第50話 蝿の王
北海道稚内空港に着陸した一同はガーゴイルを迎え撃つ。
「フォルガイムお前はガーゴイルとハエ以外を徹底的に殲滅してくれ。俺とクモスケはハエを注視しながら戦う!ガーゴイルは放っておいても問題ない」
信吾が指示を出す。クモスケは黙ってコクコク頷いている。
フォルガイムは「了解です!」といって収納袋から大剣を取り出して構える。
信吾もチタン製の剣を出して右手に持つ。
敵意むき出しで向かってくる虫達にフォルガイムが突っ込んでいく。
右へ左へ大剣を振るって両断していく。フォルガイムの攻撃をすり抜けてきた虫達を横目で、ハエを見ながら片手間で切り伏せる信吾とクモスケ。クモスケは背中の足を動かしながら土の弾丸でハエにも牽制する。が、素早い動きで躱される。するとハエが口から何かを吐いた。「クモスケ避けろ!」信吾が叫ぶとクモスケは横に跳んで間一髪避けられた。
避けた後ろにいた蜂がジュウゥゥゥという音と共に溶けていく。
「酸だ!あれを食らうと溶けるぞ!」
信吾が二人に聞こえるように叫んだ。
既に無数の虫達は殆ど切り伏せて数えられる程度まで減っている。
ガーゴイルはハエの後ろで様子を見ている。
信吾達三人は集まり、少しハエから距離を取った。
するとハエがビクンビクンと脈打ち徐々に大きくなっていく。身長は180センチ位だろうか、顔はハエで胴体も太くずんぐりむっくり、二足歩行で、二本の腕。
手には禍々しい三股の槍を持っている。背中には四枚の羽が生えている。
「気持ち悪っ!」
「信吾さんいきなりそれですか?てかそんなこと言ってる場合じゃないですよ?」
「俺は生き物の中で一番ハエが嫌いなんだよ、、、」
ボソッと呟いた。
信吾は言葉には出さないが、ハエの生態を考えるとおぞましく感じるのだ。幼虫の時代から成虫になってからも、何にたかっているのか。食べるものが異常すぎる所が嫌いな理由だった。
信吾は一歩下がり、クモスケとフォルガイムが前に出ている陣形だ。
「我が名はベルゼブブ、ルシファー様の側近。蝿の王とは我の事だ」
甲高い声でどこかアホっぽい
「やっぱりベルゼブブか、で、何か用か?」
「貴様達を殺しにきたのだ、アスタロト手を出すなよ我の獲物だ」
後ろにいたガーゴイルがそれを聞くと同時にビクンビクンと脈打ち徐々に大きくなっていく。今まで隠していたパワーの源が迸る。
顔はロバのような馬のような感じだが姿形は毛むくじゃらのティラノサウルス・レックスに似ている。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ」
アスタロトがあくびのような雄叫びを上げた。
「くっさ!くっさぁぁぁ!臭い臭い臭いヤバいヤバい殺傷能力半端ねぇ!」
信吾達は三人とも口元を手でおさえて口呼吸になる。
「ちょっと待てちょっと待て、ウンコの王ベルゼブブ!」
「ウンコの王ではない!蝿の王だ!」
「家に帰って風呂に入ってきてくれないか?そのアスタロトと一緒に、あと歯ぁ磨けよ」
「ふっふっふ、いい香りではないか。この香しい匂い、最高だ」
恍惚の表情で言うベルゼブブに信吾達は100メートルほど距離を取った。
「おーーーい、風呂に入ったら相手にしてやるから今日は帰りなーーーーーー」
信吾がベルゼブブに向かって叫ぶ。
するとベルゼブブが物凄いスピードで槍を前に突っ込んで来た。
ガキンッとクモスケの背中の足とフォルガイムの大剣がベルゼブブの突進を防いだ。クモスケの背中の足は鎌の形に変わっている。すぐさま攻撃にうつるクモスケとフォルガイム。
キキキキキキキキキキキキキン
キキキキキキキキキキキキキン
クモスケの6本の背中の足とフォルガイムの大剣が1本の槍に弾かれる。それどころかフォルガイムの体が攻撃を受け所々血が滲んでいる。
フォルガイムは特訓の成果と映画を参考にした目配せで致命傷だけは避けられてはいるがこのままではジリ貧だ。
一方クモスケはしっかりとベルゼブブの動きを見ていて、攻撃をあえて受けてカウンターを当てている。攻撃を受けてはいるが無傷である。硬質化してダメージを軽減しているのだ。
2対1ではあるが力は拮抗している。
その隙に信吾が動く。
ガキンッ!
