達ってこの国に何しに来たんだ?」


「いや、特に用は無いかな、、けど、目的というか目標はあるから、強いて言うなら強くなるために放浪の旅の途中かな」

「強くなるために?黒龍を倒す信吾がもっと強く?」

「まぁ、そうだな、世の中には上には上がいるからな」

「そのままでも充分食っていけるだろうに、凄い向上心だな」


 話しながら信吾はアバドンを思い浮かべて苦い顔をする。充分に食っていけるのは確かだが、のほほんとしていたら地球そのものが無くなる。


「おぉ、どうした?苦い顔をして、なんか変な事言ったか?」

 ジャンが心配そうな顔をする


「いや、大丈夫だ」

 気持ちをリセットしてこの場を楽しもうと切り替える。

 すると次から次へと料理が運ばれてあっという間にテーブルの上が一杯になる


「食べようか」

 そう言って一斉に食事をし始めた。


「上手い!」

 信吾は一口食べて感想を口にした。信吾の言葉にみんながウンウンと頷いてガツガツと食べる。


「ところで、今は昼間なのに仕事は?」

 とジャンに質問すると苦い顔をしたジャンが答える

「いやー、ダンジョン潜ってたら油断してね、負はしなかったけどボスの酸攻撃で防具をやられちゃってね、もう使い物にならないから新しい防具を鍛冶屋に注文してきたところなんだ」

「なるほど、ダンジョンのボスか、、面白そうだな」


「おっ、興味あるか?挑戦するか?」

 ジャンがワクワクしながら聞く


「まぁ、興味はあるけど、、どっちにしても落ち着いてからかな、まだまだやることあるから」


 と、さらっと答えながら雑談も交えて食事が終わった。

お店の外に出て別れを告げようとするとジャンが口を開いた。


「またこの国に来てくれよ、その時は色々案内させてくれ。俺達結構有名なパーティで、ギルドで聞いてくれれば連絡は取れるから」

「あぁ、わかった。その時は宜しく」

二人は握手をして別れた。


 ジャン達疾風の爪のメンバーと別れて少し歩こうとブラブラする。

 道の端を歩く信吾達一行は色んな形の魔導船が行き交う中、キョロキョロと探索を始めた。

 服屋、鍛冶屋、食事屋、武器屋、防具屋、魔道具店、などなど、お店に興味はあるが素通りして街並みを歩く。

 信吾は落ち着いてみんなと話しが出来るところを探したが、どうも人が多くて落ち着かない。


「落ち着いて話しがしたいけど、にぎやかすぎて無理っぽいな、どうしようかなぁー」

 と信吾が考えながら歩いていると、後ろから志保が言う

「あの、私の家に行きません?」

「えっ?」

「前に信吾さんが言ってたじゃないですか、行ってみたいって、、落ち着いて話しをするなら誰もいない所がいいと思って」


「あーなるほど、いいね!でもせっかくの異世界の街を探索とかはいいのか?宿屋とかにも行ってみたい気もするけど?」

「あっ、そうですね確かに」

 はっとした表情で返す志保。


 そんな志保と信吾の会話に5号が割り込む

「まぁ、そこら辺は落ち着いたらでいいのではないか?その前にトゥトゥナ様の所に行って依頼達成の報告や今後の事など、そこで話し合えばいいのではないか?」

「ふむ、なるほど、それもそうだな」

 すっかりトゥトゥナの事を忘れていた信吾はバツが悪そうな顔をしながら答えた。


 申し訳無さそうに志保の方を向いて

「とりあえず先に行くとこがあるからその後でもオケ?」

「あっ!全然大丈夫です!」

 志保がコクコクと頷いた


 ***


 自重をしない信吾はその場でゲートを開きトゥトゥナの拠点のUFOがある場所へと転移した。

 はじめて来た志保とトワは周りをキョロキョロとしながら5号の先導に着いていく。


 そのままトゥトゥナのいるところまでノンストップで突き進む。

 トゥトゥナの部屋の前で一度止まりノックをする5号。

 中から声が聞こえた。


「どうぞ」

 トゥトゥナの声が聞こえ、5号は扉を開ける。


「皆さんお疲れ様でした。どうぞ座ってください」

 トゥトゥナの顔に志保とトワが驚きながらも全員が木製のテーブルを囲みながら席についた。


「ウトゥから簡単に話しは聞いているけど、詳細を聞いてもいいかい?」

 トゥトゥナが話し始めると同時に全員の前にお茶が出される。


 いただきます、と言ってお茶をすする信吾。

 ふぅーと息を吐き、話し始める。


 志保とイズナの事、トワの事、竜の事、アバドンの事、そして異世界の国や、出合った人達の事。

 話し終えた信吾はお茶をすすり喉の乾きを潤した。


「なるほどなるほど、、思っていた以上に複雑でびっくりしましたよ」

 顎に手を当てて考えながら間をおく。


「まぁ、しかし、まずは、お疲れ様でした、志保さんにトワさんもようこそおいでくださいました。時間が許す限りゆっくりしていって下さい」

 ニコっと微笑みながらトゥトゥナが言う。


 志保とトワも流れに沿って頭を下げた。

「ん?あれ?私の事知らないのかな?5号から聞いてないのかな?」

 チラッと5号を見ると腰を90度に曲げた5号が謝罪を口にする。


「仕方ないですね5号は、でも相変わらずで逆に安心しましたよ」

 ニコっと微笑みながら自己紹介を始めるトゥトゥナ。

 色んな意味で驚愕して呆然とする志保とトワ。


「さて、信吾さんの話しに少し驚いたのですが、、アバドンは厄介ですね」

「ですねぇ」

 信吾がポツリと相槌をうつ


 しばらく沈黙して5号が口を開く

「あの、トゥトゥナ様、こんな不甲斐ない私ですが、信吾と旅をしていて気付いたのですが、、私はもっと信吾、いや、仲間の役に立ちたいと思っています、、ですが、私の実力では到底役にも立たない所か、足手まといでしかありません」

 5号は俯いて言葉につまる


「ふむ、それで?何が言いたい?」

 トゥトゥナが先を促す

「私をアップデートしてください!」

 意を決したように言った5号

「アップデートか、、、構わないがお前はいいのか?確かに機能や強さ等も格段に跳ね上がると思うが、下手をしたらお前自身の記憶や自我も失いかねないのだぞ?」

「わ、わかっています。ですが、それは万が一の可能性と聞き及んでおります。私は成功すると思います、いや、させます」


 トゥトゥナが顎に手を当てて考え込む

 そのやり取りを見ていた信吾達は記憶や自我が無くなる可能性があることを知ってオロオロしている。


 沈黙に絶えられなかった信吾が

「な、何か手伝える事とかってないのか?」

 絞り出した言葉がそれだった。

 5号の様子を見るなり、アップデートをするのを止めた所で、あの意志の強い目には無駄だと思い、最善の策があればなんでもする所存だった。


「いや、特にはないが、アップデートには時間がかかるから、しばらく一緒に行動が出来ない事かな」


 信吾は深い溜息をついてから

「わかった、5号、強くなって戻ってこいよ!俺達も今よりもっともっと強くなるから、一緒に頑張ろうな」


 ネガティブなことを考えているよりポジティブに考えることで落ちていきそうな精神をグッと抑え込む信吾であった。

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