第20話 東京へ
コオロギとバッタの戦いが終わり、しばらく休憩しようと腰をおろしながらクモスケを呼ぶ
「ほら、おいしい餌だぞ」
いうやいなやクモスケは服の中から飛び出してきて美味しそうに食べ始める。
クモスケの食事風景を見ながら信吾も食事にしようと空間収納からお米を出して炊き始める。
電気は無いので飯盒炊飯である。
この際だから大量に炊いといて収納に入れておこうと思った。
まず3ヵ所で焚き火をたいて、内1ヵ所で6つの飯盒を炊いた。
火や水が魔法で出せて料理に使えることが非常に便利で、風や土魔法も準備の時に重宝する。
やっぱり魔法は便利だな、などと思いながら空間収納から某牛丼屋の冷凍パックを取り出して暖め始める。
飯盒が炊け終わると同時に空間収納に入れていく。最後に残った飯盒を開けて牛丼を入れていく。
「いっただっきまーす!」
信吾は牛丼を飯盒ならではのお焦げと一緒に味わいながら食べていると、クモスケはとっくに食べ終わって脱皮も終わっている。
今は体の調子を確かめている最中。
元々クモスケはジャンプ力がありバッタやコオロギのジャンプ力を身に付けた所であまり変わらないかな?と思っていたが内面の部分で大きく向上していた。
言うなればパワーとスピード、攻撃力と防御力が大幅に上がっていた。
ちなみに道中の小さな弱い虫達はいくら食べても変化はなかった。
なぜなら戦って補食して大きく成長する。それから強くなってさらに補食する、大きくなって強くなるを繰り返してやっと補食されて影響が出るのだ。その過程に至っていないといくら補食しようと意味がないのだ。
「クモスケ、お前かなり強くなったな!ちょっと模擬戦でもやってみるか?そうすれば今後の動き方とかの考察が出来るし、お互いに強くなれるぞ」
クモスケは屈伸的な事をして身体を暖めると、ゆっくりと頷いた。牛丼を急いで掻き込んで食べ終わる。
「よし、じゃ一旦距離をとって、このコインを上に弾くから地面に落ちたら開始な」
そういってコインを上に弾いた。
チャリーンと音と同時にクモスケが飛び掛かる。
右へ左へと鎌状になった前足をフェイントも入れて振るう、ヒュンヒュンヒュヒュンヒュンヒュヒュン
信吾は危なげなく躱していると、クモスケは糸を顔にめがけて打ち出した、
一瞬目の前に現れて危うく目潰しされるところだったがなんとか上体を後ろに反って回避、その時に少し距離を取ろうと後ろにバク転で飛び退こうとした。
だが、何故かバランスを崩し転倒。
慌てて足元を見るといつの間にか糸が足に絡み付いていた。
信吾はヤバいと思い咄嗟に収納からナイフを出して糸を切ろうとしたがクモスケの追撃が迫る。
風魔法で反対側へ飛ばすべく行使する、一瞬の判断でなんとか糸を断ち切って立ち上がろうとしたが、クモスケは風魔法の反撃とばかりに小さな土の弾丸を無数に飛ばしてきた。
「いててててててててててて」
土の弾丸がバシバシと信吾に当たる。
クモスケは地面に足を付きググッと間接を曲げて一気に飛び出した。
地面が抉れて周りに土煙が舞う。
「はい、ストップー」
信吾がそういってクモスケの攻撃を受け流しつつ、力を分散させるようにくるくるくるくる回りながら胸元に優しく受け止める。
「凄いぞクモスケ、一瞬危なかったけど何とか堪えたよ」
手の中にいるソフトボールサイズのクモスケを見ながら、嬉しそうに信吾は言った。
クモスケもまんざらではなく、ピョンピョン跳ねながら喜んだ。
実はこの攻防はたったの10秒程の出来事だった。
信吾とクモスケの模擬戦も終わり、反省会が始まった。
「凄かったぞクモスケェ、足に糸が絡まってるのは気付かなかったよ、ただその後追撃しようと迫ってきた時にちょーっと隙があったよ?風魔法で追いやったけど、、、えっ?
俺だから追撃したって?
あぁそうか、普通の敵だったら足を取られた時点で詰んでるか、なるほど、となると俺の方が反省点はあったな、足を取られるなんてダメダメだな」
クモスケも興奮しながら身振り手振りで意思疎通を図る。
「俺もクモスケもだけどさっきは身体強化魔法をかけてなかったからな、かければもっと違う戦い方が出来るかもな、、ん?
