第100話 只今修行中
信吾と別れてからの雄也は、まず筋力の底上げをするためにとにかく筋トレを実施する。
腕立て、腹筋、スクワット、近くの木を利用しての懸垂、やっていると効率があまり良くないと思い、土魔法で鉄棒ならぬ土棒を作り、さらにあん間も作って体操選手のように筋肉を強化していく。さながらオリンピック選手のように自由自在に体を動かしてトレーニングする。
そのまま数日が経ち、かなり筋力もアップしている。
もちろん筋トレだけをしていたわけではない。
フォルガイムの姿になり、信吾から貰った大剣と、大槌を、敵をイメージしながら振り、体術も合わせて練習する。
これでもまだ物足りなくなり、土魔法で体の周りに土を纏わせて負荷をかけだす。
その頃にはもうかなりの筋肉で、贅肉とは誰も言えなくなっていてムキムキである。
恐ろしいくらいの底上げであった。
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一方イズナはというと、正直言ってあまりすることがなかった。
実際は信吾達のグループで鍛えたかったというのもあり、現状は足踏み状態であった。
それでも志保のサポートにはいったり、雄也と合同でトレーニングしたりと少しずつではあるが、実力は上がっている。
妖術に関してはここにいる妖怪達よりもイズナがかなり上を行っているので、たまに海女と山女の作った土のゴーレムと戦うぐらいである。
そう、信吾から言われた海女と山女は二人で土のゴーレムを作るのに成功していた。
操作は海女だが、サポートとして山女が嫌がらせのようにチマチマと攻撃や、土や砂で上手いこと牽制しながらの模擬戦はイズナの戦法を上達させた。
更に妖怪達との交流もイズナの心を癒やしてくれた。懐かしい話しや、離れ離れになった後の事を話し合いながら休息を取り、またトレーニングとモチベーションが下がることはなかった。
***
そして信吾、クモスケ、トワの三人は転移後すぐにトレーニングを開始する。
今まで悠長に観光等していたのが嘘のように真面目に取り組む三人である。
まず転移してからは環境に慣れる事から始める。
体が重い、空気が薄い、暗い、熱い、ジメジメする、逆に乾燥している砂、初めて来たクモスケはこの環境に驚いていた。
「わかるぞクモスケ、びっくりするだろ?これな、この砂って少し走るだけでも体力持ってかれるんだ、いいだろっ?」
信吾が言うとすかさずトワが言う。
「やっぱり信吾ちゃんはドMだし、ド変態だな」
「いや、ドMはわかるけど、ド変態はないんじゃないか?」
そんな話をしているとクモスケが軽く走り出す。
すぐに息を切らせて戻ってくる。
「ここは面白いところだな、ここって地球なの?」
クモスケが疑問を口にする。
「いや、地球ではないよ、俺的には精神と時の星って思ってる」
「ふーん、、魔法は使えるかな?」
そういって信吾の言葉を半分スルーして、土魔法を行使するクモスケ。
普通に使える。
他にもクモスケ特有のスキルを使ってみるが、問題なく使える事がわかった。
早速三人で走り込みを行い、とにかくこの環境に慣れることを優先した。それには数日がかかってしまい、この環境の酷さに辟易していた。
大分時間が掛かってしまったが、それは仕方がない。
次からは本格的にトレーニングの開始となる。
魔王を倒し地球を守る事が第一の目的。目指す目標はルシファーよりも強くなること。
簡単なことではない。
「信吾ちゃん、藁って持ってる?後、紙もあったら頂戴」
トワに言われた信吾は空間収納から大量の藁を出す。更に大量のA4の紙の束を出す。
「こんなん出ました」
「うん、上出来上出来、、ってちょっと多くない?」
トワが思わずツッコミを入れる。
その量たるや大型トラック一台分といったところ。
「よし、じゃあいくよー」
トワが藁をひと握りガサッと掴む。更に妖術で紙を適当な大きさに切り、なにやらブツブツ呪文を唱えると、紙に浮かぶ文字。それが藁に吸い込まれていく。
それを数十回、数百回と繰り返す。
「こんなもんかな、あと信吾ちゃん、武器使っちゃダメね、一応式神だけど、弱く設定したから信吾ちゃんでも倒すことはできるけど油断は禁物よ。魔法は使ってもいいけど一気に殲滅するような大規模魔法は止めといたほうがっ、、、て分かってるか、信吾ちゃんなら」
トワが信吾に注意を促す。
「分かってる、長期戦になりそうだからなるべく力を温存しておいた方がいいってことだろ?」
「そういう事、じゃ、信吾ちゃん頑張って」
トワが手を振りながらその場を離れる。
「よしっ!いっちょやったるか!」
気合い充分の信吾は式神に突っ込んでいく。