身体強化の魔法をかけた信吾が後ろから首目掛けてチタン製の剣を一文字に振った。が、首の半ばで刃が止まってしまった。
「くそっ!」
「ぐぬぅっ!貴様らぁぁぁぁ!」
怒ったベルゼブブは至近距離で口から炎を吐いた。
辺り一面に吐かれる炎が撒き散らされる。
クモスケは防御に身を固めた。
フォルガイムは炎に巻き込まれながらも後ろに飛び退り距離を取った。だが火傷で全身に激痛が走り、両足をついた。
信吾は土の魔法で壁を作り炎を防いだ。
すかさず信吾は距離を取り風の刃を無数に放つが傷一つ付かない。
怒りで我を失ったベルゼブブが信吾に攻撃する。
信吾は引き続き身体強化魔法を全身にかけて対応しているが傷が増えていく。急所を狙って攻撃しているがやはり信吾のパワー不足というか、ベルゼブブの防御力が、さすが悪魔の幹部といったところだ。
クモスケがフォローに入るがやはりフォルガイムの脱落は大きい。全く刃が立たないどころか徐々に押され始める。クモスケも打ち合いながら苦い表情に変わって、汗が流れてくる。
「クモスケ!下がれ!」
信吾は魔力を練ってベルゼブブに放った。
バーーーーーーーーーーンと雷がベルゼブブに落ちた。黒焦げになったベルゼブブが一瞬動きを止めた。
その隙をクモスケは見逃さない。瞬時に信吾がクモスケに身体強化魔法をかけて
「行け!クモスケ!」
ハエトリグモとハエの勝負はやはり蜘蛛なのか、地面にしっかりと足をつけて一気に跳びベルゼブブの首筋に食らいつく。半分信吾が切った部分をピンポイントで食いついたクモスケは更に糸でベルゼブブを拘束する。
ベルゼブブの首が落ちて戦いは終わった。
アスタロトはいつの間にか消えている。おそらくは拠点に戻って報告といったところだろう。
ボロボロになった信吾と口の回りが血だらけのクモスケがフォルガイムの近くに集まる。
四つん這いで下を向いてい微動だにしない。
「大丈夫か?フォルガイム」
「雄也大丈夫か?」
「クモスケさんが心配してくれるなんて珍しいですね」
「ふふっそんな軽口が言えるようなら大丈夫だろう、治癒魔法も大丈夫だろ」
「信吾さんそれはないっすよ、全身火傷で激痛が走って動けないんですから」
信吾がフォルガイムに治癒魔法をかける。
火傷が治っていき、やっと顔を上げてしっかりと信吾達二人をみる。
「ありがとうございます。って、えっ?信吾さんもボロボロじゃないですかっ!キズだらけですよ!クモスケさんも口の回りが血だらけになってるじゃないですか!内臓やられたんじゃ?」
フォルガイムが慌てて早口になっている。
「落ち着け大丈夫だ、クモスケは怪我という怪我はしてない」
信吾が自分と一応クモスケに治癒魔法をかけた。
「いやぁー汚れっちまったな、簡単に洗うかな」
信吾が土の魔法でシャワールームのような個室を三つ作り、その上からお湯をシャワーの様に出す。
「クモスケは石鹸とシャンプーとリンスな、で、フォルガイムは石鹸で大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「わかった」
それぞれ個室に入りシャワーを浴びて汚れを落とす。
信吾はササッと済ませて一番最初に出る。
次にクモスケが出てくる。すぐにバスタオルを渡すと同時に温風の魔法で全体的に乾かす。
フォルガイムは体が大きい為、洗うところが多いのかわからないが、なかなか出てこない。
そして10分後
「おーいフォルガイム君?大丈夫かー?」
フォルガイムはシャワーを浴びながら考えていた。ただただシャワーに打たれながら下を向いてひたすら考えていた。
信吾の声が聞こえて個室から出たフォルガイムは重々しく言う。
「すいませんでした、自分が弱いばっかりに、クモスケさんと信吾さんを危険な目にあわせて、、、仲間を守りたいなんておこがましいにもほどがありますね、、」
「まぁーたお前はそうやってネガティブになってんのか、やれやれ」
少し間をおいて信吾は続ける
「仲間を守りたいってのはいいことだと思う、俺もそうだし。でもな、守り方にも色々あるんだ、そこは自分の頭を使ってよーく考えるのもいいかもな。でも自分の事を弱いって思って卑屈になるのはちょっと違うぞ?弱かったら強くなる為に試行錯誤して、努力をして、訓練をしてもっともっと強くなってやるって前向きな考えが欲しいところだな。今度は絶対に仲間を守れるだけの力をつけてやるってな」
フォルガイムの肩をポンポンと叩いた。
フォルガイムは信吾をジッと見つめて深く頷いた。
「あっ、ちなみにベルゼブブは多分、レヴィアタンよりは弱いと思うけど、悪魔の幹部をやっつけたんだぞ俺達は、もっと自信もっても大丈夫だぞ」
3対1でもギリギリだったけどな、と小声で付け加えた信吾であった。




