第98話 新たな目標
「お待ちどう……って、どうした? 海崎?」
あのいつも冷静沈着な海崎がやたらソワソワしてる。トイレかな?
「あー、お手洗いなら、あっちだぞ」
「違うわよ。夜咲君、それもセクハラよ」
ムッとした海崎に軽く怒られる俺。
「ユーリは耕平のお母さんが気になるんだって」
「葵、それじゃ語弊があるわ。夜咲君のお母さんが寝てる間にお邪魔するのが、少し気まずいだけよ」
へぇ、海崎、意外と神経質なんだな。
「いや、気にし過ぎだ。つーか、母さんはむしろ喜ぶと思うぜ?」
「何で?」
「ほら、俺……友達少ないから……」
「何か思ったより理由が複雑だわ……」
哀れむような目で俺を見つめる海崎、仕方ないだろ。タイムリープ前だが、中卒の人間は友達少ないんだよ。いや、俺の勝手な偏見だけど。少なくとも俺はニート時代に声をかけてくれる人間なんて……
いや、一人だけいたか。社会人になった後でも休みの日になると『ゲームしようよ』って、毎日休みのニートの俺を遊びに誘ってくれる。先輩、いや、年上だけど失礼を承知ながらこう呼ばせて貰おう。友人が。
そうか、この時代にもあの人はいるのか、一個上の優しい優しい俺の大好きな先輩が。
タイムリープ前に、あの人は一つだけ大きな後悔を残していた。このタイムリープも何かの縁だ。その後悔がこの世界線では発生しないように、俺も動こう。ニート時代も、その前からだってたくさん世話になったんだ。悔いの一つぐらい救い上げさせてもらってもイイハズだ。実際、それぐらいしか恩返しができそうに無いしな。
不意な思い立ちだが、俺にまたひとつ、このタイムリープの目標ができた。目標とは素敵な事だと思う。今を一生懸命に生きてるって言うそんな言葉と似た意味の素敵な言葉だと俺は思う。
「どうしたの? 耕平」
「夜咲君、固まってるわよ」
野菜ジュースとグラスをトレイに乗せながら、固まる奇怪な夜咲☆野菜ジュースバーテンダーを葵と海崎は不思議そうに見つめる。
「ああ、悪い。ちょっと目標をな。っうし、野菜ジュースで乾杯だ。まあ、葵、無理だったら、無理って言えよ? 無理して飲まなくて全然いいからな?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
と、トクトクと三人分の野菜ジュースを注いで、いざ、乾杯! と、言う所で母さんが階段から降りてくる。
「おや、お客さんかい? って、あら、葵ちゃんと」
「お邪魔してます。初めまして。海崎遊莉と申します。夜咲君とは中学がずっとクラスが同じです」
「あらあら、ご丁寧にありがとう。耕平の母です。ごめんなさいね。寝起きで、お恥ずかしい」
あのー、乾杯を……




