第75話 愛しさと切なさと悪運の強さと
完全に呑み込まれたフォルガイムは、化け亀の体内にいた。
(あぁ、声が出ない、体も動かない、もうダメだな、、信吾さんは逃げただろうか、クモスケさんもトワさんも大丈夫かな、、息が続かない、、なんだか溶かされていく感覚が、、)
徐々に意識が薄れていくのを感じる。そして完全に意識を失った。
体中が化け亀の体液に侵されて、意識を失ったフォルガイムの肺の中まで浸透していく、内蔵も溶け体内全体に体液が広がって行く。
するとフォルガイムの体は内側から淡く発光し、ビクンビクンと痙攣を繰り返す。
化け亀の体内の体液はフォルガイムの体が吸収するようにどんどん少なくなっていく。
ビクンビクンと痙攣を繰り返す、何度も何度も。
徐々に溶けていった内蔵が再構成される。内蔵が落ち着き、今度は体全体も光り、再構成されていく。一度溶けた体は再度元に戻る。だが、人間の姿、フォルガイムの姿と繰り返し、繰り返し変化していく。
徐々に収まり痙攣も無くなった。
ゆっくりと目を開けるフォルガイム
ーーーーー
一方信吾は、クモスケが倒れたのを見て絶望する。
「どうして、、クソっ!クモスケっ!くっ!」
絶望を通り越して怒りが込み上がってきた信吾。
「化け亀ぇぇー絶対に許さない!」
策もなく突っ込んで行く信吾に鎧として纏っている5号が信吾を止める。
「信吾!冷静になれ!考えろ!お前ならなんとかなる!なんとかできる!」
「うるせぇ!クモスケが、フォルガイムが、、クソっ!俺なんか、俺なんか、何もできやしねぇ、、何も」
5号と信吾が押し問答していると、化け亀はなにやらモゾモゾと動いては止まり、動いては止まりを繰り返している。やがて完全に動きが止まった化け亀は、首を大きく振って苦しみ出した。
「グガオオオオオオオオオオオオオ!ググググググ!」
化け亀はブンブン首と体を振りながら、勢い余ってひっくり返った。
すると亀の腹の部分が光り出し、ついに爆発した。
腹に大穴が空いた化け亀は体を大きく振って、辺りに体液が巻き散らかされた。
その体液を信吾と5号とイズナが浴び、更に倒れているクモスケとトワにも降り掛かった。
一番近くにいたクモスケはその体液の水溜りに浸されるかのように大量に浴びた。
かかった体液は信吾とイズナ、トワの体を徐々に溶かしていく。
「マズい!」
5号が叫ぶと同時にクリーンを近くの信吾とイズナにかける。自分は生身の体ではなくアンドロイドなので体液の影響は無かったが、一応自分にもかけておく。
そして苦しんでいる化け亀を警戒しながらトワに近づいて、クリーンをかける。
後は一番近くにいるクモスケのみ、と思った瞬間、クモスケが淡く発光した。そしてビクンビクンと痙攣して発光した光が明滅している。
徐々に体の色が変わり虹色に煌めく、そして大きくなったり、小さくなったり、蜘蛛の姿に戻ったり、人形になったり、太く、細く、また大きくなったり、小さくなったりを繰り返す。
信吾と5号は呆然と何が起きているのか分からずに経過を見守る。
様子を見ていたイズナは、立ち上がりトワの所まで行き、三本の爪の傷跡に何やら薬を塗っている。
すると見る見る傷が塞がって出血も止まった。
トワは人の姿に戻ってイズナに礼を言って、弱々しく立ち上がった。
そして化け亀は、腹に大穴が空いたまま、とうとう動かなくなって息絶えた。
何かが溶けている音と煙が蔓延するが、やがてそれも消えて視界が広がる。
化け亀の破れた腹の上に立っていたのは、何やら体の周りに光のようなものを纏ったフォルガイムが立っていた。だが、目は赤く自身を失っているように、理性がないのか、じっとしたままクモスケの方を見て佇んでいる。
やがてクモスケも落ち着いて痙攣が収まった。そしてゆっくりと目を開ける。クモスケも体の周りに光のようなものを纏って、目は赤く、理性が無いように無表情でフォルガイムを睨む。
ゆっくりとフォルガイムとクモスケが近づいて行き、唐突に殴り合いが始まった。
音だけが響き動きが見えない、その上殴り合いの衝撃で大地が揺れ、地面にヒビが入り、その都度衝撃波として信吾達を襲う。
