第27話 クモスケの散歩
六ツ巴の戦闘が終わり、拠点に戻った信吾達はお風呂に入った後、すぐにベッドに入り意識を手放した。疲れていたのか、色々あった1日を振り返りもせず寝てしまった。クモスケは部屋の隅で巣を作って寝ている。
そして尾行していた謎の生体も那覇市の拠点に戻っていた。
「報告します、人間が一匹と蜘蛛が一匹いましたが、特に問題は無さそうです。レヴィ様がその気になればいつでも消滅出来るでしょう」
謎の生命体は片膝を地面に付き頭を下げて報告した。
「そうか、問題ないか、まぁいい、、、、、」
レヴィと言われた人形の生命体、その容姿は目が赤く肌も赤黒い、頭には角が生えていて、背中にはコウモリのような羽、そして細い尻尾は先が尖っている。
完全に見た目は悪魔そのものと言った容姿をしている。
「引き続き何か怪しい動きはないか見張っておけ、、、いや、まぁその前に少し遊ぼうではないか、役立たずのアグリィ」
言葉の最後は何故か耳元で聞こえた。
アグリィと呼ばれた生命体は瞬間移動してきたレヴィに驚き、その場で土下座のような格好になり身体を震わせながら小さくなる。
身体が大きいせいで丸まっても存在感は消えない。
アグリィの身長は2メートルを越えている。そして継ぎ接ぎの様な身体、全身真っ黒でツヤがなく、言うなればカブトムシの甲殻だ、しかし人間と同じ人型で手や足がある。そして頭にはクワガタのハサミの様な角が生えている。背中にはバッタやコオロギの様な羽が付いていて、顔はスズメバチそのものだ、複眼と単眼があり大きな顎、短めの触角。
腕にはカマキリの鎌にあるトゲトゲがあり、肩や膝にはカニの太いトゲがある。
昆虫達のいいとこ取りをして、改造された身体は、攻撃、防御ともにバランスよく作られて驚異的な強さをもつ。
それを造り出したのはレヴィと呼ばれた悪魔だ。
レヴィはアグリィを蹴り上げると持ち上がった首を片手で掴む。
目の前でレヴィは言う
「もう少しで成功する。だから変な気を起こすなよ」
するとアグリィの眷属の昆虫達が一斉にザワついた。
「ふんっ、お前の眷属達が遊びたいらしいぞ、、、どれか選んで5体補食しろ」
何ともないようにサラッと言い放ったレヴィはアグリィを下ろし、元々いた場所にゆっくり戻っていった。
数秒沈黙が訪れて
「さっさとしろ、終わったらすぐに見張りに行け」
手のひらをヒラヒラさせながら玉座に座って目を閉じる。
朝が訪れて目を覚ました信吾は、気配感知を広げる。
するとやはり近くに強い反応がある。が敵意はない。そう、アグリィだ。まだ信吾は様子を見ている状態だ。
身支度を済ませ軽く朝御飯を食べる。
クモスケはサンドイッチとチーズ、そして果汁100%のジュースを飲む。
そして気になっていたクモスケの脱皮後の変化を聞く
「亀とトカゲを補食してどんな能力を獲得したんだ?トカゲなら擬態ってところだろうけど、どうだ?」
信吾がクモスケに聞くと、クモスケは急に消えた。
いや、消えたわけではない、そこにいるのだ、擬態をして。正解とばかりにクモスケは姿を見せて、前足でビシッと信吾を差す。
「なるほどな、確かに何にも見えないわ、見事に周りと同化してるって感じだな、凄いな」
少し嬉しそうに答える。クモスケも嬉しそうだ。
もちろん気配を察知すればそこにいるのはわかるが。
続いて亀だが、これといって能力という能力はない、ただ単純に防御力が飛躍的に向上しただけだ。
クモスケは身振り手振りでなんとなく伝えた。
「確かにな、亀なんて他に何も思い浮かばないな」
そんな会話を楽しみつつ食後の缶コーヒーを啜る。
コーヒーはブラックで、魔法で温めた為に熱々だ。
まったりとしたところで
