第61話 鬼
6階層に降りてきた信吾達四人は気を抜かないように警戒をしながら奥へ進む。
歩きながら信吾がポツリと呟く
「何かいいな」
「何がです?急にどうしたんですか?」
「いや、なんとなく異世界に来て冒険してますって感じじゃん?そう考えるとワクワクしてきてな。信頼できる仲間がいるからかもしれないけど、こういうの好きなんだよ」
クモスケが何か言いたそうだったが、ふと気配を感じて前を見ると三メートルを超えるんじゃないかってくらいでかい鬼が棘付きの棍棒をかついで仁王立ちでこちらを見ている。
しかも昔話に出てくる様な容姿で、全身が真っ赤で頭には角が二本、更に上半身は裸で下は鬼のパンツをはいている。そう、虎柄のような派手なパンツだ。そして色違いで全身が青と黄色の全く同じ容姿の鬼が一体ずつと、これまた地球の、というか日本のオリジナリティが全面にあらわれていた。
「いや、信号かっ!」
「あーわかります、並びが気になりますね」
信吾とフォルガイムが感想を述べる。並びに関しては赤い鬼が真ん中で、左が青、右が黄色なのだ。
鬼達はこちらを見ているが全く動く気配がない、様子を伺っている様だ。
「よし、クモスケが赤い鬼でフォルガイムが青な。俺は黄色を相手するから5号は後方からフォロー頼む」
「わかりました」
「りょーかい」
「任せろ」
各々返事をして行動を開始する。
まずファーストコンタクトはクモスケだ。一瞬で距離を詰めて赤鬼の首を刈り取りに行くが、棍棒で防がれると同時に棍棒から炎が火炎放射器のようにクモスケを襲う。だがクモスケは耐性もあるが装備しているスカーフが炎ごと吸収して魔力に還元された。赤鬼は吸収された炎を見て少し驚いて一瞬の隙を見せた。その隙をクモスケは見逃さない、すかさず背中の六本の足を鎌状に変えて攻撃を開始する。縦横無尽に切り刻むが致命打とはならない、どうやら防御力特化のようで生半可な攻撃では倒しきれないと悟った。少し距離をとったクモスケは相手の出方を見る。赤鬼は棘の棍棒を上から振り下ろしてきたが難なく躱すクモスケ、スピードが遅く軽く躱すが振り下ろしてきた棍棒はダンジョンの地面にクレーターを作った。直径1メートル程だが凄まじいパワーの様だ。危険だと感じたクモスケは背中の足をカニのハサミの形状に変えて棍棒を挟み粉砕した。そしてチラッと他の鬼達を見ると同じ様な動きをしている。
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一方フォルガイムはクモスケが赤鬼に向かって行くと同時に剣を構えて青鬼と対峙した。青鬼は棘の棍棒を突き出したと思ったら、水の槍を形成して飛ばしてきた。警戒していたフォルガイムは余裕を持って躱したが、躱した水の槍が壁にぶつかり、ジュゥゥーと音と共に一部の壁が溶けている。どうやら酸が含まれているようだ。フォルガイムはマズイと思い一気に方を付けようと剣を上段で構えて振り下ろした。青鬼は棘の棍棒を横にして受け止めようとする、ザンッと棘の棍棒が真っ二つに、まるで包丁で野菜を切ったときのようなキレイな断面で、更にそのまま青鬼を縦に両断すべくフォルガイムは力を込めた。だが青鬼の頭には少しの傷がついただけで両断とはいかない。
青鬼は真っ二つにされた棘の棍棒を投げ捨てて力を込めているフォルガイムに煩わしいとばかりに右フックを放ってきた。
ゴキンとフォルガイムの左肩から音がした。踏ん張ってもいない只払い除けたような右フックでフォルガイムの肩の関節が外れた様だ。凄まじいパワーだがスピードが遅く、やはり赤鬼同様のスペックらしい。すかさずフォルガイムは距離を取ると5号がフォルガイムに近づいて、左腕を持ってゴキンと外れた肩を治してやる。
「5号さん、ありがとうございます」
フォルガイムが言い終わる前に後ろに下がる5号。
そして再び対峙するがどうやら魔法はもう出せない様で、その巨体をゆっくりと動かしてフォルガイムに攻撃を仕掛けるがスピードが遅く難なく躱すフォルガイム。
ーーーーー
