第74話 小さな朝のお花見2
「あ、ほら、そこの窓から、庭の桜が見えるだろ? 一本だけでショボいかもだが──」
と、窓を指差すと、葵は部屋の中ばかり見ていて、窓の外まで意識が行って無かったらしく、その存在にやっと気づくと「!」と、目を輝かせる。
「凄い、凄いよ! 高さも丁度だし、満開だよ!」
社交辞令でショボいとは言ったが、庭にあるのは立派な桜の木であるソメイヨシノだ。大きさも中々の物で満開の今は見頃と言って問題ないだろう。正直、家にあるのが変なレベルでずば抜けてこの桜はイイ品物だ。結構金かかったろうなー。
まあ、父さんが植えた物だから、その頃はまだ金も少しぐらいは余裕はあったんだろう。
「はい、お待たせ」
母さんが朝食を運んでくる。
サンドイッチに野菜スープとデザートに母さん特製ゼリーだ。
お、サンドイッチの具が豪華だな。ローストビーフが入ってる。他はベーコンレタストマトや玉子サンドだ。まあ、軽い花見には丁度イイ所だろう。
「あ、すいません! 言ってくれたら、私、運びましたのに!」
「いいんだよ。葵ちゃんはお客さん何だからさぁ、耕平はちゃんと起きたかい?」
「起きてるよ。葵の電話で目が覚めた。っと、飲み物がまだだな。葵、野菜ジュースとオレンジジュースどっちがいい?」
何もしてないし、飲み物だけでも持ってくるか、と、俺は重い腰をあげる。
「え? その二択なの!? じゃ、じゃあ、オレンジジュースで……」
「……そうか。分かった」
「あ、何か寂しそう。耕平、野菜ジュース好きだよね……『給食に何故、牛乳が採用され、野菜ジュースが省かれたのかは昭和から平成にかけての大いなる謎だ』とか、去年言ってたよね? ユーリが大爆笑してたよ」
え? 俺そんなこと言ってた? この時代の去年は俺的には16年以上前なんだよな。覚えてねー。
あー、海崎の楽しそうな顔が目に浮かぶぜ。
「野菜ジュースはルネッサンスの三大発明『活版印刷術』『羅針盤』『火薬』──果てはエジソンの『電気』に劣るとも勝るとも言わん、素晴らしい発明だ」
そう告げる俺に「ルネ、ルネッサンス……髭……? あ、朝から勉強の話はやめようよー!」と、葵は言ってくる。
紙パックのオレンジジュースと野菜ジュースを持ってくると、母さんが「じゃあ、ごゆっくり。学校には遅刻しちゃダメよ」と言いながら、階段を降りていった。
にしても、葵と朝から一緒に食事か。
俺のタイムリープは随分と充実してるようだ。
あーあ、楽しいな。学生生活。俺はこんな楽しいことをほっぽって惰眠を貪ってたんだな。本当にバカだよ。タイムリープ前の俺は、この大バカ者め。
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