「お、おい、一体何が起きてるんだ?」
「わからない、けどこのままじゃマズい。なんとか正気を戻させる!」
今度こそは絶対に二人を守ってやる!と心に誓い二人に走り寄り叫ぶ。
「クモスケ!フォルガイム!止めろ!」
叫びながらフォルガイムに抱きつき腕をがんじからめにする。だが、衝撃波を伴うような殴り合いをしていた両者に挟まれて無事な訳がない。殴られた信吾は歯が折れて、口の中もズタズタになり、顔面も瞬時に腫れ上がった。信吾は身体強化を強めにかけてもう一度、今度はクモスケに抱きついてがんじがらめにする。
「クモスケぇぇぇぇーーーーーーー目を覚ませぇぇぇぇーーーーーー」
口から血を吹き出しながら叫ぶ。一心不乱に叫ぶ。
信吾の血が辺りに撒き散らされ、フォルガイムとクモスケにかかる。そしてとうとう信吾は倒れた。
目を見開き固まっている5号は、その圧倒する信吾の気迫に動けない。
倒れた信吾をフォルガイムとクモスケが止まって見る。
徐々に目の色が赤から黒に変わり光の膜も収まり、正気を取り戻した。
「信吾!」
「信吾さん!」
二人が信吾を抱き起こす。
「お、お前ら、、良かった」
そう微笑んでからゆっくりと意識を手放した。
すぐにイズナが近づいて来て薬を塗ると、信吾の傷も見る見る治っていく。口の中もズタズタだが薬でキレイになる。しかし歯が抜けている所はどうしようもない、奥歯が一本無くなっているが、他の抜けかかっているのは少しでもくっついていたのでなんとかなった。
「イズナ、それは?、、いや、それよりフォルガイムもクモスケも大丈夫なのか?」
5号が二人を心配して聞く
「はい、意識はあったんですけど、体のいうことが全く聞かなくて、、ごめんなさいクモスケさん」
「いや、こっちも全く同じだ。悪かったな雄也」
「それにしてもお前達二人ってそんなに強かったか?」
「いや、確実にパワーアップしてますね、それどころかスピードも防御力も、他にも色々と変わってそうですが、詳しくはわからないです。そもそも何故こんなになったのかがわからないんですから」
クモスケが深く頷く。
「まぁとりあえず、あの敵意剥き出しのドラゴンでもやっつけますか?」
「そうだな」
フォルガイムとクモスケが残っている三匹のドラゴンに向く。
「今までの戦いを見てても勝てると思ってるのか?」
「ドラゴン特有の上から目線で、人間は下等生物とか思ってるから負けるなんて思ってないだろう」
「ちょっとまて、ここにいる人間は信吾だけって事実」
イズナ、トワ、5号がそれぞれ思った事を言う。
最後の5号の言葉に三人はなんともいえない顔をした。
クモスケとフォルガイムが歩いて近づいて行くとドラゴン二匹が二人に襲いかかる。
一匹はクモスケに尻尾を振ってなぎ払おうと体を動かすが、何故か体が逆さまに見えた後、意識が途絶えた。
もう一匹はフォルガイムが腕を無造作に振るってきたので避けようとするが、こちらも何故か体が逆さまに見えた後、意識が途絶えた。
二匹とも簡単に、一瞬にして首を切られて、何が起きたか分からない内に絶命した。
もう一匹残っているが、クモスケとフォルガイムがそちらを見る前に飛んで逃げしまった。
二人共追いかけるつもりはなく、興味なさげに踵を返した。
信吾の所に戻ろうと歩いて行く。
「疲れたから、ちょっと休みたい」
クモスケが珍しく疲れを見せたのでみんな信吾の隣りで座って休憩をとっている。
何故か皆が無言で、じっとしたまま動かない。
それから約一時間が経過した。
「う、うーん、、」
皆が信吾の方を見る。
ゆっくりと目を開けて、首を横に向けるとクモスケがいた。クモスケが微笑んで信吾の頭をゆっくりと撫でる。
「おはよう信吾」
「あぁ、おはようクモスケ」
寝ぼけ眼のまま、身体を起こし周りを見渡す。
皆が血だらけで、クモスケとフォルガイム以外は疲れ切った顔をしている。
信吾は、はっ!として
「おい!フォルガイム!クモスケ!無事だったんだな!良かったぁぁーー」
二人に抱きついて喜ぶ信吾だった。




