第36話 ケジメとお正月
フォルガイムに指示を出して、熊に向かって走り出した信吾。
途中からスピードを上げて一瞬で熊の懐に入る。その距離20センチ、熊に向かってガンを飛ばしながら信吾が言う
「久しぶりだな森の熊さん、お前も強くなってると思うけど、俺も強くなったのを試させてもらうぜ」
言い終わると同時に脇腹へボディブロー
熊が堪らず脇腹を押さえながら後退る
「ほらっ、来いよ、森の熊さん」
信吾がボクシングの構えを取り軽くステップを踏む
ガルルルルルルッと威嚇しながら突進してきた。
「ガンッ!」
と音がして熊が止まった。
「あれ?なんだ?どうした?」
信吾が熊を見て首を傾げると、クモスケが糸で熊を固定していた。
「信吾、大丈夫か?」
心配そうにクモスケが言った。
「お、おう、クモスケちゃん、ありがたいんだけど、ちょっと待って、大丈夫だから糸を解いてあげて、俺と、この熊は今大事な勝負してるからちょっと待ってて」
「わかった」
素直に糸を解いたクモスケと困惑している森の熊さん。
「おう、じゃ、気を取り直してやり直しますか」
そう言って信吾はまた最初からやり直した。
シュンっと音と共に懐に入り、20センチの距離で言う
「久しぶりだな森の熊さん、お前も」
グアアアアアアアアっと信吾の言葉を最後まで聞かずに腕を振り下ろしてきた。
「いきなり殴って来ることないやん」
いいながらヒョイっと避ける。避けられた熊はお構い無しにブンブンと熊手を振ってくる。その度に全て避けていたが、途中から受け止める事にした信吾だが、全くの無傷。そして信吾は少し距離を取って土の弾丸を打ち出した。
バコッと熊の肩に当たった。肩の骨が折れたのか、外れたのかはわからないが、ブラーンとなっている。
信吾は納得したのか、一つ頷いてまた距離をつめてローキックを放つ。
ゴスンッと音がして熊は膝をついた。
「フォルガイム!」
信吾が叫ぶとどこからかガサッと音がした
フォルガイムがジャンプして蹴りを放つ。
「ライ○ーキィーック!」
信吾が叫んだ
ドカッと熊の胸に当たり転がって倒れ込んだ。
パチパチパチパチと拍手の音
「カッコよすぎる!」
興奮している信吾を見て、呆れたような雰囲気で見るフォルガイム。
ゆっくり熊に近付いた信吾は熊を見ながら言う。
「こいつに前殺されかけたんだ、今となっては立場が逆転しちゃったけどな、ごめんな痛かったか?」
言いながら治癒魔法をかけてあげる。熊は困惑しながら少し怯えている。
「いや、ケジメだよ、なんか心のどっかで引っ掛かってたんだよね、熊を倒したい、熊より強くなりたいって、ずっと思ってた」
熊は動かない、信吾の話を聞いてるようだ。
「まぁ過去は過去の事として、今後君にはこの辺の森を守って貰おうかと思っているのだ。この森を害する者や理不尽に狩りをする奴らとかの警備に当たってほしいのだ。できるか?」
信吾は実際出来なくてもいいと思っている。このまま何も言わずに立ち去るのも微妙だったから軽いノリで言ってみただけだ。
返事も聞かずに立ち上がって踵を返して歩き出した。
クモスケが
「食べないの?」
と言っているがスルーして進む。
熊がビクッとしてるのが気配でわかった。
エルフ達のところに戻ろうと歩いているとフォルガイムが言う。
「信吾さんって魔法使えるんですよね、自分使えないんですよ、だから羨ましいって思って、首里城を壊したのって信吾さんですよね?確か」
「しゅっ、首里城?どうだったけかな?わすれちった。。まぁそうか魔法使えないのか、先生なんていなかっただろうし、いたとしてもなぁ、、レヴィアタンじゃなぁ、、、」
二人で会話してると後ろから土の弾丸が飛んできた
「いててててててて」
「カカカカカカカン」
信吾とフォルガイムに当たり、どや顔をしているクモスケだ。
「凄い!クモスケさんも魔法が使えるんですね」
フォルガイムが言うと信吾が
「あぁそうか、あの時クモスケは殻の鎧で身を守ったんだったな、あれ?それって注射以降の出来事か、なら鎌で攻撃、ってあれは魔法じゃないか、まぁ最近クモスケは魔法使ってなかったからな」
「しっかりあの時の事覚えてますよね、信吾さん、、首里城、、、、」
咄嗟に首を逆の方に向いて顔を逸らす。
「そう言えば今日って元旦なの知ってたか?」
話題を変えようと全く別の話を振った信吾。
「えっ?!マジっすか!あけおめッすね」
「あぁ、あけおめだな、で、正月っぽいことしたくないか?」
信吾が話題が変わったのをいいことに続けた
「正月っぽい事って何ですか?」
「そうだな、餅つきとか凧上げとか?初詣とか?」
「やりましょう!クモスケさんもやりましょう!お餅美味しいですよ!」
フォルガイムはノリノリで、美味しいと聞いたクモスケも興味深々と言った感じだ。
エルフ達のところに戻ってきてプレハブ小屋の前で信吾が言う。
「じゃ、早速」
空間収納から餅つきの本を出してフォルガイムに渡す
「えっ?何ですか?」
