第84話 冒険者ギルドの登録
夜が明けて先へ進む一行。
モンスターも信吾達の強さに警戒して近づいて来ない。
たまーにゴブリンが襲ってくるが、問題なく殲滅。
暫く進むと街道があり、馬車が2台程通れる位の広さだ。
「ここからは乗り物で進めばすぐに着くと思うぞ」
ギルバードが提案すると信吾は進行方向に目を向けた。薄っすらと高い建物が霧がかかったようにボンヤリと見える。まだまだ距離はありそうだ。
信吾は空間収納から車を2台出した。
志保が乗っていたベンツと、適当なワンボックスカーを出した。
「志保ちゃん、ベンツ運転してもらえるかな?」
志保は驚きつつもコクリと頷いた。
志保がベンツに乗り込むとフォルガイムが助手席に座り、後ろにはトワと5号が乗る。
一方ワンボックスカーには運転席に信吾が乗り、助手席にはクモスケ、後ろにはギルバードとハインリヒが乗り込んで出発する。
暫く進んでいると柵に囲まれた畑や果樹園が見えてくる。信吾は疑問に思った事を尋ねる
「あの、ギルバードさん、ここって畑はあるけど町とか村ってないんですかね?」
信吾がなんとなく尋ねるとギルバードが答える
「ん?勿論だ、全ての民は王都に住んでいて、王都から魔導船で往復しているからな、そんなの常識だぞ」
信吾は少し驚きつつも自分の常識は当てはまらないと考えを改めた。
信吾の常識というか、異世界の王政は、王都の周りに王様から拝命された貴族達がまとめる村や町があって、作物等で税金を納め、その税金で町を安定させて発展させていくと、なんとなく思っていた。だから所々に町や村なんかの集落があり、旅の途中で宿に泊まったり、買い物をしたり出来ると思っていた。
考えながら運転していると前方から結構なスピードで向かってくる何かとすれ違った
「あれが魔導船だぞ、早いだろう。しかも今のは一人乗りで特に早い魔導船だ。乗ってるのは恐らく農家だろう。たまに王都の外の果実を取りにいったりするんだ」
形はバイクに似ているが、タイヤが無くて少し浮いていた
「なるほどな、あんなに早い魔導船があれば距離なんて関係なく、遠いところでも問題ないって事か、、凄いな」
暫くそのまま進み、高い建物が見えてくる。その周りを囲むように二メートル位の壁が広がっている。
その壁に沿うように深い堀があり、門の前には橋が繋がっている。
とにかくデカイ、建物も一部しか見えないし、壁もどこまで続いてるんだって位先が見えなくなっている。
橋を渡り、ギルバードとハインリヒが車を降りて門番と話しをしている。
信吾達は車を降りて待っていると、ギルバードがこちらに走って来た。
「大丈夫だ、行くぞ」
ギルバードが門番になんて言ったかは分からないが、すんなり門の扉を通り中に入る。
扉を抜けるとそこは中世ヨーロッパ風の建物が並んでいて、その前の大きな道を魔導船が行き交っている。
王都の全貌は広すぎて見えないが、壁の中に国そのものがあると思うと頷ける話しだ。
信吾達はその光景に見入っているとギルバードが声をかけた
「鑑賞してるところ悪いが、まずは君たちの身分証明書を作らないとならないから、役場か冒険者ギルドに行くけど、冒険者になるって事でいいのか?」
「あ、あぁ、はい」
我に返った信吾が答えると
「他には商人とか職人とかもあるけど、それは後に役場に行ってくれれば大丈夫だから」
と、ギルバードが言ったのに頷いた。
ギルバードは信吾達を冒険者ギルドに案内している間に、ハインリヒは王城に行き、事の成り行きを報告するために別れた。
ハインリヒは近くの交番の様な詰め所に入って行き、魔導船に乗り込んで王城に向かった。
ギルバードに案内されて、冒険者ギルドに着いた。
冒険者ギルドはいかにもといった二階建ての建物で、大きな扉があり、中に入ると一階は受け付けと飲食が出来るスペースとなっている。
壁には依頼書が貼ってある。
飲食出来る所には何組かパーティがいて、各テーブルに座って食事をしている。
ギルバードは受け付けと話しをして信吾達を手招きする。
「ここで、この書類を書いてくれ、少しギルド長に話しをしてくるから、ゆっくり書いててくれ」
そう言ってギルバードは受け付けカウンターの奥の部屋に入っていった。
書類は名前や年齢や職業など、個人情報を書く欄があり、信吾はササッと書き終える。
皆を見ると、クモスケだけが書類を見て悩んでいたので助けてあげる。
