第49話 出発進行
模擬戦が終わり一息ついた信吾は反省会を始めた。
「さてフォルガイム君、模擬戦をやった感想は?」
「はい。そ、そうですね、信吾さんの動きが変で、見えてはいるんですけど対処が出来ないと言うか、何がくるか分からなくて少し焦ってしまいました」
「あの動きはな、実はアクション映画からの流用なんだよ、対象の人は香港のスターなんだけど、今はもうその香港映画の会社もなくなったけどね。で、そのスターは今ハリウッドで活躍しているんだ。まぁそれはいいとして、映画はエンターテイメント、見せるアクションだし、そもそもその人の役はヒーローが多かったんだ、だから無力化を狙ってる動きなんだよ。とまあ、その映画の主人公を真似て俺の動きも読みづらい攻撃ではあったけど正直全く歯が立たない固さだな、おまけに一撃で無力化されたし、、、」
「なるほどです、、奥深いですね」
「まぁな、これが実践でフォルガイムの防御力を突破するような攻撃だったらって考えるとどうだ?焦って周りが見えなくなるのもいただけないしな」
「はい、、そうですね、今回の模擬戦は考えさせられる事が多いです。もっともっと勉強しなければいけないですね」
「まぁ、気楽にやろうや、実際あんな動きするヤツもいないだろうし、その考えに至っただけでも上等だよ。ちなみに映画は映画でも暗殺を主としている主人公の動きも参考になるな。まぁ大体がライフルで狙撃とか銃で撃つとかがメインだけど、体術戦とかはエグいぞ、容赦なく殺しにかかるからな。まぁそれも実際なら心臓を突かれようとも脳に血が残っている限り意識もあるし動けるからな。ま、一撃で沈めたいなら脳を破壊するか首を落とすぐらいか?魔法を使えばまた違ってくるだろうけどな」
「えぇぇ、よく知ってますね。てかそこまで考えが至らないですよ」
信吾とフォルガイムの話を頷きながら真剣に聞いているクモスケ。
「そうか?まぁとにかくフォルガイムは対処の仕方というか臨機応変さを身につけた方がいいかもな、いつどんなときでも、どんな攻撃にも対処できる様に常に冷静を意識するとかな」
「シンプルと言えばシンプルですけど、なんか一番難しいような気がしますよ」
「そんな気負うなよ、気楽にやるのが一番だ。なら午後は映画でも見るか?」
「えっ?どうやって?って信吾さんなら出来そうですね」
「まあ、ポータブルDVDプレイヤーで見れば問題ないし、電池もいっばいあるからな、午後はそれでも見てゆっくりしようや」
「あぁ、なるほど」
こうして午後はプレハブ小屋での映画鑑賞会が始まった。
_____
そして、一週間が経った。
「産まれる」
クモスケが一言呟いて蜘蛛の姿に戻った。
そこからは怒涛の展開で産卵したかと思ったらすぐに孵化して百匹ほど誕生した。
産まれてすぐにクモスケの前に来て整列を始めた。クモスケがなにやら身振り手振りで何か伝えた後に、収納袋を器用に開けて食材を取り出した。かつて倒した蜂や蟻、ヘビ、カニ、バッタ等。それらに食いついた子蜘蛛達。数分で食いつくした百匹の子蜘蛛達。そしてクモスケが前足をビシッと上に掲げたらすぐにバラバラに解散した。文字通り蜘蛛の子を散らした状態だ。
「えっ?えっ?何が起きた?子供達が消えてったけど?」
途中からエルフ達と妖怪達も集まってきて今の光景を見た一同は固まっている。
クモスケが人の姿に戻ると靴を履きはじめる。
何気に信吾が錬金術で作ったローブやスカーフは改良を重ねた末にクモスケが蜘蛛の姿に戻っても脱げないように伸び縮みが出来る様にしてある。しかしスカートや靴は作ったものではないので脱げてしまうのだ。
「あいつら放っておくと共食いを始めるヤツが出てくるから食べ物与えたの、それで後は自由に生きて子孫を残せと言ってあるから大丈夫」
クモスケが信吾に答える。
「お、おう、そんなもんなのか?凄いあっさりしてるけど、、、そんなもんなのか」
_____
そして、更に3日後
「そろそろ行きますか、目的の地へ」
「あ、そういえば言ってましたね。どこに行くんですか?」
「北極かな」
「いやいや北極かなって気楽に言うような場所じゃないですよ、そもそもどうやって、、、あぁ信吾さんなら何か方法がありそうですね」
「ふっふっふ、これだ!」
