第三話 向井信吾という男
「うーーん、、、」
ゴッガッガン!
一瞬で意識が覚醒し周りを見渡す、サウナだ。
で、今の音は座る場所から転げ落ちた音だ。冷静に辺りを見回しながら思い出す。
「この現象は夢でもなく現実って事だな、、、」
サウナを出て脱衣所を出る。すばやく階段を下りてフロントを抜けると外に出た。
まぶしい太陽が照らしているが大体朝の8時から9時の間かなーと思いながら、
また中に入りフロントの上にある時計に目をやると8時40分を指している。
秒針は動いているから止まってはいない。
とりあえず腹減ったから何か食べるかな。結局昨夜はバタバタしてて何も食べてないからな。
そう思い車に行きエンジンをかけた。
ブオオオオーンといつもより回転が速くビックリしたが
「おっ!今日も調子良さそうで何よりだ!」
そう車に声をかけ発進させると、回転は落ち着いた。通常ならエンジンの回転が速すぎて故障を疑うが、全く気にせずに、いつも通りの運転でコンビニに向かった。
信吾は朝起きて頭がスッキリしたと言うこともあって、昨夜の事を「考えても仕方ない、わからんもんはわからん」と割りきった。家族の事は気にはなっていたが、今は騒いでもしょうがないから出来ることをしようと前向きに考えた。
昔から性格はさっぱりとしていて前向きで現実的、かつ、割と頭の回転が速く、失敗したときも無駄に落ち込まず、病んだりはしない、精神的にも強かった。
そして何事も焦らず落ち着いて行動するのを心掛けていた。そのせいで周りからは、冷めてるねとか感情をどこかに置いてきた?とか言われる始末。感情はあるし喜怒哀楽もしっかりしている。サプライズの誕生会では本当に嬉しくて年甲斐もなくはしゃいでしまったり、アニメや映画、ドラマなんかでは声を出して泣いたり、お笑いの番組では腹を抱えて笑うときもある。そんな信吾の過去はというと高校卒業後まで遡る。
地元の工業高校卒業後第一志望の就職先に落ちてから、しばらく実家暮らしの無職だった。開き直って遊びほうけていたが、高校時代のアルバイトでのお金も尽きた。さすがに働かなくてはまずいと思い、友人に声をかけた。その時紹介されたのがキャバクラのボーイだった。その時の給料が日払いで、その日暮らしの生活をしていた。しばらく夜だけだったが、遊びや趣味に対して、お金がないから、といって妥協したくなく、昼にはガソリンスタンドでもバイトをした。
バイトに関しては転々として、スタンドの次は現場仕事、いわゆる設備屋で換気扇やダクト等の天井裏の建設関係の仕事。
しばらく続いたが、怪我を切っ掛けに辞めて、次に家電量販店の販売後の配達と、取り付ける仕事をやるが、また長続きがしなかった。その後も工場のライン仕事をしてみたりで、あっという間に年齢が24歳となっていた、もちろん仕事人間ではなく給料をもらっては飲みに行ったり友人と遊んだり彼女(今の嫁)と遊びにいったり趣味に使ったりと、そこそこの経験はしていた。
そんな24歳のある日、彼女(今の嫁)が妊娠したと言った。それからすぐに結婚して、なんだかんだやっているうちに出産と、バタバタしながらも生活は安定していった。もちろん夜の仕事は妊娠発覚と同時に辞めて大手のカー用品店で昼間の仕事1つで約10年続けた、最初の頃は1つの担当を任されていたが、だんだんと別の担当の仕事なんかを押し付けられて、最終的には7つの担当を掛け持っていた。手一杯となったが、なんとか食らいついて回していた。
が、無理がたたって体調を崩してしまい、その時に転職を決めた。しばらく入院して全快したらすぐに就活。
次に就職したのが大手コンビニの配送だった。今までの仕事を見返しても、割と器用にいろんな事をこなして頼られて任される存在だった、と自分では思っていたが、全く正反対だった事に気付いた。逆に悪く言えば、いいように使われている、利用されていると言った方が正しかった。
全ては自分のせいで、対価を求めず安請け合いや、仕事に無駄があるにも関わらず意見もいわずただイエスマンになっていたところがあった、さらに仕事も効率よくこなしていたのを上司がよく思わず、いわゆる嫉妬をし、出る杭をこれでもかってくらい打たれたときもあった。そんな過去の経験を活かし、今度は昇格して、自分でいい職場にするぞ、と気合いを入れて仕事をする。
そして入社して1年で主任になった。スピード出世ってやつだ。そこで、無駄を省き効率的に回す方法を提案した。が、上司が保守派と言うか現状を変える気が一切無く、そんな信吾を邪魔くさく思ったのか、無理難題を押し付けるようになる。要は嫌がらせをして自主退社に追い込もう作戦だ。
バカバカしくなりすぐに退職届けを書いた。その時同じ考えの後輩もついてきてくれて、一緒に退職した。そして後輩と一緒に、同じ会社を面接して同時に入社して今に至る。
今までの経験の一部に過ぎないが意外と波乱万丈な人生を歩んでいると思う。
趣味に関しても多趣味で、ハマるとある程度できるまで、もしくは納得するまでは諦めない性格で、知識なんかもわからなかったらとことん調べるとかで、変に偏った知識があるが、学校の勉強と比べて使えない知識じゃなく、社会に出て使えたり役に立ったりする知識をひたすら勉強した事もあった。
その知識や経験が今後この世界で大きく役に立ったりするが、まだまだ先の話。