ふとトワの紙に目をやると、年齢が4000歳となっている
「ん?トワって3000歳位じゃなかったか?」
「うーん、覚えてないんだよねぇ、もうここまで来るとどうでもいいってなっちゃって、わかんないんだよ」
「そりゃ、そうか」
信吾が腕を組んで納得してると
「あの、年齢は年相応にしといたほうが良いと思いますよ、、トワさんなら20歳前後って事にしといたほうが面倒にならないかと」
フォルガイムが冷静に突っ込むとトワも信吾も頷いた。
すると後ろから声がかかる
「お前達新人か?」
声をかけられた方に振り向くと、強面の冒険者らしき人物が見下ろしている。
「あ、はい、そうですけど、、」
信吾は内心お約束の新人イビリか?とワクワクしながら答えると
「俺は【疾風の爪】のパーティリーダーをやっているジャンだ。宜しくな」
「あ、どうも、信吾です。向井信吾。よろしくお願いします」
「信吾、変わった名だな。この国には来たばかりか?」
「はい、そうです」
「なるほどな、分からない事とかあったら周りの連中に遠慮なく聞けよ、みんないいヤツばっかりだからな」
おもむろに手を出してくる。反射的に握手をしてお辞儀をした。
「俺は大体この空いてる時間帯にはいるから、いつでも声かけてくれ」
そう言ってジャンはテーブルに戻っていった。
拍子抜けした信吾がボーッとしていると、ギルバードが戻ってきた。その後ろにはガタイのいい白髪のおじさんがいる。
「こちらギルド長のマルタさんだ」
「君が信吾さんですね?」
ギルド長のマルタが信吾を下から上まで舐めるように見ると手を出してくる
「信吾と申します、宜しくお願いします」
また信吾は反射的に握手をしてお辞儀をする。
「早速だけど、ギルバードさんから話しを聞いてね、黒龍を倒したんだって?しかもそのまま収納してあると聞いたんだが?」
マルタが半信半疑といった目で見ながら信吾に問いかける
「あ、はい、一体はギルバードさんでいいのかな?国に献上するということでいいのでしょうか?」
「ああ、そうだな、国に献上って事で話しをしてある」
「分かりました。それで、どこに出しましょうか?」
「それならこっちの訓練場に来て出してみてくれ」
マルタが先導して案内をする
「あ、ちょっと待ってください」
信吾が慌ててフォルガイムに話しかける。内容は受け付けの人からギルドについての注意事項とか身分証明書を受け取って、詳細を聞いておいて欲しいと伝える。
伝え終わるとマルタに続いて裏口から外に出る。すると高い壁に囲まれた闘技場のような訓練場がある。野球場より大きい位の広さの敷地で、所々に冒険者が訓練をしていた。
「さあ、ここに出してみてくれ」
マルタが目をギラギラさせながら信吾に言う
「分かりました」
信吾は空間収納から黒龍を出し、切り落とされた首も出して隣に置く。
マルタは口をあんぐりと開けて固まってしまった。
黒龍を確認したギルバードはポケットから小さな箱を出して中から小さいボタンが付いているシールのようなものを黒龍に付けてボタンを押した。すると黒龍はテニスボール位の大きさに縮んだ。
「えっ?」
今度は信吾が驚いているとギルバードが説明する
「これは生きている生物以外ならなんでも小さく出来る魔導具だ。大きいものを持ち運ぶのに便利な道具だ、例えば魔導船とかな」
言いながらギルバードは冷凍の魔導具で冷えた箱の中にテニスボールサイズの黒龍を仕舞った。
その後はマルタが興奮して黒龍を売って欲しいやら、もっと他には無いのか?とかで、適当に道中倒したモンスターを出してみた。
黒龍をはじめに、ゴブリン、白狼、黒狼、頭蓋骨が陥没したサイクロプス、巨人トロールとヒュドラにウロボロス、そしてキマイラ。
マルタは高級素材を見て目がキラキラと輝いている。
ギルド職員達が来て、それらの素材を鑑定して値段を出す。
全部で白金貨310枚、金貨1枚、銀貨6枚、大銅貨5枚。
内訳は、黒龍が白金貨100枚、トロール、ヒュドラ、ウロボロス、キマイラの4体で白金貨200枚、サイクロプスが白金貨10枚
白狼と黒狼は2体で金貨1枚と銀貨5枚
残りのゴブリンは銀貨1枚と大銅貨5枚となっている。
素材の損傷具合と手数料、ギルド入会手数料を全て引いてこの結果となった。
正直、お金の価値が分かりづらかったので、詳しくギルバードに聞いてみた。
頭の中で日本円に換算してみると、なんといきなり3101万6500円となった。