そういって空間収納から取り出したのはタタミ4畳より少し小さい位の絨毯だ。
「俺が作った空飛ぶ絨毯」
「いやぁ~信吾さんはやっぱり少し変ですよね?」
「なんで?なんで?やっぱりファンタジーと言えばこれでしょ?確かに船とか飛行機型のやつとか未来風のポット型のやつも考えたけどさ、これが一番好きだな」
「はぁ、でもこれ確かに浮いてますけどどうなってるんですか?よく作れましたね」
「説明しようじゃあないかっ」
ふんぞり返って信吾がフォルガイムに説明する。
*****
この技術は言ってしまえば科学と魔法の融合の結果だ。用は科学の部分はフレミングの法則を使っている。リニアモーターカー等がそれに当たるが、それだけでは浮きもしないし動きもしない。ではどうやって電気を流しつつ制御や細かい動きが出来るかと言うとそこからは魔法による付与効果と信吾の少しの電気の供給だけですむように改良を重ねた。なかなか難しくうまく出来なかったが付与効果の複数の組み込みで無理矢理、半ば諦め気味に作ったが、これが功を奏して上手くいったのだ。ゆえに電気を必要とする為、雷魔法の応用で電気を自由に流せる信吾しか操作は出来ない。ちなみに操作に関しては上昇、下降、進む、ブレーキの四つの操作は魔力を流す部分があり、そこに電気を流せば流すほど効果が増す。例えばスピードを出したい時には"進む"の所に電気を流せば流しただけ速くなる。そして左右の方向を決める操作レバーがある。レバーはゲームの操作レバーそのものだ。先に丸い玉が刺さってる棒のレバーが、四つの魔力を流す部分の真ん中にある。左から上昇、下降、レバー、進む、ブレーキの順だ。
信吾は意図せずファンタジー風の言い回しでアーティファクト級のとんでもない物を作り出していた。
*****
信吾から説明を受けたフォルガイムは半分も理解できていないが、信吾さんだからと割り切った。
クモスケはほぼ理解が出来ていなくて、せめて日本語を喋って欲しいと思っていた。
「じゃ、早速出発しますか」
信吾がエルフと妖怪達に挨拶をして出発する。
「出発進行ぅーーー」
______
日本上空を時速150キロ程度で飛行している空飛ぶ絨毯。その上に信吾、クモスケ、フォルガイムの三人。
「これ、空気抵抗はどうなってるんですか?」
「ない、そういう風に作った」
「魔力はもう流さないんですか?」
「もう大丈夫、このままこの速度でずっと進むから」
「ね、燃料は?」
「いらない、スビード上げたければ電気の魔法を流すだけ」
「あなたは、何者ですか?」
「私は人間だ。はっはっは」
「はぁぁぁぁー、分かりましたもう諦めます、もう驚かない」
しばらく雑談しながら日本上空を飛んでいる一向。
「なんか前にいるよ?」
二人の雑談を黙って聞いていたクモスケが指差して言った。
ヒュンっと通りすぎて後ろを見ると追ってくるが追い付かない様だ。
「今のって見た目悪魔っぽかったな」
「そうですね、見た感じゲームで見たガーゴイルみたいな感じがしましたよ」
「少しスピードを落としてやるか」
「いや、このまま行きましょうよ、絶対敵ですよ」
「敵かもしれないけど時速150キロ程度も出せない敵なんて敵じゃないだろ?もしかしたらなんか話でもしたいのかもしれないだろ」
スビードを時速20キロ程度まで落とした絨毯にすぐに追い付いたガーゴイルはいきなり攻撃してきた。
ガーゴイルの右手の爪攻撃を軽くいなすクモスケ、そしてみぞおち辺りに蹴りを入れた信吾。うずくまるガーゴイルに信吾は言った。
「待て待て、お前は何者だ?レヴィアタンの手下か?」
「違うぅぅ、レヴィアタン様ではない、ルシファー様の直属の命だ」
ガーゴイルはそう口走った。
信吾はベラベラと有用な情報を喋るガーゴイルにニコッと笑みを浮かべた。
するとガーゴイルの後ろから無数の虫達が飛んでくる。蜂やトンボ、カブトムシや蚊、そしてハエが一匹だけ。
ハエを見た信吾は眉間にシワを寄せて魔法の絨毯を地上に着陸させた。
「どうしたんですか?信吾さん」
「あのハエ相当強いぞ、もしかしたらベルゼブブか?」
降り立った信吾達。そこの場所は北海道の稚内空港。
北海道の最北端の近く、その先には日本海が広がっている。




