第34話 鳥幸食堂2
カウンター席には客がいたので俺はソロで申し訳ないが、四人席のテーブルに一人座り、適当に日本一有名な葛飾区が舞台の警察漫画を読んで待つ。これ面白いよな。
実写ドラマ化もしたよな。主人公のキャストは確か俺も好きな国民的男性アイドルグループの一人だ。
大体一話完結の話を三話ほど読んだところでラーメンが出てきた。
「腹一杯食べてけの。育ち盛りじゃからな、耕坊は」
ぶわっと鼻に抜ける煮干しの香りが堪らない。
味がバラつきがある店だが今日は当たりっぽいぞ!
「いただくぜ」
割り箸を二つに割り、レンゲでスープを一口すする。
(う、美味い……! 美味過ぎる!)
濃い口醤油に鶏ガラと煮干しのスープ。
一口、スープを飲めば、醤油の深いコクと鶏油の浮いた鶏ガラと煮干しのスープがまるで魔法にかかったみたいに美味い。醤油と鶏と煮干しの美味い所を惜しみ無く集めて凝縮したような一杯だ。麺は中太ちぢれ麺。このラーメンに相応しい麺だ。確か茹で方にコツがあると聞いていたが、詳細は知らない。
ちなみにレシピは企業秘密らしく松爺しか知らない。本人曰く自分が辞めたら幻のラーメンとして語り継がれたいらしい。実際、タイムリープ前の松爺が倒れた後は本当に幻のラーメンとなってしまった。
スープ一滴残さず全汁完食した俺は大満足の食事を終える。腹一杯だ、大盛りは麺二玉あるからな。
お冷やまで残さず飲み、読んでた漫画をもう少し読みたいなと、ちょっと惜しみつつも本棚に戻し、俺はレジへと向かう。
「松爺、ご馳走さま。本当に美味かったよ」
本当に世辞抜きで美味かった。しかも日によってバラつきのあるラーメンだが、今日は所謂、当たりの日だったからな。
「はい、お粗末様。650円だよ」
この店のラーメンは値段も昭和価格だ。ラーメンは一杯550円。大盛りは+100円という大変リーズナブルなお店なのである。
俺は千円札を出し350円のお釣りを受けとる。
「なあ、松爺。最近、酷い頭痛とか、手が痺れるとか無いか?」
「なんじゃい急に? そうじゃのう、足腰は少し悪くなってるが、そう言うのは無いの」
「もしそんな症状が出たら直ぐに病院へ行ってくれ」
「わしは病院はちと苦手でのう。店もあるしの」
それじゃダメなんだ。
あんた、それで倒れて死んじまうんだよ。
タイムリープ前の松爺の葬儀には引きニートの俺すらも参加した。凄く混んでいたのを覚えている。
仕事の付き合いの連中もいるんだろうが、それでもあんたが亡くなると大勢が悲しむんだ。
「頼む、店を休んでも。自分の体を優先してくれ。じゃないと……松爺、あんた脳梗塞で死んじまうんだよ」
「……耕坊、どうしたんじゃ? 顔色が悪いぞ」
「俺の事はいいんだ。なあ、頼むよ、松爺。病院を嫌うなとは言わないが、逃げないでくれ。俺は松爺に長生きしてほしいんだ」
気づくと俺の声は震えていた。
溢れそうになる涙を必死に堪えた。
片親で、しかも夜勤の母さんの代わりに、昔、夏休みに何処へも出掛けられなかった俺を、松爺は店を休んでまで、釣りに連れてってくれたよな。
あの時の自分たちでイワナやニジマスを釣った感激と塩だけで焼いたのにこんなに美味いのかっていう衝撃は今でもよく覚えてるんだぜ。
面と向かって言うと少し照れ臭いけどあんたは俺の家族も同然なんだ。
「耕坊……」
何で? とは聞かれなかった。いつもと明らかに様子が違う俺に松爺はそれでも真剣に話を聞いてくれた。代わりに俺はポンポンと優しく背中を叩かれ、顔をあげると、優しく微笑む松爺の顔があった。
「わしの為にそんな顔をしてくれたんじゃのう。分かった。何か変なことがあれば病院に行く」
松爺は頷いてくれた。
「ああ、約束だぜ。松爺」
そう言い残し、ちょうどそのタイミングで入ってきた新しい客と入れ替わるように、店を後にする──
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