身体強化魔法なんて使えないって?
あぁそうか俺のオリジナルの魔法なのかな?でも他に使える人もいそうだけどな、、まぁあんまりオススメ出来ない魔法だけどね、使いすぎると身体への反動が半端ないから、使うとしたらいざって時に使うのが一番いいかな」
そう、この身体強化の件に関しては少し話をさかのぼる。樹海から八ヶ岳まではそう遠くはない、距離で言うなら100kmもなく、70km前後だ。近いから大丈夫だとたかをくくっていた信吾は、最初から身体強化を使い走っていた。山の麓付近で一旦休もうと身体強化を切った途端に脱力感に襲われた。身体がまともに動かずに節々に激痛が走る。
自分にかけていた重力魔法も切ってそのまま近くの自然温泉に入りゆっくりと休みを取った。信吾は温泉に浸かりながら隣でお湯に浮いていたクモスケに話し掛ける。
「調子に乗りすぎたな、反省、、」
そして今に至る。
「さて、八ヶ岳も堪能したし、移動しますか」
信吾は当面の目標を粗方決めていた。
最終目標は日本一周だが、まずは東京に行き、そこをスタート地点とし、太平洋側から西へ西へ暖かい所を目指しつつ冬を越し、そのあと日本海側から北へ北へ涼しい場所を目指す方針でいた。
急ぐ旅でもないしゆっくり行くことに決め、空間転移は極力使わないように決めた。
しばらく東京に向かって走りながら道なき道をひたすら走っている。
信吾は言う。
「これは、ちゃんとした道を走った方がよかったかも」
そこは八ヶ岳と東京を直線で結んだところにある秩父の山々、道はもちろん無い。
急な斜面や崖などがあり、とても人間が通れるような場所ではなかった。
「近道なんてするもんじゃないな、逆に時間が掛かってる気がするよ」
クモスケは信吾とは相対的に楽しそうである。周りにある木々に糸を飛ばし、某海外ヒーローのように空中遊泳をしている。それを見た信吾は地面を走るのを止めて、忍者のように木から木へ跳びながら移動することに決めた。
しばらく続けているとやっと森を抜けて平坦な場所に出た。
位置的には入間の手前位かと推測した。信吾は入間と言えばアウトレットとか、大型の海外向けのマーケットがあったのを思い出した。
もちろん出向いて収納。ぬかりはないようだ。
そしてやっと東京にたどり着いた時にはもう夕暮れ時だった。
信吾は暗くなる前に寝床を探そうと思い、辺りを見渡す。視界に写ったのはスカイツリーだ。信吾はニヤリと笑みを溢した。
スカイツリーの下に行くと信吾は天辺を指しながら
「よし行くか、クモスケ着いてこれるか?」
クモスケは余裕とばかりに前足を上げる。
するとロッククライミングのように上り初めた。
クモスケは糸を使って余裕で着いてくる。
真ん中付近の出っ張っている付近で動きを切り替えた。
脚力と腕力でスピードを上げアクロバティックな動きで天辺に登った。一番上の皿の部分だ。
その端っこに立ち地上全体を見渡す。
東京の景色が素晴らしく、
思わずスマホを取り出して写真を撮りまくる。
高所にいるからか、ものすごい風が吹いているがお構い無しに撮り続けた。
夕日が地平線に沈んで行くのがなんとも神秘的すぎてこれも写真を撮りまくった。
気が付くと辺りは真っ暗になっていて、慌てて収納からLEDライトを取り出した。そして風よけとして土魔法で壁を作った。
「今日の晩御飯はちょっと豪華にしようか、そんな気分なんだ」
なぜか嬉しそうに信吾はクモスケに話し掛けた。
空間収納から肉や野菜、クモスケの好物のチーズ数種類。
バーベキューセットを出して肉と野菜を焼いて、タレを付けて食べる。ひたすら焼いてクモスケと一緒に食べる。
数種類のチーズも嬉しそうにクモスケは食べていた。
しばらく食事を楽しんでから、そろそろ寝ようとプレハブを出して中にあるベッドに入った。
「こんな場所で食べたり寝たりするのって俺たちだけだよな?すごい貴重な体験をした感じがするよ」
クモスケはプレハブ小屋の隅っこで巣をつくって寝に入っている。
信吾は先程撮った写真を見ながら寝落ちするように眠りについた。




