第67話 レックスもどきと怪しい女
時速1000キロで飛ばす空飛ぶ絨毯。旭川を過ぎて札幌に向かう信吾達はいつの間にかフォルガイムが前を見て、クモスケが真下を、5号が後ろを確認する担当に分かれていた。
信吾も空飛ぶ絨毯を操作しながら魔力を目に集中させて視力を上げて捜索している。
すると信吾の目に何やら薄ぼんやりと動くものが数キロ先に視認できた。スピードを徐々に下げて確認する
「あ、あれ?あれかも?あれだ!いたー!いたいたあれあれあれ!」
「あっ!ホントですね!黒のベンツですね」
「その後ろは、、なんだ?でっかいトカゲか?竜みたいだけど違うな」
「恐竜のティラノサウルスみたいですね」
「まぁトカゲがデカくなってそう見えるだけだろ、ティラノサウルス・レックスは二足歩行だし、追ってきてるヤツは4足で走ってるうえに大きさだって比べたとしたら小さすぎる」
一度ベンツとすれ違いUターンしてベンツに速度を合わせる
「このまま少し降下するぞ、5号はベンツ、、いや、人間の保護を頼む、クモスケとフォルガイムはレックスもどきを頼む」
そういって走るベンツの横を慎重に並走する様に飛ばす。一方フォルガイムとクモスケはレックスもどきの前に降り立ちクモスケが威嚇をする。
レックスもどきは急ブレーキでクモスケとフォルガイムの少し前で止まる。
レックスもどきもクモスケに負けじと威嚇の咆哮を上げる。
「ギャギャギャオオオオオオオォォォォォォ」
レックスもどきはギザギザの歯を剥き出しにしてよだれを垂らしている。
フォルガイムは大剣を収納袋から取り出して構える。
「クモスケさん!行きますよ!」
「ん!」
二人が同時に地面を蹴ってレックスもどきに突進する。
レックスもどきは突進してくる二人に対して溢れ出てくるよだれを首を振りながら吐き出した。
フォルガイムは嫌悪感から大きく回避した。クモスケは拡散されたよだれを両手をクロスさせて顔を守りながら突っ込み鎌状にした背中の後ろ足を刈り取るように振るった。
ザンッと音と共に首が飛び血飛沫が舞う。
「えっ?もう?クモスケさん早すぎですよ」
一瞬で片が付いたのを見てフォルガイムは呟く。
クモスケはフォルガイムの呟きに反応せずに広範囲に広がったよだれを見ている。
そこには煙が上がり土が溶けているのが見える。
「えっ?ちょっ、クモスケさん!腕!」
「マズい、油断した」
「酸!?」
クモスケの腕が肘から手に掛けて半分溶けていた。更に腕だけじゃなく細く拡散されたよだれは所々クモスケの服や体を少しずつ溶かしていた。
*****
一方信吾と5号はベンツと並行して大きな声で声を掛ける
「おおぉーーーい!車を止めろー!もう大丈夫だからーーー!」
声を掛けながら中の運転手を視認すると、眼鏡をかけた20代前半位の女性が目を見開きこちらを見た、そしてすぐにバックミラーで後ろを確認し、またこちらを見て、と、2、3回繰り返した。驚いた女性は急ブレーキをかけて停止した。
信吾は絨毯を車の横につけて中を確認しようと思ったら、ゆっくりとドアが開いて中から女性が出てきた。
20代前半に見えたがどう見ても高校生の制服のブレザーを着ている。髪の毛は長く、毛量が多いのかもさっとしていてそれを乱雑に後ろで縛ってある。この時期と、この場所にはあまり見られない褐色の肌をしていて、ほどよく日に焼けている様に見える。眼鏡を外したのか裸眼で睨まれる。
左手に何やら木刀の様な物を持って右手を添えて抜刀するかのように構えている。
そして驚くべきことに腰のベルトにチェーンで繋がっている銃が見えた。
「俺たちは怪しいものではない、君を保護しに来た」
「貴様みたいなやつが怪しくない訳がないだろ!何に乗ってたんだ!隣のヤツの変な服はなんだ!どこから現われた!貴様は何者だ!」
「おお、落ち着けって質問が多いやつだなぁ、全く、、」
「答えろ!さもなければ、、、」
殺すぞと言わんばかりの殺気を放つ女。
「あぁ。答えてやるよ、乗ってたのは空飛ぶ絨毯、こいつは最新型AI?サイボーグのTSR5号、だから少し変な服で、さっきまでいた所は地下だな、で、俺達はこの世界に取り残された生き残りの君を助けに来た、言わば正義の味方かな」
ニコッと笑いかける信吾。
完全に意味不明、理解不能といった感じで目を細めて訝しんでいる。
「言ってることは間違ってはいないが、それじゃ伝わらんぞ」
5号が突っ込む
「まぁ、いきなり現れて信じろって方がおかしいのかもしれんが、助けに来たのは本当だ。時間がないから無理矢理にでも連れて行くぞ。なんならその武器らしきもので納得行くまで抵抗してみるか?」