ワラワラと式神が信吾に向かって殺到する。
信吾は拳と蹴りを巧みに使い、時に魔法を行使する。
戦っている信吾を横目にトワはクモスケに話しかける。
「クーちゃんは、今まで見た感じだとアタイと同等か、ちょーっとだけアタイのほうが上かな?って感じなんだけど、正直その差って経験の差って思うんだ。アタイは長く生きてるから当然といえば当然なんだけど、、まぁ、論より証拠かな、模擬戦するから準備して」
「わかった」
素直にトワの言う事を聞くクモスケ。
最初から全力を出すつもりで相対する。
クモスケは身体強化、トワは五感を強化する。お互い武器を装備してはいない。
クモスケも無手で、腕を鎌に変化させたりはしていない。
「いくよっ!」
トワの合図と共にぶつかり合う二人。
白熱するいい戦いだが、徐々にクモスケが押される。
スピード特化のクモスケだが、トワの前では通用しなかった。
トワの搦め手もそうだが多彩な術を巧みに使いクモスケを追い詰める。
スピードが決め手のクモスケに対して縮地が使えるトワは一瞬でもクモスケを上回るスピードを誇る。更に五感の強化で動体視力も上がっていて、しっかりとクモスケを視認できている。クモスケもスキルの瞬足を使うが、トワの下位互換でしか無く追いつけるものではなかった。
それが数日、数ヶ月と繰り返される。
毎日信吾とクモスケはボロボロになるまで戦い、治癒して休んでまた戦っての繰り返しである。
ある程度強くなったと実感している信吾にトワは式神ではなく今度は霊獣を召喚する。
青龍、朱雀、白虎、玄武。
召喚術で現れた霊獣達は今までとは一線を画すものであった。
式神と違い数は少ないが強さが桁違いである。
「今度は武器を使ってもいいけど、油断するとほんとうにヤバいことになるから、最初から飛ばしていったほうがいいよ」
トワが忠告する。
「お、おう、分かった」
と、信吾は言うが、背中には冷や汗流れる。
そんな信吾と霊獣達が戦闘開始した。
暫くは見守るトワとクモスケ。
まずは霊獣達に突っ込んでいく信吾、だが直前で急ブレーキ、すぐさま踵を返し距離を取る。ブレーキをかけた時に霊獣の一体の白虎を風魔法で吹き飛ばす。
他の3匹は信吾を追いかける。
クルッと反転し、猛スピードのバックステップを続ける信吾。
その際に土魔法で落とし穴を作り玄武を落とす。
残り二体が追いかけてくる。
更にバックステップを続けつつ、信吾は属性魔法で牽制をしつつ距離を取る。火、風、土、水と使い分けながら距離を取る。
朱雀が牽制に翻弄されて離されていく。
残った青龍に信吾はバックステップを止めて青龍に向かう。カウンターを狙いヒヒイロカネのバットで振りかぶり思いっきりスイングする。
信吾の考えは、四体同時に相手は出来ないと思い、距離を取りつつ一体ずつ相手にしようと上手く距離を取っていたが、、
信吾のフルスイングを軽々とかわしてガラ空きの脇腹に青龍の尻尾がフルスイングでめり込む。凄まじい衝撃が信吾を襲う。
ぐぅぅっと思わず声が漏れて蹲る信吾。
距離を取っていた他の三体、白虎、朱雀、玄武も追いついてきた。
ヤバいと思い咄嗟にその三体に重力魔法を行使する。動きが鈍る三体に対して続けざまに雷魔法を放つ。
青龍は信吾に一撃を加えた後すぐに、高々と舞い上がり
三体の追撃を待っていたが雷魔法の行使で霊獣三体に隙が生まれた。その隙を見逃さなかった信吾は更に追撃しようとする。
それを見た青龍は急降下で信吾に突っ込む。
横薙ぎに振るわれた青龍の腕が信吾を襲う。
顔面を直撃するかと思われた青龍の腕は直前で信吾のガードによって阻止されたが、ガードの上からでもダメージがあり、そのまま真横に吹っ飛ばされた。
数十m地面を削り、転がり、やがて止まる。
砂埃が舞い上がり信吾の様子が見えない。
その砂埃の中からガーーンっと音がした。
直後青龍の腹に風穴が開いて霧になって消えていく。
信吾は砂埃の中から片膝立ちでコルトパイソンを撃ち込んだのだった。
続けて他の三体に向けて狙いを定める。
ガーーンと音とともに放たれる弾丸は全て三体の霊獣達に回避される。
先程青龍に当たったのはあくまでも砂埃の中からと、初見だった為に青龍は当たったが、それを見ていた他の三体はすでに対処してきている。
さすがである。
仕方なくコルトパイソンはしまい、今一度ヒヒイロカネのバットで対峙する。
剣術のように立ち回るが全く刃が立たない。バットには刃がないがとにかく刃が立たないのである。
徐々に三体の攻撃もヒットしてくる。
受けたダメージも蓄積していく信吾。
「はーい、ストップーそこまでー」
トワの声がして戦闘が終了する。