「よしっ、やるか!」
いつもならすぐに外に出てトレーニングを開始するが
「クモスケ、少しやりたいことがあるから好きにしてていいぞ、あと、わかってると思うけど、いるからな」
信吾は近付くな、気を付けろ、何かあったらすぐに戻ってこい、などと女子中学生の娘に言う父親のような事を言って部屋に入った。
クモスケは前足を上げて答える。
外に出たクモスケは強敵に近付かないようにサーモグラフィの索敵能力を使い遠ざかる。
トコトコと進んで近くの砂浜に着いた。おもむろにいつもの屈伸運動のように身体を解す。そして自主訓練開始。
時間を忘れたかのように訓練に没頭していると、すでに太陽が真上に来ていてもうお昼の時間だ。
訓練を止めて少し散歩することにしたクモスケは、信吾の言い付けを守り、強敵に近付かないように遠ざかるようにトコトコ進んでいた。
木の実を見つけては刈り取って食べる。
小さな虫を探しては糸で巻き付けて食べる。
歩きながら信吾の真似をしてパルクールのようにクルッと前後左右に跳び回る。
楽しそうに飛び回りながら遊んでいると何かにぶつかった。
トカゲだ。擬態していたため視認できなかった。
すると擬態を解いて姿を現す。昨日のトカゲより一回り小さい。
クモスケは鎌を一振り、スパッと一瞬で首が飛んだ。
血が吹き出し、辺りを赤く染めた、返り血を浴びたクモスケは何も気にせずにかぶり付いた。
咀嚼していると、血の匂いに引き寄せられたのか、大きな影がクモスケを覆う。チラッと8つある目を上に向ける。
カマキリだ。信吾と初めて出会った時にエンカウントしたカマキリに似ている、大きさも同じ位だ。
クモスケはサーモグラフィの察知能力で気付いていたが、強敵ではないので、放っておいて食べ続ける。
カマキリは威嚇するがクモスケは全く動じない。
怒ったカマキリは思いっきり鎌を振りクモスケに攻撃する。ガキンッと音がしたがクモスケは無傷、無視して食べ続ける。
ガキンッガキンッガキンと何度も鎌で攻撃するが、まるで通用しない。
カマキリは鎌の攻撃を諦めて、今度はクモスケに直接噛みついた、だがやはりガキンッと音を立てて無傷だ、全く通用しない。
もう諦めて一緒にトカゲに食い付こうとトカゲに近付いたその時、ピタッと動きが止まる、動けないのだ。
クモスケは糸を出してカマキリを拘束して動けないようにしたのだ。
そのままクモスケはトカゲを完食して、初めてカマキリとまともに対峙する。
動けないカマキリの周囲をぐるーっと一周して観察する。何かに納得したように頷くと、ピョンと跳ねた。
鎌も何も出していない前足で首を簡単に刈り取った。
そのままかぶり付いて補食する。
クモスケは一周しながら思い出していた、信吾と初めて出会った時の事を、そしてその時はカマキリの力に負けていた、信吾がいなければ恐らくカマキリの糧となっていただろうと。
そして今の自分だが、あの時と比べて能力が増えた事は除外して、多少は強くなっている事を認識する。
そして咀嚼しながら考えた、今まで信吾と一緒に行動して、いろんな場所に行き、いろんな敵を倒して、いろんな物を食べて、そして楽しく遊んだ事を。
信吾に感謝、今度は自分が信吾を守ると密かに思うのだった。
カマキリを完食したクモスケはまたトコトコと歩き出した。
歩いていると大きなホテルがありそこの敷地にはこれまた大きなプールがあった。プールには水が入っている。返り血で汚れた身体を洗い流そうと、クモスケはプールにダイブする、が、すぐに浮いてくる。
しばらくプカーと浮きながらユラユラと風に吹かれていた。
「楽しそうだな、クモスケ」
信吾がプールサイドに立ち笑顔でクモスケに言った。




