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第29話 アグリィの決意

 アグリィとのファーストコンタクトで、最初から少しずつ情報を得ようと信吾は考えていた。

 ある意味誘導尋問に近いもので、相手がやり手なら難しいが、おおよその推測はできた。

 虐待されているか否かは、見れば一目瞭然だった。虐待されている子供など普通に話している時に不意に手を動かしたりすると身構えたり、ビクッと肩が震えたりするものだ。さらに大きな声や、大きな音にも敏感で、条件反射が出てしまう。


 そして終始寂しそうに、どこか諦めたような言い方が気になった。確実にこちらに興味を持っているがどこか達観したような、どこか我慢しているような仕草が垣間見えた。

「仲良くは出来ない」「離れろ」と言った時も何かを覚悟したような口振りだった。

 言うなれば死だ。


 信吾は若い時から人に頼られて色々な相談に乗ってきた。

 好きな人がいて、どうすれば付き合えるか。と言ったことが殆どだったが、中には家族、仕事、人間関係等も相談を受けたことがある。

 その中で自ら死を選んだ友人もいた。


 その死を選んだ友人は、最初から相談に乗って欲しいわけじゃなく、どこか諦めたような、達観したような、そして覚悟を決めたような口振りだった。

 その時の信吾はどこかいぶかしく思いながらも親身になって話を聞いていた。

 その経験からか、なんとなく相談に乗る人が似たような口振りだったら気を付けて見るようにしていた。


 相談事に関しては当たり障りがないように、聞き役に徹していた。中には話すだけでも心が休まる人もいたからだ。

 そして答えを求めてきた時には、自分を含め色んな人の経験から的確な例をいくつか自分の考察も含め答えていた。


 信吾の考え方は偏っているかもしれないが、自ら死を選ぶ人と人を殺めてしまう人は紙一重かもしれないと考えていた。

 そんな信吾だが自分自身も過去に、どこか達観したような、どこか諦めたような時期があった。


 もっと遡るが、信吾が学生の頃、よく人から裏切られた経験がある。

 恋人の裏切りはもちろんあったが、さほど気にはしていなかった。何よりも友人からの裏切りが心を引き裂いた。今となっては笑い話にすらならないような細かい事だったが、確実に信吾の性格を変えた出来事でもあった。

 当時信吾には親友と呼んでいい程仲良く、いつも一緒にいた友人がいた。その一人の友人に皆が集まって楽しく談笑したり、学生ならではの悪いことをした時もあった。いわゆる悪友と言うやつだ。とにかく影響力があり発言力もある。決して一番強くてガキ大将とか

 ではなく、ただただ友人を大事にして、時には自分の趣味も優先する。そして意志が強かった。芯が一本通っているかっこいい生き方をしていた。


 その友人に信吾はある意味憧れていたところがあった。男が男に惚れるってやつだ。変な意味ではなく。

 例えば有名人の生き方に惚れて、その人みたいになりたい、とか、その人に一生ついていく、と言ったほうが解りやすいだろうか。

 とにもかくにも、その友人のようになりたくて、その友人の真似をしていた時期があった。

 ただ現実はそう甘くはないのだ。

 信吾は友人に優しくして、与えられるものは与えていった。要はギブアンドテイクのギブだけを重点的に。そして影響力、発言力を得て目立っていった。


 ただ盲点があった事は信吾も気付かなかった。


 その友人と信吾では大きく違う事があった。

 憧れと嫉妬の違いだ。この二つは紙一重である。

 友人は憧れる。信吾は嫉妬される。

 その違いは明白だった。

 憧れの人のようになりたくて、ただのイエスマンと成り果てていた、芯もなく、とにかくギブをしていればついてくる、目立てる。ただの不純な動機ってやつだ。そしてその後は自ずと知れたこと。

 最初の頃は良かったが、目立つようになると嫉妬され、嫌がらせや裏切り行為など頻繁に起きた。


 そんなことがあり、学生の頃に達観したような、どこか諦めたような、そして覚悟したような時期があった。


 しかしながら影響を与えてくれるものはいくらでも転がっていた。

 裏切るのは人間なら、救うのも人間だった。友人や恩師や、はたまた歌手であったり、有名著者の本なんかも信吾を変えてくれた。

 そして考え方が変わったのはその直ぐ後だった。

 持ち前の割り切り精神と言えばいいだろうか、前向きな性格もあり


「関係ないね、楽しんだもん勝ちだ、俺は俺のやりたいように自由に生きる」


 それから信吾は人からどう思われようが、何をされようが気にしないことに決めたのだ。

 そしてそれが功を奏したのか一本芯が通った信吾はうなぎ上りに人から頼られていくのだった。


 それから高校卒業してからも友人が増えて、相談に乗る回数も増えて、どんどんコミュニケーション能力が上がっていった。わからないことがあったら調べる様になり、雑学や心理学、人体や歴史、それらから派生して考古学や、天文学、法律なんかも勉強したことがあった。派生した分野はちょっとした知識しか頭に入らなかったが、、、。

 一時期弁護士になろうと思い、六法全書を開いて1ページ目で挫折したことがあった。

 派生した分野なんてそんなもんだ。


 そして得意なことがもう一つあった。それは英語だ。洋楽にはまっていた時期があり、歌詞カードを見ながら翻訳していたことが切っ掛けで、文法含めた会話は出来ないが、単語を繋げて会話する位ならなんとなくできた。身振り手振りも必要だが、伝える、伝えたい、といった意志も必要。みたいな根性論もいってた時もあったとかなかったとか。


 話が大きく逸れたが、アグリィだ。

 英語でアグリィは意味が二つある。

 もちろんスペルや発音は違うが、日本人にとって、RやLの発音はとても難しく別の意味でとらえられてしまうので注意が必要だ。


 日本でよく会議などで使うアグリィは『賛成、同意』と言った意味で使われる。

 もう一つの意味は

『醜いや、見苦しい、醜悪な、不快な』

 などといったマイナスの意味で使われる。

 目の前にいるアグリィとは明らかにその意味で使われている。


 信吾はアグリィと聞いた時からピンッときていた

 見た目がそのまんまの意味で使われているからだ。

 おそらく本人はわかっておらず、呼んでいるレヴィが使っているだけだと、だから信吾はあえてそう呼ばずお前さんと言っていたのだ。


「お前さん、死を覚悟したような雰囲気出てるけど、、、心当たりあるんじゃないのか?」

 アグリィはうつむいて黙っている。

「そんな感じの人達をいっぱい見てきたから、なんとなーくわかるんだよねぇ、、よければ相談乗るぜ?折角こうやって知り合ったんだしさ、お前さん悪意も敵意も無いし、まぁ話すだけでも心が少しは楽になるからさ、それに困ってたら助けてやりたいとも思うし」


 最後の言葉を聞いてアグリィは信吾の顔を見た。

 しばらく目を離さず見つめ合い、アグリィは意を決したように口を開いた。

「、、、ここから去れ、、信吾、といったな、、、」

 信吾は頷いて次の言葉を待つ


「信吾が何をしようと、なにも変わらない、レヴィ様には絶対に勝てない、、、一つ言っておくが、レヴィ様の他にも悪魔はいる。そしてその上にも」

 最後の方は小声だったが。

 言い終わって踵を返し去っていく。

 ボソッと「ありがとう、さらばだ」

 と呟いていたのを信吾は聞き逃さなかった。


 なかなかカッコいい事を言っているが、信吾はいまだにイカスミで真っ黒だ。



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