「5号それはちょっと厳しくないか?」
信吾が5号の方に向いて言及すると同時に女が動いた。
完全に5号の方を向いていた信吾は女が抜刀したのを見ていない、だがそれは信吾の右手3本の指で摘まれていた。木刀に見えていたのは長ドスという鍔のない刀だった。刃に触れないよう刀の腹の真ん中を何事もなく摘んでいた。
すると「信吾さーーーーん」と遠くから声がして振り返るとクモスケを抱えたフォルガイムが走って来た。
「えっ?お、おい!どうしたクモスケ!」
「は、早く治癒魔法を!信吾さん!」
今にも意識を失いそうになっているクモスケはぼんやりとしたピントの合わない目をなんとか開き意識を保っている。
信吾はまず水を出してクモスケの体に付いた酸を洗い流す。クモスケは目を見開き歯を食いしばり痛みに耐えている。
「我慢しろっ!すぐ治してやるからな」
すぐに治癒魔法をかけるとただれていたクモスケの体がキレイになっていく。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
連続して治癒魔法をかける信吾、そのまま数分が経ち、見かねたフォルガイムが信吾を羽交い締めにして止める。
「信吾さん!落ち着いて下さい!」
「なんで!なんで再生しない!クモスケの腕は!」
一番酷かった腕は両腕共に肘から下が失くなっていた。
「俺のせいだ、俺が、俺が、俺が、俺が、、、」
クモスケを抱きながら自責の念に駆られている。
フォルガイムはその場で座り込み項垂れている。
「し、信吾?ちょっといいか?」
5号が失意のどん底にいる信吾に小さな声で、まるで腫れ物を扱うように丁寧に声を掛ける。
「き、貴様達はいったい何者なんだ?」
「うるせぇな!黙ってろバカタレ!今大事なとこなんだよっ!」
5号は小声で怒鳴ると言う器用な事をすると、女はその気迫に押されて一本下がる
「あーー、信吾?クモスケの腕なら治ると思うぞ?うん」
放心状態となっている信吾が目だけ動かして5号を見る
「エ、エリクサー」
耳元で聞こえるか聞こえないか分からないくらい小声で、優しくささやく。荒ぶった波を抑えるように優しく優しく
すると目をカッと開き空間収納からダンジョンで手に入れたエリクサーを取り出して躊躇いもなくすぐにクモスケに飲ませる。
欠損した部分にかけても良かったが、体や足など所々溶けていた部分もあり、全体的に効果が出るようにと念の為体内に吸収させた。
するとクモスケが眩い光に包まれた。数秒が経ち光が収まると欠損した両腕が何事も無かったように元に戻っていた。
クモスケは不思議そうに両手を閉じたり開いたりしている。フォルガイムはホッとして安堵の溜め息をはいた。
信吾はというと5号に向き直り顔を引きつらせながら
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?ねぇ?」
「い、いや、仕方ないだろう!悲壮感漂わせて治癒魔法をかけてるし、止めても自分を責めてるし、タイミングがな?」
信吾は恥ずかしさから顔を真っ赤にして下を向いてしまった
フォルガイムは遠くの方を見ている
「ありがとう、信吾。何度も何度も治癒魔法をかけてくれて信吾の優しさが凄く伝わってきたよ」
クモスケは悪気はなく本心で言っているのだが、信吾にとっては恥ずかしさの上塗りをされて更に顔を赤らめる。
「そろそろいいか?貴様達は何者なんだ?そっちの黒い鎧も大概だが、背中に尻尾みたいになんか付いてるとか、とても人間とは思えないが?」
一斉に女を見る
5号だけがキッ!と睨みつけた
「時間ないし悪いけど説明してる暇はない。決して悪いようにはしないからとりあえず着いてきてくれ。話はそれからだ」
いうやいなやゲートを開こうとした時、突然信吾の頭の中に直接声が響いた。
「トゥトゥナ様?」
「そうだよ、よかった繋がった」
「えっ?どうやって?」
辺りをキョロキョロと見回すがトゥトゥナの姿は見えない。
「信吾さんから報告、連絡、相談を逐一出来るようにって言われたってのもあるんだけどさ、お互いに焦って出ていったから詳しい場所を教えてない事に気付いてね。で、アメリカ大陸の山脈としか言って無かったんだよね確か、、」
「あ、そうですね、確かに」
信吾以外の人には聞こえないのか独り言を言っているように見える信吾を皆が注目する。しばらく沈黙が訪れ
「分かりました、すぐに向かいます」