そして信吾はというと、黄色い鬼に向かって小手調べで土の弾丸を数発放った。咄嗟に棘の棍棒を盾にして防御するが全てとはいかずいくらかは体にめり込む。だがほとんどダメージが入っていない様で、しかも棘の棍棒が土の弾丸を吸収したように見えた。すると次の瞬間棘の棍棒を突き出したかと思ったら先端から土の弾丸が数発飛んできた。信吾は難なく躱すが、立て続けに棘の棍棒を振った、と思ったら土の槍が飛んできた。
信吾はニヤリと笑みをこぼして同じ様な土の槍を飛ばして相殺する。距離を取ったまま右手を前に出して指をクイクイっと動かして「かかってこいよ」とジェスチャーした。黄色い鬼は棘の棍棒を突き出して次々に土の弾丸と槍を飛ばしてくる。それを信吾は同等の弾丸と槍で相殺する。信吾にとっては片手間でも出来る芸当だった。
そして片手間で相殺すると同時にフォルガイムとクモスケをチラッと見るとフォルガイムもクモスケも決定打に欠ける様だ、魔法を行使する媒体はどうやら棘の棍棒にあり、それがなければ魔法は出ないっぽい。そしてパワーもさることながら防御力も高いとなると対策的には身体強化かと思っているとクモスケと目があった。
瞬間クモスケが赤鬼の棘の棍棒が横薙ぎに振るわれて、フルスイングの棍棒がクモスケを吹き飛ばした。それは一瞬の出来事で目があった時に少しの油断が生じて、その油断をついた赤鬼の攻撃がクリーンヒットしたのだ。
壁に叩きつけられたクモスケはそのまま気絶したようだ。
すぐさま5号が駆けつけてクモスケの様子を見るが、赤鬼はそれを許さない、ゆっくりと近づいていく赤鬼。5号はお構いなしにクモスケに治癒魔法をかける。
「クソっ、フォルガイム!」
叫ぶと当時にフォルガイムに身体強化をかける信吾、そして自分にもかけて、まずは黄色い鬼の棘の棍棒をウインドカッターで真っ二つにして魔法を使えないようにしてから、赤鬼に蹴りを放った。赤鬼は吹っ飛ばされたがダメージは無い。そもそも信吾はダメージを与えるために蹴りを放ったのではなく距離を取るために放った押すような蹴りだ。
身体強化をかけられたフォルガイムは状況を瞬時に理解して、まず青鬼の首を狙って力一杯横薙ぎに振るった。
青鬼の首が落ちて血飛沫が舞う。
信吾はクモスケの側に行き治癒魔法をかける。
「おいっ信吾!赤と黄色が来るぞ!」と5号が叫ぶ。
信吾は立ち上がり2体の鬼を睨みつける。
「なぁ、5号。お前って自分の体をどんな形にも変化できるんだよな?」
そのまま鬼達から目を離さずに5号に声を掛ける。
「あ、あぁ」
「なら俺の剣になれないか?」
ハッと何かに気付いた5号は、少し赤くなり一瞬躊躇ったがすぐに信吾に抱きついて体を変化させた。すると信吾の体に合わせて鎧のようになり、右手には鋭い鋼鉄に変化した剣が握られた。まるで合体したような見た目になった。同時に5号にも身体強化を施す。
すぐ近くまで迫ってきた2体の鬼は同時に攻撃を仕掛けて来た。身体強化をかけた信吾にとって鬼達のスピードは止まって見えるほどであったが油断はしない。
信吾から見て右側の赤鬼は前蹴り、左側の黄色はしっかり踏み込んで高い位置から拳を振り下ろしてきた。信吾は前蹴りをしゃがんで回避してすかさず軸足を払って転倒させる。振り下ろしてきた拳はしゃがんだまま後ろに体を反らせてバク転で回避。拳は床を直撃して直径1メートルのクレーターを作った。めり込んだ拳を引き抜こうとする黄色だが、信吾はそのめり込んだ隙をついて肘の関節部分を狙って黄色の腕を両断した。
そのままクルッと回転して後ろ回し蹴りを放ってフォルガイムの方に吹き飛ばす。そして間髪入れずに飛び上がり足払いで転倒している赤鬼の心臓目掛けて剣を突き立てる。更に心臓に刺さった5号の剣は刺さったまま形状を変えて心臓を破壊した。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオー」
と断末魔の声を上げて赤鬼は息絶えた。
吹き飛ばした黄色は腕から血を撒き散らせながらフォルガイムの側に転がってきた。
フォルガイムは冷静に、そして静かに剣を上段で構えて振り下ろした。振り下ろした剣は黄色の首を切断してなおも床に突き刺さって亀裂が生じた。
辺りに静寂が訪れて、鬼達との戦闘は終了した。