「餅つきの仕方が分からないんだ、後は頼んだ、俺は凧上げの準備をする」
信吾がそういって凧上げの凧を出して準備する。
フォルガイムは渋々餅つきの本を開いて勉強する。
しばらくしてフォルガイムが信吾に言う
「これ明日じゃないとダメですね、餅米を研がなきゃならないし、、、とりあえず餅つきセット出せます?これが必要なんですけど」
凧上げの準備をしていた信吾が本を見る
「わかった。臼と杵と蒸し器と餅米と、、、これ準備が何気に大変だな」
「そうなんですよ、でもやると決めたらやりますよ」
前向きで、楽しそうだ
「わかった、じゃあ任せるよ、とはいっても夜研げば大丈夫なんだろ?なら凧上げに行こうぜ」
「そうですね、行きましょう」
信吾は空間転移のゲートを開いた
「こっちだ、着いてきな」
信吾がそう言って先に入っていく。次にクモスケが中に入っていく。
フォルガイムは驚きながら、少しずつ入っていく
そこは東京の台場公園だ、そう、信吾とクモスケがかつてレインボーブリッジでの死闘を繰り広げた場所。
「ここはどこですか?いや、転移魔法ですか?とんでもないチートですね」
フォルガイムが信吾に聞く
「いや、そうでもないぞ、行ったこと無い場所には行けないからな、、まぁここからちょっと移動するからちょっと待ってな」
そういって空間収納から大きめのSUV車を出した。
「さ、乗って乗って」
信吾が先に運転席に乗って声をかける
クモスケは助手席に乗った。
「ここって、まさかお台場?あそこにあったレインボーブリッジが無くなってるのは気のせいですかね?」
フォルガイムが信吾に聞く。
「さ、さぁ、よくわかんないな?じゃ、しゅっぱーつ」
「ちょっと待ってください!まだ乗ってないです」
バタバタしながら車を走らせた信吾
「どこに向かってるんですか?」
フォルガイムが聞く
「空港」
と、信吾が言うと
「だったら羽田が近いじゃないですか、反対方向ですよ?」
「いや~最初そう思ったんだけど近すぎるんだよね、もうちょっと車の旅を楽しみたいじゃないか、ほら、見てみな、前を」
すると馬か牛と同等サイズのカラスが群れをなして飛んでくる
「やっぱりカラスは強いな、頭いいんだろうな、てかあんな巨体でどうやって飛んでるんだ?」
「言ってる場合じゃないですよ!どうするんですか?」
「そりゃ襲ってきたら戦うだろ?」
ニヤッと笑いながら信吾が言うと、クモスケも乗り気だ。
高速道路を走っている信吾は、車のスピードを上げると案の定カラスが襲ってきた。
ハンドルを切ってカラスを躱す。次々と躱してはカラス達は方向転換して追ってくる。
後ろを見るとカラスの群れが追ってくるのがわかる。
「追ってくるな、どうする?」
信吾が言うとフォルガイムが答える
「どうしましょうか、降りて戦うしか無さそうですね」
それに信吾が返す
「まぁ大丈夫だろう。クモスケ行けるか?」
そういって高速走行中の車の窓を開ける
「うん、大丈夫、ちょっと行ってくる」
クモスケが窓から出て、一旦車の上に乗る。
まず、クモスケが土魔法の弾丸でカラス達に牽制する。
弾丸は当たってはいるがダメージにはなっていない。
弾丸を飛ばされたカラス達は怒って一斉に襲ってくる、かなりのスピードでクチバシを突き出して攻撃してくる。クモスケの攻撃範囲に入ったカラス達
ズンッ!ズンッ!ズズズン!ズンッ!
と、クモスケの背中にある足がカラス達を蹂躙していく。
普通の人間なら視認できない速さで6本の足が縦横無尽に動いている。次から次へと襲ってくるカラス達だが、その強さに警戒をし出した。
一瞬の間だったが、クモスケはもう来ない事を悟り跳び上がった。
糸でカラスからカラスに飛び移りながら背中の足で攻撃していく。
右手で糸を持って、自信を上手くコントロールしているクモスケは、時には左手でカラスを殴る、右足、左足を使って蹴りとばす。
徐々に数を減らしていったカラス達は、勝てないとふんで逃げ出した。
クモスケが辺りを見ると、もうカラス達はいなかった。そこから走って車に追い付いて、ドンっと車の上から音がした。
「だだいまぁー」
そういって開いた窓から入ってくる。
「信吾、これ、しまって」
車の上からちょんっと引っ張って出てきたのは、でかいカラス一匹だ。
「りょうかーい」
すぐに空間収納にしまう信吾
「カッコよかったぞ、クモスケ」
そういってクモスケの頭を撫でてあげるとクモスケはニコっと笑った。
呆然とクモスケの戦闘を見ていたフォルガイムは
「なんなんです?今のは?殆ど時間かかって無いし、スピードといい、糸と魔法と、、、」
ブツブツ呟いているフォルガイムに信吾が言う
「クモスケ強いだろ?多分お前達いい勝負だぞ?俺の見立てではスピードはクモスケに勝てないけど、パワーならフォルガイムの方に分がある。だから防御を制した方が勝ちってとこかな?」
「な、なるほど、それでも今のを見てて勝てる気はしなかったんですけども?」
「、、そうなのか?じゃあそうかもな、、」
信吾が言った。




