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第31話 絶体絶命

  レヴィはアグリィに圧迫されて身動きが取れないでいる。いや、取らないのだ。『ハンデ』そういって黒く禍々しい陰を生み出し辺りに撒き散らした。


 するとアグリィの眷属達が甦り、アグリィや信吾に襲い掛かる。生命活動が停止しながら動いて、さらに攻撃性がある。そして本能のままに補食しようとする。

 アンデッドだ。

 それを見た信吾は憤る。


「なんてことしやがる!くっそがぁ!」

 信吾は長剣を鞘から抜いてレヴィに斬りかかる。

 ガキンッ

 と音がして弾き飛ばされる。

 レヴィが言う

「やはりその程度か、なんて事は無いな。やはりあいつの言ってた事は思い違いだったようだな、賭けは我の勝ちだ、ベヒモス。ククククッ」


 信吾らしくない行動だった。勝てないと解っているのに攻撃した。完全に悪の所業に対して頭に血が上っていた。

 クモスケが糸で信吾を助けて、壁に激突は免れた。

 一瞬で頭の冷えた信吾は考える。が何も浮かばない。

 絶体絶命だ。

 アンデッド達がアグリィを補食しようと鋭い顎で噛み付く。

「グアアアアアッ」

 我慢できずにアグリィはレヴィから手を離した。

「ククククッ、もう終わりか?つまらんな」


 信吾は襲い掛かかってくるアンデッド達を傷付かないように避ける。

 それだけでも手一杯だ。

「おい、お前さん!このままじゃジリ貧だ、お前さんの眷属達を切り伏せてもいいか?」

 避けながらアグリィに気を遣いながら言う。

「頼む。眠らせてやってくれ。頼む」


 そう言うアグリィだが決して眷属達に手を掛ける事はなく、無抵抗だ。次々と噛まれては、床に血が溜まっていく。


「おい!このままじゃ、お前さんが死んじまうぞ!」

 アグリィの一言を聞いたクモスケと信吾はアンデッド達を切り伏せながら叫んだ。


 レヴィがつまらなそうに口を開いた


「なんだそれは、つまらん展開だな、殺せよ!アグリィ殺せ!アグリィ補食しろ!」


 アグリィはビクッと身体を震わせて、条件反射のように眷属達に喰らいついた。

 無我夢中で喰らいついているアグリィは身体の自由が効かないのか、虫を掴んでは口に運ぶが、喉は虫達を受け付けない。

 えずきながら咀嚼しているアグリィは、人間のような目がなく涙を流せないが、泣いているように信吾は見えた。

 信吾が絶望を見たかのような顔をして

「お、おい、やめろ、やめてくれ、ちがう、だろ?なぁ?なぁ?」


 信吾は一粒の涙を流した。

「ああああああああああああぁぁぁぁ!」

 完全にキレた信吾は辺り一面に獄炎の炎を放った。

 ゴォォォォーという凄まじい音がした後、高温の炎が首里城全体に広がる。そして急激な温度上昇に伴い上昇気流が発生した。

 クモスケは防御に入って身を固めた。

 そしてさらに間髪いれずに爆発魔法も展開させた。

 ドッバーーーーーーーーン!

