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第30話 交渉決裂

 アグリィが去ってからしばらく信吾は考えていた。

 アグリィの言葉の意味を、そして打開策は、、

 クモスケは信吾の周りをウロウロしている、砂浜に座っている信吾を見ながら。

 信吾はおもむろにタバコを出して火をつける。

 真っ黒のまま考え込む。それから一時間。

 ブラブラと当てもなくゆっくりと歩きながら。


 そしてまたおもむろに空間収納から何かを取り出した、シャボン玉だ。

 シャボン玉を飛ばす、屋根まで飛ばす、屋根まで飛んだら壊れて消えてしまった。じーっとシャボン玉を見ている黒信吾。

 昔から好きだった歌手の歌を思い出していた。

 急に信吾が笑いだした。


「ふふふ、はははは、あっはっはっはぁぁーーあぁー笑った。何をくよくよしてんだよ、俺は俺で俺のやりたいようにやりゃぁいいんだよ、何も悩むことなんかねぇ!あいつを助ける!見ちゃいらんねぇからな、レヴィってヤツも胸くそ悪いしな!行くぞクモスケ!こうなりゃ出たとこ勝負だ!、、いや、やっぱり穏便に済ます方向で、ダメだったら逃げる!」



 レヴィの事、他の悪魔の事、その上の存在。そしてアグリィの事。信吾は少ない情報の中で仮説を立てていた。

 それはまずレヴィはアグリィの事をあんな姿に変えた悪魔、といった比喩的表現ではなく、本物の悪魔だと、そして沖縄を中心に何かをやらかす、それはおそらくアグリィの身体を使って、そしてアグリィは死ぬ。

 あともう一つ、これは考えたくも無かったがレヴィとはレヴィアタンの事、別名リヴァイアサンだ。沖縄からヒントを得た。リヴァイアサンは海の化け物だ。


 この辺の悪魔を考えると自ずと上の存在が見えてくる。その仮説が正しければだが。

 生きて帰ったらエルフ達に聞いてみようと考える。おそらくは何かを知っている、そして全て繋がっていると。

 逃げ腰になったのは、リヴァイアサンの事を考えた時に確実に、100%勝てないと思い、逃げ腰になったのだ。だが悔いが残らないよう、後悔だけはしないように全力でアグリィを救出に向かうのだった。



 さすがに一度拠点に戻り、お風呂に入ってしっかりと墨を落とす。


 装備の確認をする。防具を身に付け、チタンで造った大剣、ではなく大剣を造った後に別で造った長剣を腰に装着する。


 クモスケはスカーフのみ。


 信吾は気配感知に集中して敵地に向かうのだった。


  ______________________________


「只今戻りました。レヴィ様」

 跪きながらアグリィが言った。


「ふむ、で、何か変化は?」

「いいえ、件の人間と蜘蛛ですが、遠目から見張っておりましたが特に変わった動きはありませんでした。」

「ほう、誰かと連絡を取り合っていたとかは無いのか?」

「い、いいえ、その様な事は、、、」

 レヴィとアグリィの問答はしばし沈黙する。

「ふむ、奴らとの接触はないのか、、、気付いても良さそうな頃合いだと思ったのだがな」

 意味深な事を口走るレヴィ

「それはそうと、完成したぞ役立たずのアグリィが生まれ変わる秘薬がな」

 そう言って懐から出したのは、注射器に入った液体だ。

「これはな、役立たずの貴様が役に立つようになる薬だ、変わりに貴様が貴様で無くなる。要は意思もなく、ただ私の命令だけを聞く、最強のヒト型昆虫兵器となる薬が、たった今出来上がったところでな、長い研究だったな、、ふふふ、ククククッ」


 レヴィは研究を楽しんでいた、実験体を何体も何体も使い、いたずらに切っては繋げ、切っては繋げと半ば遊びに近い感覚であった。そうして少しずつ研究が進んで秘薬を開発したのだ。


「もちろん邪魔な意志が無くなるだけではないぞ、貴様のその身体が完璧にパーフェクトに完成するのだ。私が造り上げたその継ぎ接ぎだらけの醜い身体がな!」


 レヴィはアグリィの首筋に注射器を当てる。

 覚悟を決めたアグリィは抵抗する気も起きなかった。

 レヴィが液体を注入しようとしたその時に、アグリィの眷属の虫達が一斉に飛びかかった。

 アグリィを守る為。


 カブトムシ、クワガタムシ、トンボや、バッタ、カマキリなどの昆虫達を皮切りに蜘蛛やトカゲ、ヘビなど次々とレヴィに襲い掛かる。


 全ての虫達はアグリィの強く優しいところに憧れを抱いていた。いつもいつもレヴィに邪魔臭くあしらわれ、時にはオモチャの様に遊んでは、実験の道具にされて、バラバラにされる仲間をたくさん見てきた。そしてその都度アグリィが自分を犠牲にしてまで虫達を守っていた。その度に何度も何度も殴られていたアグリィだが、虫達の元気な姿を見るだけでも心が癒された。一種の心の拠り所であった。


