第97話 来訪
*
「ここが夜咲君の家? 全然ボロくないじゃない」
「そりゃどうも。二人とも上がってくんだろ? 何もないが野菜ジュースかお茶ぐらいなら出してやるよ」
「その二択なの?」
海崎は呆れ顔だ。今の会話のどこに不自然が?
「耕平のお母さん、今日はいるの?」
「いると思うぞ。まだ寝てるかもだけど」
「あ、何か、それスゴい申し訳ない」
「まあ、大丈夫だよ。二人とも上がれよ」
そう言うと「「お邪魔します」」と、丁寧に家に上がる。
「母さんはまだ寝てるな。まあいいか」
テレビのあるリビングに二人を案内し、
「で、麦茶と野菜ジュースどっちがいい?」
と、飲み物のリクエストを聞く。
「そうね、じゃあ、私は野菜ジュースを頂けるかしら?」
「お、いいねぇ。海崎はイケる口か? たくさん飲んでってくれ」
「え、何か、耕平嬉しそう!? わ、私も野菜ジュース貰おうかな、よろしくお願いします……」
「珍しいな。葵も飲むのか?」
タイムリープ前に葵が野菜ジュースを飲んでる所を俺は見た記憶は無い。
野菜ジュースの第一人者たる俺は布教活動にも勤しんでいた。でも、葵は「うー、野菜か。苦そう……」と、あまり野菜ジュースに好印象は得られなかった。
ちなみに葵は甘い物が好きだ。スイーツやフルーツは勿論のこと、炭酸飲料も見た目に沿わずガボガボ飲んでたりする。世界一有名な黒い炭酸飲料やメロンソーダにオレンジジュース等を特に好む傾向がある。
「うん、飲んでみる。初めて飲むけど、残さないように頑張るね!」
そんなに気合いを入れなくてもイイんだけどな。まあ、いいか。と思いながら俺は「ちょっと待ってな」と、飲み物を、もとい、野菜ジュースを持ちに行く。
冷蔵庫に常備してある野菜ジュースのパックを二つ手に取り、三つ揃いのグラスを持ってリビングに戻る。この三つ揃いのグラスは父さんの形見とも読んでイイかもしれない。昔、父さんが家族三人にお揃いのグラスをって何故か大晦日に買ってきた品物だ。
別に、特別安くもなく、高くもないグラスだが、今家にあるグラスの中で見映えもよく、三人でバラ付き無く飲めるのは、コイツがベストだろう。記念すべき葵の野菜ジュースデビューでもあるしな。
ふと、耳を傾けると外はまた雨が強くなったみたいだ。ザーっと、雨の降る音が家に少しばかり響く。
すいませんね。古い家なもんで。でもまあこの家以外に俺が住むことなんて、まず考えられないんだけどな。タイムリープ前は13年も自宅警備をした、愛着のある家だ。ちょっとやそっとじゃ俺はこの家を離れられそうに無いな。
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