 轟音が鳴り響いた直後に衝撃波が発生して上昇気流や建物、その他形あるものが全て吹き飛んだ。

「はぁはぁはぁっ」

 信吾は魔力を一気に使いすぎて脱力感に見舞われる。


 首里城ごと木っ端微塵になった。


 アグリィの眷属のアンデッドは全て灰となった。

 そしてアグリィは倒れ、その横に無傷で佇むレヴィがいた。

「くそっ、無傷、なんて、はぁはぁ、あり得ねーだろ」


「貴様、人間にしてはかなりの魔力量だな、ざっとだが、龍種に近い魔力量ってとこか」

 レヴィが無表情でボソッと言った後に、なんの溜めも、なんの躊躇もなく自然に注射器をアグリィの首筋に刺して秘薬を注入する。

「やめろっ!」

 近付こうとするが足がもつれて手を付く。

「ククククッ、もう遅い、残念だったな、さてと、もう終わりにするぞ」


 秘薬を注入されたアグリィは、見る見るうちに醜かった継ぎ接ぎだらけの身体が消えていく。そして今までの身体をベースとして体内で再構築されている。

 蜂の顔面だった顔は鉄仮面の様になり目の部分が横に二つ穴が空き、口の部分は縦に数本穴が空いている。

 クワガタのハサミ部分が短くなってコブ位の大きさの角になった。

 身体の部分はシンプルでかっこいい鎧騎士の様になっているが、全身艶のない黒い色だ。

 どこかまだ昆虫の面影が少し残っている。


「ククククッ、やっと完成だ、これぞ究極のヒト型昆虫兵器だ」

 レヴィは恍惚の表情で言うと

 無言でアグリィ、いや、鎧騎士がレヴィに跪く。

「美しいぞ、もはやアグリィではないな、そうだな、、、」

 レヴィが考えていると慎吾が静かに口を開く


「おい、ちょっと待て、お前は俺を怒らせた、、必ずお前を、、殺すっ絶対に殺す!」

 信吾は下を向いて震えながら言った。


「そんなこと貴様が出来る訳が無いだろう。つまらんこと言ってないで、さっさと終わりにしよう」

 そう言ってレヴィは鎧騎士に命令を下した。


 鎧騎士は敵を見定めてゆっくりと近付いてくる。

「おい、お前さん!わかるか?慎吾だ!」


 望み薄だが声を掛けずにはいられなかった。

 だが無駄だった。完全に意識がない。というかアグリィの意思はもうどこにもない、死んだも同然だった。

 そしてもはやレヴィの操り人形と化していた。


 シュンッ!と音と共に信吾の顎が砕けた。

「があああぁぁぁっ」

 衝撃と共に脳が揺らされてふらつく。


 信吾には見えなかったが、ものすごいスビードで放たれたパンチが信吾の顎を粉砕したのだ。

 スピードも上がっているが、何よりも重すぎる上に破壊力抜群だ。

 進化前と明らかにパワー、スピードが段違いだ。

 顎を押さえてうずくまる信吾に

 ドゴンッ!

 今度は肩が砕けた。鎧ごとだ。

 鎧騎士は腕を真上に上げて肩に振り下ろしただけだ。

 通常であれば、攻撃はモーションが必要だ。例えば腰を落として踏ん張ったり、腰を軸にして放ったりと攻撃には全身をフルに使って放つ方がパワー効率がいいのだ。

 そんな鎧騎士の攻撃と言えないような攻撃に大ダメージが襲ってくる。


 意識が薄れていく信吾は視界がボヤけてピントが合わないのを必死に合わせようとする。

 砕けた反対側の肩を掴まれて持ち上げられると、今度は左足に激痛が走った。大腿骨が砕けた。

 今度は右足に蹴りが来ると思った瞬間

(あぁ死んだなこりゃ、もうダメだ、完全に俺のミスだ)

 そう思い目を閉じた。


 ガキンッと音がした。


 クモスケが間に入り信吾を守った。

 掴まれていた手を離され、なすすべなく倒れ込む信吾。

 クモスケは自信の能力の硬質化で鎧を作り防御するが、一撃で戦闘不能に陥った。

 信吾の横で必死に身体を動かそうともがいている。


「待て、ククククッ、そっちの蜘蛛は実験に使うから殺すなよ、しかしそっちの人間は殺せ、もう終わりにするぞ」


 そう言って命令を告げ終わる前にモゾモゾとクモスケに動きがあった。

 ガブッ!ガブッ!


 クモスケが信吾に噛み付いた。一口は砕けた肩を、そしてもう一口は首筋に噛み付いて血液と共に咀嚼する。


 そう、信吾とクモスケはアグリィと初めてあった時に、気になっていたことがあった。

 それはヒト型の昆虫だと言う事だ。どうやって?誰が?元はなんなのか?

 疑問点はいくつかあったが信吾もクモスケも特に言及はしなかった。が、お互いに心の中では思っていた。


 昆虫がベースなのか、人間がベースなのかわからないが、信吾は一つの仮説を立てていた。

 それは元々が昆虫で、酸素濃度が濃いのを利用して巨大化をした後に、強い虫を無理やり補食させ、強くする。その後バラバラにして繋げるといった、いいとこ取りをして強化をするのが一番手っ取り早い強化方法だ。そして人間を補食してヒト型を手に入れた、というのが普通だか、何しろ悪魔だ、、なんらかの特殊な方法で、例えば秘薬などもそうだが、人間をバラバラにして無理やり魔法で繋いだ、なんて事もなきにしもあらずだ。


 逆にクモスケは単純に考える、虫からだろうが、人間からだろうが、人型になれる可能性があることに興味を引かれた。この蜘蛛の身体も嫌いじゃないが、人型になったとしたら出来ることも増える。なにより信吾と喋ってみたかった、自分の口で声で、伝えたい事は山程ある。

 どうすれば人型になれるのか考える、が、やはり補食だろうかと、しかし信吾を傷付けたくない思いで、ある意味思考を放棄していた。


 そして今、クモスケは信吾と目があった。

 信吾はクモスケが考えていた事を大体察していた。

 浜辺でシャボン玉を上げる前からずっと信吾を凝視していたし、ずっとおとなしくしていたのも気になっていた。

 信吾は激痛が走る中、クモスケを見て微笑んだ。そして安心したように、満足したように意識を手放した。


 レヴィが急に反対側の空を見ながら、なにやら目を細めている。

 クモスケがゴクッと喉をならし、信吾の血肉を体内に取り込んだ。すると薄っすらと光り出して、クモスケの身体が脈動する。


 するとレヴィが口を開いた。

「なんだか、嫌な予感って程ではないが、何かよからぬ事が起きそうな気配だな、、アグリィ、いや、そこの鉄仮面、その蜘蛛を殺せ、補食しろ」


 すると鉄仮面のような顔が変形して口を開いた。そのまま脈動するクモスケを掴んで牙で食い千切ろうとするが、ガキンッと音がしてクモスケの身体には一切傷が付かない。代わりに

「びりびりびりぃー」

 と布が破れる音がして、クモスケに巻いてあったスカーフが鉄仮面の口の中に入った。

 信吾に貰ったクモスケにとっては一番大切なスカーフが鉄仮面に飲み込まれた。


 続け様にガキンッガキンッと食い千切ろうとするが傷一つ付かない。

 そこから急激にクモスケの身体が変化していった。



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