「ふん、虫けら共が」


 そう言って広範囲に細い土の針を展開して、数百といる虫達に、標本でも作るかのように上から突き刺し動けなくする。

 その針は周到に作られており針の先には毒が塗られている。


  __________________________


「まさかこの中とは思わなかったな」

 敵地に着いた信吾は感嘆な声を上げた。

 そこは火災からの復旧後の首里城だった。

 反応は中から感じ取れる、そこにはアグリィの反応もあった。

「なんか、ヤバそうな雰囲気だな、、クモスケ感じるか?」

 クモスケは軽く頷いた。

「たった今数百の虫達の気配が一気に消えたぞ?いったい何が、、、」

 するとアグリィの気配が殺意に満ちた。

「ヤバいぞ!クモスケ急ぐぞ!」

 いうやいなや走りだし、中に入った。

 中も外も赤色が主で柱には綺麗な模様が描かれている。

 廊下を渡り、襖の様なスライドドアを開けると、そこは大きな広間になっていた。


 そこには禍々しいオーラを放った悪魔そのものの容姿をした女が注射器を持って笑っていた。

 アグリィは跪き丸くなりながら震えている。

 が、恐怖で震えているわけではない、眷属達を無惨に殺され、怒りや憤り、自分の無力さに、殺意を漲らせていた。


「おいおいおいおい!ちょっとまったー!」

 声を聞いたアグリィはハッとして信吾の顔を見た。

 が、直ぐに目を逸らした。


「ふん、来おったか、愚か者めが。一応聞くがお主、何しに来た?」

 若干ニヤつきながらレヴィが信吾に言う。

「その様子だと俺が誰かわかってるのかな?」


「さぁな、だが、大体察しはつくぞ、お主、物質創造が使えるだろう、それが答え、と言っておこう」


 片眉を上げた信吾は言う

「なるほどね、わかってる感じか、レヴィアタン、またの名をリヴァイアサン」


「ふんっ、もう一度聞く、お主何しに来た」


「そうさな、交渉ってところか?そっちが何をしようとしてるかは知らないけど、こんな誰もいない世界に折角生きてる知的生命体がいるんだ、仲良く共存共栄出来ないかと、、広い世界を使ってね」


 信吾は本気で言っている訳ではない、あくまでも穏便に済ませたいと思っていた。そして、出来ればだが情報を引き出したいとも。

「ククククッ、本気か?ククククッ、まぁ我の眷属となるなら考えてやっても構わんがな、そこの役立たずのアグリィよりは使えそうだしな」

「いや、出来れば不可侵でお願いします」

 ドガッ!

 レヴィはアグリィを蹴り上げた。

「貴様ふざけてるのか?見え透いた嘘を並べ立てて何を企んでる」

 信吾は隙があればアグリィを連れて逃げ出したいと思っていた。簡単なことでは無かったが。

 一応策はあった。物質創造はバレているが、空間転移はバレてはいない。

 とにかく隙がないのだ。

「わかった、企んでるって言うか、今お前が蹴ったヤツを引き取りたい、その為ならお前に少し協力するよ、俺のできる範囲でなら」

 一か八か賭けに出た、これで少しでも隙をつくれれば、もしくは情報を引き出す種になればと

「やっぱり貴様らは通じておったか、、まぁいい、それより協力だと?ふんっ、くだらんなぁ、今そんな糞みたいな協力が欲しいと思うか?たった今出来上がったのだぞ、最強のヒト型昆虫兵器を生み出す秘薬がな」


 信吾は心の中でニヤりとほくそ笑んだ

(なるほどね、、情報をありがとう)

「なんだって?そんなことが?まさか、そいつを使ってか?まさか殺すのか!」

 白々しく疑問を畳み掛けた。


「ふんっ、ならば教えてやろうぞ、そいつの意思は無くなり、さらにパーフェクトなボディで甦るのだ、そして、我の眷属となり我の命令だけを聞くのだ、、、、、、なんてな、貴様の策に乗ってやったぞ情報だろ?まぁどっちにしても貴様は今ここで死ぬ、そして、そっちの蜘蛛、お前はいい実験材料になりそうだから生かしといてやるがな、ククククッ」


 信吾が口を開こうとしたその時、残った虫達が一矢報いるために死を覚悟して突撃した。

 瞬間、目にも止まらぬ早さで先程と同じ様に土の針を展開し標本のように突き刺した。虫達は全滅した。

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」

 アグリィの殺気が膨れ上がった。


 アグリィはレヴィに殺気を放ちながら瞬時に肉薄する。

 そのまま力を込めてレヴィに抱きつき身体ごと潰しにかかった。

 アグリィの昆虫パワーを数十倍に引出して、全力を込めて潰す。

「ククククッそれが本気か?」

 アグリィよりも一回り小さいレヴィの身体は圧迫されてはいるが、ビクともしない。

「こんなもの簡単に抜けられそうだか?」

 そういって少し力を入れるとアグリィのパワーが押し返される。

「だが、それではつまらんからな、少しのハンデってとこだな、そのまま力を入れていろよ、離すなよー」

 そういって魔力を展開させたレヴィはどす黒い陰を生み出し辺りに拡散させた。


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