ちなみにわかりやすく日本通貨の換算例として
銅貨=10円
大銅貨=100円
銀貨=1千円
金貨=1万円
白金貨=10万円
となっている。
もう一つ驚くべきことは白金貨からはギルドカードの中のデータとして表記してあり、ギルドカードを魔導具にかざすと支払いが出来る仕組みとなっている。
なので大きい買い物は魔導具の中のデータ上の支払いという事になる。
要はギルドが銀行の様に白金貨を預かりと引き出し、更に両替も出来るという事だ。
但し白金貨の10枚以上は引き出し不可で、ほぼ金貨での取引きになるという事。
それもそうだ。個人が白金貨を大量に所持していると、白金貨自体が足りなくなる上に、価値が上がったり下がったりする事を防ぐための処置という事だ。
そもそも白金貨なんて持ち歩かなくても生活するだけなら金貨だけで事足りてしまうのだから。
信吾は素材を納め終わり、受付けに戻ってきた。
「あ、信吾さん、ギルドカード出来てますので、こちらに体液を一滴お願いします」
受付嬢が信吾に言うと、体液と言う言葉に信吾はギョッとした
「あ、すみません、体液はなんでも大丈夫です、唾液でも血でも」
どうやらDNAが必要って事か、と思い信吾は指先を針で刺して血を絞って垂らした。
ギルドカードを受け取り、ついでに金貨100枚も受け取る。残りの残高がギルドカードに記載される。なんだか通帳みたいだなと思いながら空間収納にしまう。
一応一通りの用事が済んだ信吾は全員で冒険者ギルドを出る。
ギルバードとはここでお別れだ。王城に行き、黒龍を献上しに行くギルバードは一言信吾に告げる。
「連絡を取りたい時は冒険者ギルドの受付に言えば、手紙なり通信魔導具なりで連絡が取れるから、用事があったら連絡くれ。それじゃ、元気で、またな」
手を後で振りながら歩いていくギルバードの背を眺める。
「なんか、この国って良い人達ばっかりだな、、」
ボソッと言った信吾にフォルガイムが反応する
「そうですね、絶対にジャンって冒険者に絡まれて大事になると思いましたけど、なんとも平和そのものでしたね」
「ああ、しかもこの国ってかなり進んでるように思えるんだけど、どう思う?」
その言葉にトワが答える
「確かに進んでるかもね、でも明らかに無いものが多数ありそうよ?例えばゴムとか、プラスチック、ビニールなんかも見ないね」
「うん、そうだな、それは石油を必要とするから見ないだけで、そもそも電気がないんだから俺達地球の常識で当てはめる事自体がナンセンスだな」
「なるほど、異世界は異世界の常識ってやつね」
「だな、、そもそも魔法がある時点で違うし、魔導具も恐らく動力は魔石だな」
トワと信吾の話しに5号が口を挟む
「さっき冒険者ギルドの依頼ボードを見てたのだが、常時依頼と、緊急の依頼、その他の依頼の3つに分かれていて、常時依頼が魔石や薬草、魔物の素材とか金属の採掘が主で、恐らく魔物の素材がゴムだとか塗料になったりとかだな。後はその他の依頼だが、掃除や護衛、ちょっとした事の依頼だな、まさに便利屋のような感じか、ちなみに緊急の依頼は今のところなかった」
なるほどと、頷いているとフォルガイムも話しに入ってきた
「冒険者ギルドの注意事項なんですけど、他の冒険者と揉めたり、依頼についての揉め事に関してはギルドは一切関与しないと、、要は自己責任で何とかしなさいって事ですね。あとはランクについてですが、上からS、A、B、C、D、E、まであって、ランクに応じて受けられる依頼も変わって来るそうですよ」
「あー、そりゃそうか、初心者にいきなり強い魔物の素材を取ってこいって言ったらすぐに死んじゃうもんな、ちなみに俺達のランクは?」
「Bです。講習を受ければすぐにでもAにランクアップ出来るそうですよ」
「あー、黒龍の一件があるからだろうな、まぁ、講習なんかもなんとなく察しが付くな」
「なんとなく?」
フォルガイムが首を傾げながら聞く
「多分なんだけど、Aからは国やギルドからの緊急依頼を受けなきゃならないとか、滞留してる依頼をこなさなきゃならないとか、貴族の護衛とか、じゃないかな」
「あーそれっぽいですね、ってかもうそうなんじゃないですかね?どうするんです?」
「いや、今のところはまだいい。特に冒険者として活動する気はないし、一気にお金持ちになっちゃったからな。問題がない限りは目的、目標に向かって突き進むだけだな」




